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日銀の黒田総裁の記者会見-Communication strategy

2020年01月21日

はじめに

日銀は、今回(1月)の金融政策決定会合で、事前の予想通りに金融政策の現状維持を決定した。また、MPMメンバーは、政府の経済対策の効果を織り込むことで景気見通しを上方修正したが、景気や物価の下方リスクは大きいとの警戒感を維持した。


景気見通し

今回(1月)改訂された見通しの本文は、外需に関しても前向きな見方を示した。つまり、輸出は当面弱めの動きを続けるとしつつも、その後は、主要国での経済対策やITサイクルの改善等によって、緩やかに回復するとの期待を示した。このような動きは鉱工業生産の回復につながることになる。

加えて、見通しの本文は内需の底堅さも確認した。なかでも、設備投資については、都市再開発や省力化、研究開発等に関する企業の積極姿勢を映じて、見通し期間を通じて拡大を続けるとの見方を維持した。

家計に関しても、足元での弱さは自然災害の影響や消費税引き上げ前の駆け込みの反動といった一時的要因による面が大きいとし、基調的には所得から支出への好循環が維持され、底堅い動きを続けるとした。黒田総裁も、直近の指標によれば耐久消費財の売上げに回復の兆しがみられると説明した

これらに加えて、MPMメンバーは今回の見通しに経済対策の効果を盛り込んだ訳であるが、その内容がインフラの復旧などのような短期的な視点と、生産性の向上のような長期的な視点の双方を含むだけに、経済成長率の押し上げ効果も今後数年に割り当てられたようだ。

結局、 MPM に よ る 2019 ~ 21 年 度 の 実 質 GDP 見 通 し は+0.8%→+0.9%→+1.1%となり、前回(10月)に比べて、2019~20年度が各々0.2pp、2021年度が0.1ppの上方修正となった。


物価見通し

今回(1月)のMPMは、2019~2021年度のCPIコアインフレ率の見通し(消費税率の引上げと教育無償化の影響を除くベース)を+0.4%→+0.9%→+1.4%と改訂した。これは、前回(10月)に比べて、各年度ともに0.1ppの下方修正を意味する。

見通しの本文は、インフレ率が今後もいくつかの構造的な要因によって下押しされるとの見方を確認した。その上で、今回のわずかな下方修正については、既往の原油価格の軟調さなどを理由として指摘した。

記者会見では、数名の記者が、景気見通しを上方修正しながら物価見通しを下方修正したことの整合性を質した。これに対し黒田総裁は、物価の下方修正が上記のような技術的要因によることを確認した上で、今回(1月)の物価見通しは基調的には前回(10月)と概ね不変との理解を示した。

この点に関して逆に言えば、前回(10月)の見通しは、より低い経済成長に対して、より高いインフレ率の組み合わせを予想していただけに、整合性を問うのであれば、むしろその点を取り上げるべきであったとも言える。

いずれにしても、MPMが今回(1月)示した見通しが実現すれば、 2021年度にかけて潜在成長率を明確に上回る成長を続けると同時に、物価も1%の中盤に向かって徐々に加速するという、かなり良好な経済状況が出現することになる。


金融緩和の副作用

今回(1月)の記者会見でも、副作用に関する質問がいくつか示された。一つの焦点はマイナス金利政策であり、約4年に亘って継続したことで金融仲介に対する副作用が深刻化しているとの懸念が示されたほか、リクスバンクがマイナス金利を解除したことの意味合いへの質問が示された。

黒田総裁は、マイナス金利政策には副作用があり得る点を認めたうえで、現時点では景気刺激効果が上回るとの理解を確認した。また、銀行システムの自己資本は総じて健全であり、銀行貸出も緩やかながら増加を続けているとして、金融仲介への副作用は観察されないと説明した。

もう一つの焦点は長期金利の水準であり、昨年秋以降の長期金利の上昇を歓迎するか否かを問う質問が示された。黒田総裁は、こうした動きが、10年国債の利回りが目標近傍で相応に変動することを許容する、現在のYCCと整合的であるとの見方を示した。

さらに黒田総裁は、10年超の国債利回りが依然としてやや低いとの理解も示した。この点は、昨年秋以降のインタビューで、家計のマインドに対する悪影響を考慮すると、超長期の金利が過度に低い事態は望ましくないとの考えを示した点と整合的である。


見通しに対するリスク

先に見たように総じて前向きな見通しを示したにも関わらず、今回(1月)のMPMは、景気と物価の双方について、リスクは依然として下方に傾いているとの判断を維持した。

黒田総裁は、海外経済に関する不透明性は若干低下したが、なおその水準は高いと指摘した。また、見通しの本文は、GDPギャップの好転がインフレを加速させるメカニズムが、様々な構造要因によって抑制されるリスクを引続き指摘している。

先行きのリスクに対する慎重な姿勢は、日本銀行に限った話ではなく、少なくとも現時点で米欧の中央銀行も共有している懸念である。一方で、見通しのメインシナリオが実現した場合の景気や物価を考えると、金融政策の先行きに対する予想を安定化させておくことも重要になっている。


Low for longerの教訓

低成長と低インフレ、低金利の長期化が、経済や金融と政策対応にどのような影響を持つかという議論は、再びグローバルにも注目を集めている。記者会見では、日本の経験に基づく教訓を問う質問が示された。

黒田総裁は、①こうした状況ではデフレマインドの除去が困難となるため、そもそも陥らないことが重要、②バブルの崩壊はそうした状況の原因となりやすいだけに、金融システムの安定維持が重要、③そうした状況からの脱出を目指して政策効果を確保する上では、潜在成長率の引上げが重要と説明した。少なくとも②と ③には広くコンセンサスがあるように思われる。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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