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今年の春節の中国人旅行動向と新型コロナウイルス

2020年01月22日

春節の中国周辺国への海外旅行で日本はトップ

1月25日の中国の春節(旧正月)が、いよいよ近づいてきた。前日の24日はいわゆる大晦日となる。中国最大のオンライン旅行会社Ctripによると、今年は延べ4億5,000万人の中国人が旅行に出かけると予想されている。これは全人口の32%、つまり3人に1人に相当する数字だ。まさに、国民の大移動が中国では起こるのである。

以前は大晦日を家で過ごしてから旅行に出かける人々が多かったそうだが、最近では、春節連休前にツアーで旅行に出かける人々が増え、旅行先でお正月を迎えるのがトレンドになっているという。そのため、大移動は春節の前に、既に始まっている。

中国海外旅行研究所の予測では、2020年の春節連休中の海外旅行者は、延べ700万人超になる見込みだ。これは昨年の631.1万人をから2桁での増加ペースである。

中国の大手オンライン旅行会社Trip.comの統計によると、今年の中国周辺国への海外旅行では、日本が人気トップである。次いでタイ、シンガポール、マレーシア、ベトナム、インドネシア、フィリピンといった順で人気がある。

周辺国への海外旅行先で日本がトップであることは、日本への経済効果の観点からは本来喜ぶべきことだが、中国で発生した新型コロナウイルスによる肺炎が広がる現状下では、日本人にとっては残念ながら懸念材料ともなっている。


訪日中国人観光客の最大の目的は引き続き買い物

春節連休中に訪日する中国人観光客が日本で計画しているものとしては、今年は体験型商品の「雪見」、「温泉」、「ウィンタースポーツ」の人気が高いとの予想がある。このように、中国人観光客の日本での消費の中心が、「モノ消費」から「コト消費」に変わっていると言われて久しい。

しかし実際には、モノの消費意欲も衰えてはいないようだ。ウェイボなど中国のSNSからの分析(株式会社トレンドExpress)によると、中国人観光客の訪日の目的では依然「買い物」がトップである。10位以内には他に、「カプセルホテルに泊まりたい」、「ドラマ・映画・アニメ聖地巡りをしたい」などがランクインしているという。中国人観光客を通じて新型コロナウイルスの感染を警戒する日本人にとって、外国人観光客が多く集まる小売店の入店は避ける傾向が今後出るかもしれない。


症状が比較的軽いがゆえに感染が広がりやすい

厚生労働省の水際対策の柱は、全国の空港や海港の検疫所にあるサーモグラフィーだ。人々の体温を感知し、感染者を洗い出す。しかし、先日日本で見つかった感染者は、解熱剤を飲んで空港の検疫所を通過していたため発見できなかった。そのため、武漢や上海からの入国客に対しては、体調や薬の服用状況を申告するよう呼び掛けるカードを配る方針だという。

春節を前に、人が触れやすい場所を中心に、消毒を徹底するホテルなどが日本では出てきている。他方、中国で新型コロナウイルスによる肺炎が集団発生していることを受けて、神奈川県箱根町の駄菓子店が「感染を避けるため」として、中国人の入店を禁止する中国語の貼り紙を掲示したことを、22日付けの朝日新聞が報じている。貼り紙には、「中国人は入店禁止」、「ウイルスをばらまかれるのは嫌だ」との趣旨の記載があったという。この店主には既に批判が寄せられている。感染を警戒するといっても、店側が顧客である訪日観光客からの信頼を大きく損ねるような行動をとることは、つつしまなければならない。

2002~2003年年に流行したSARSでは、775人が死亡した。人から人に飛沫感染し、感染者の中には1人から十数人に感染を広げる、いわゆるスーパースプレッダーがみられたのである。また、2012年に確認されたMERSでは、858人の死者が出ている。今回の新型コロナウイルスは、少なくとも現時点では致死率や重症度はSARSなどよりも低いと考えられている。

しかしこの点が、逆説的であるが、むしろ感染の拡大を助けてしまうという面もある。症状が軽微であるがゆえに、本人が感染を自覚せずに旅行などに出かけ、感染を広げてしまう可能性があるからだ。


中国からの訪日観光客の間でも感染防止商品への需要が増加か

こうした点から、日本の消費者の間では、中国からの訪日観光客が増加する春節の時期を中心に、外出を伴う買い物を控える動きが出てくる可能性がある。そうなれば、経済活動にも逆風となるだろう。

ただし現在のところは、多くの日本人はなお冷静さを維持しているように見える。多くの人は、以前からインフルエンザへの対応を進めており、当面の行動はその延長線上にとどまるようにも思われる。具体的には、手洗いやマスクの着用などである。

新型コロナウイルス対策のための関連商品への需要は、日本人だけでなく、中国からの訪日観光客の間でも広がることが予想されている。新型コロナウイルスへの警戒から、既にマスクや抗菌スプレーなど感染拡大を防ぐ製品の需要が国内で高まっている。小林製薬の「のどぬーるぬれマスク」、ユニ・チャームのマスク、大幸薬品の除菌消臭ができるゲル剤「クレベリン」等の売れ行きが増加している。訪日中国人観光客も、訪日時にこうした商品を買い求める可能性があるだろう。例えば、名古屋に本社を置くマスク製造のアラカスのマスクは、SNSで話題になるなど、中国国内で非常に人気があるという。

こうした点を考えると、現時点で新型コロナウイルスの発生が日本経済に対して明確な悪影響を与えているとは未だ言えない。しかし、新型コロナウイルスを巡る状況は日々変化しており、日本国内でより感染の拡大が警戒される事態となれば、日本経済に深刻な影響が及ぶことが避けられなくなるだろう。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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