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新型肺炎がインバウンド需要の減少を通じて日本経済に与える影響試算

2020年01月27日

日々急増する新型コロナウイルスの感染者数

中国の武漢で発生した新型コロナウイルスの感染者数は、日々急速なペースで拡大を続けている。確認されている感染者の総数は1月26日時点で2,000人超である。しかし、英国・インペリアルカレッジロンドンの研究チームは、18日時点で累計4,000人が感染していたとする推計を発表した。また、北海道大医学研究院の西浦博教授らは24日に、中国での感染は5,500人規模に広がっているとする推計結果を発表している。

2003年に拡大を見せたSARSと比べて、新型コロナウイルスの感染力は低いとされるが、感染者数についてはSARSの約8,000人へと今後近付く可能性も十分に出てきたのではないか。

他方で、2003年から現在に至るまでの経済構造の変化を踏まえると、新型コロナウイルスが中国経済に与える悪影響は、より増幅される面がある。それは、消費経済化の進展という構造変化である。03年のSARS流行のピーク時には、中国の小売売上高の増加率は前年比で半分ほどまでに落ち込んだ。当時と比べて中国経済の個人消費への依存度がかなり高くなっている点を踏まえると、同程度の消費への悪影響が生じた場合でも、経済全体への影響はより大きくなる。


SARS発生時には訪日観光客は大きく減少

ところで、新型コロナウイルスによる新型肺炎の日本経済への影響について考えてみた場合、2003年に拡大を見せたSARS発生時と現在との大きな違いは、中国及びその他地域からの訪日観光客の急増である。2002年と2019年の間に、中国からの訪日観光客数は21.2倍、訪日観光客数全体では6.1倍にも増加している(日本政府観光局の統計による)。

新型肺炎が訪日観光客の減少、そして日本での消費活動、いわゆるインバウンド需要を減少させる場合、それが日本経済に与える悪影響は、SARSの発生時よりも格段に大きくなる可能性がある。

SARS発生時にも中国、アジア諸国、あるいはその他国からの訪日観光客数は一時的に大幅に減少した。同様な事態が今後生じてくる可能性は十分に考えられる。それは、中国側からの海外渡航規制や自粛、アジア地域を中心に広がる新型コロナウイルスへの感染を警戒して、欧米などからも訪日が自粛されるためだ。実際、中国政府は25日に、国内の旅行会社に対してすべての団体旅行を中止するように命じた。中国国内での団体旅行は24日から既に停止していたが、日本を含む海外旅行も27日から取りやめとなる。中国からの日本向け旅行では、団体旅行が全体の3分の1程度を占めるという。

そこで以下では、SARS発生時と同程度の割合で訪日観光客数が減少した場合に、現在の日本のGDPをどの程度減少させるかについて試算を試みた。


日本の2020年GDPは7,760億円押し下げられる

SARSの発生が最初に確認されたのは2002年11月であったが、世界的に注目を集めるきっかけとなったのは、2003年2月に中国に渡航したアメリカ人ビジネスマンが、シンガポールへの飛行中に肺炎の症状を示したことだった。訪日観光客の増加率も、その2月に大きく低下したのである。

そこで、2003年1月時点での訪日観光客数の前年同月比と2003年全体の訪日観光客数の前年同月比との差を、SARSの影響による訪日観光客数の減少分と見なしてみよう。その影響は、中国からの訪日観光客数でー13.0%、訪日観光客数全体では-15.4%となる。

新型肺炎の影響により、2020年の訪日観光客数がこれと同じ割合で減少するとした場合、中国からの訪日観光客数の減少は2020年の日本のGDPを2,650億円押し下げ、訪日観光客数全体では7,760億円押し下げる計算となる。ちなみに後者については、GDPを0.14%押し下げる計算だ。


悪影響が1年続く場合にはGDPは0.45%も下落

ただし、SARSの場合には、訪日観光客数に影響を与えたのは数か月程度と比較的短期間にとどまった。2003年5月単月の数字を見ると、中国からの訪日観光客数は前年同月比-69.9%、訪日観光客数全体では同-34.2%とかなり深刻な影響が生じた。仮にそれと同程度の影響が1年間続くと仮定して、同様に計算をしてみると、新型肺炎の影響で日本のGDPは2兆4,750億円、実に0.45%も押し下げられる計算となるのである。

上記は、新型肺炎がインバウンド需要の変化を通じて日本経済に与える影響を試算したものだ。実際には、日本人の個人消費悪化の影響、企業の生産活動停滞の影響、海外経済減速の影響なども加わってくる可能性がある。

新型肺炎が日本経済に与える影響については、今後の感染者数の推移、感染力の変化などによって大きく変化しうるが、仮に事態がSARS発生時に近づいていく場合には、相応の悪影響が日本経済に及びうることを、以上の試算は示している。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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