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中東情勢悪化の日本経済への影響(シナリオ分析)

2020年01月09日

中東情勢緊迫化で円高・株安も日本経済に打撃

8日のイランによるイラク米軍基地へのミサイル攻撃に対して、トランプ米政権が軍事的な報復措置をとりあえず控えたことで、9日の金融市場は安定を取り戻した感がある。しかし、トランプ政権はイランに対する経済制裁の強化を決めるなど、両国間の対立は強まる方向にあることは変わらない。今後は両国間での軍事的な対立が強まり、それが中東地域全体の紛争状態へと発展するリスクも依然として排除できない。

米国の金融緩和や中国の景気対策の効果などから、世界経済は緩やかに持ち直す方向にあると考えられる。日本経済については、足もとまでは製造業を中心になお弱さが目立つが、今後は海外需要の持ち直しと国内での景気対策の効果などを受けて、やはり緩やかに持ち直す方向と考えられる。年初来の中東情勢緊迫化を受けても、この見通しがメインシナリオであることは変わらない。

しかし、今後の中東情勢の展開次第では、こうしたシナリオが崩れ、内外経済が失速状態に陥る可能性がある。中東情勢の悪化は、原油高を引き起こすのみならず、市場のリスク回避傾向を高めて円高傾向を強める。また円高は株安を生じさせやすい。この円高・株安の同時進行こそが、日本経済への打撃を、他国と比べて増幅させやすい。以下では、こうした点を検証してみたい。


中東情勢緊迫化が原油高・円高・株安を通じて日本経済に与える影響を試算

図表1では、原油高・円高・株安の日本経済への影響をそれぞれ試算した。さらに図表2ではその結果を用いて、3つのシナリオ(ステージ)に基づいて、中東情勢の緊迫化が日本経済に与える悪影響を計算している。

ステージⅠは、米国とイラクとの間での軍事的な対立が強まるケースだ。これは、現在、金融市場が想定している標準的なリスクシナリオと言えるのではないか。10%の原油価格上昇、3%の円高、10%の株価下落を前提に試算すると、日本のGDPへの影響は-0.3%程度となる。概ね2年程度の影響と考えた場合、これだけで日本経済が一気に失速することにはならないのではないか。金融市場が想定している標準的なリスクシナリオのもとでも、日本経済には中東情勢の緊迫化に対する耐性が相応にあると考えられる。

他方、イランがイスラエルに攻撃を仕掛けるなど、軍事的な対立がさらに他の中東諸国へも広がり、各国の石油関連施設にも相応の被害が生じることを想定したのがステージⅡである。この場合、日本のGDPへの影響は-1.0%程度となり、日本経済が本格的な景気後退に陥る可能性が高まる。

さらに、イランが中東各国のシーア派支援組織を総動員するなどして、中東地域全体で深刻な紛争がぼっ発する、ホルムズ海峡が封鎖されるなど、世界の原油供給に深刻な支障が生じる、といったまさに悪夢のような事態まで想定したのが、ステージⅢである。日本のGDPへの影響は-1.5%程度となる。この場合、世界経済は深刻な景気後退に陥るだろうが、日本経済への打撃は他国に比べてもより深刻となる。

ステージⅠが示すように、今後の中東情勢の悪化に対して、日本経済は相応に耐性があると考えるが、事態がさらに悪化すれば、内外経済が緩やかに持ち直すというシナリオが崩れてしまうことも確かだ。中東情勢については、実態と比べて現在の金融市場の認識がやや楽観的過ぎる点が気になるところだ。



Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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