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後退傾向が色濃くなった全世代型社会保障改革

2019年12月19日

押し返された社会保障制度改革

自民党は12月17日に、人生100年時代戦略本部で全世代型社会保障改革に関する提言をまとめた。提言は、政府の全世代型社会保障検討会議が19日にまとめる中間報告に反映される。各種利害団体との調整や与党内での調整を経た結果、給付抑制など高齢者の負担増加は、当初の議論と比べて限定された。

年金制度改革では、厚生年金制度のパートタイム労働者への適用拡大を図り、当初は適用対象となる企業の規模の基準を、現在の「従業員数501人以上」から「51人以上」へと一気に広げる方針だった。しかし、中小企業の保険料負担の増加に配慮して、2段階で適用対象を拡大させ、2024年に「51人以上」の企業を対象とする案へと修正された。

在職老齢年金制度の見直しでは、勤労意欲を削いでいるとの批判を受けて、当初は制度の廃止を検討していたが、高所得者優遇との指摘もあり、最終的には65歳以上の人で年金給付の削減措置が実施される基準月収額(含む年金)を、現状の47万円に据え置くことになった。

医療制度改革では、当初、75歳以上の後期高齢者の医療費の窓口負担を現在の1割から2割へと引き上げる案や、すべての病院で受診時に100円など一定額を負担する制度、いわゆる「ワンコイン負担」の新設が議論された。しかし自民党の支持団体である日本医師会が患者の負担増に反対したことなどから、当初の改革案は修正を余儀なくされた。

提言は、後期高齢者の窓口負担を現在の1割から引き上げる方針を示したものの、一定以上の所得がある人に限り、また、その基準は明示されなかった。大病院で紹介状がない患者が受診した際に限って一定額を上乗せする措置を示したが、すべての病院で一律に負担するワンコイン負担制度は、「合理的な理由がない」として盛り込まなかった。

産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)の合同世論調査では、75歳以上の医療機関における窓口負担について、「原則1割を維持すべきだ」との回答が55.0%に上る一方、「原則2割に引き上げるべきだ」との回答は39.4%にとどまった。後期高齢者の窓口負担を一律2割負担とする案については、こうした世論、有権者の意見に配慮して後退させた面も強い。


社会保障制度と税制の一体改革を

現政権が政策の柱として打ち出した全世代型社会保障改革も、今回の自民党の提言を見る限り、かなり中途半端なもので終わりそうだ。2022年からは、1947~49年生まれの団塊の世代が後期高齢者の75歳以上となり始め、社会保障給付額は大幅に増加する局面へ突入する。その前の、いわば最後の抜本改革の機会を政府は逃しつつある。

ところで、自民党はこの提言の中で、「年齢ではなく負担能力(所得と資産)に応じた負担といった視点を徹底する必要がある」として、いわゆる応能主義の原則を示している。この指摘は正しい。高齢者といっても、所得、資産面での格差は非常に大きく、高齢者間での所得再分配をさらに進めることは重要なことだ。

世代型社会保障改革と銘打つと、現役世代への給付増加も加わり、社会保障財政の改善は進みにくくなる。今後は、社会保障制度改革を税制改革と一体で進めるとの方針を示すことが必要ではないか。自民党には、新たな応能主義の具体策を提示することを期待したい。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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