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政府・日銀の協調策と財政ファイナンスとの境は曖昧

2019年12月18日

日本銀行は追加緩和を見送る

日本銀行は、12月18、19日に今年最後の金融政策決定会合を開く。短期金利引下げなど、本格的な金融緩和策が実施される可能性はほぼなく、政策は現状維持となろう。

日本銀行が追加緩和実施を余儀なくされるきっかけと考えられる円高進行は足もとでは見られず、心理的にクリティカルな水準である1ドル100円にはなお相応の距離がある。国内経済は製造業で弱い動きが続いているものの、全体としては安定を維持するなか、海外経済、特に中国経済では改善の兆しも見られ始めている。さらに、米連邦準備制度理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)は共に12月の会合で追加緩和の見送りを決め、当面は政策を維持する見込みだ。

こうした環境のもとで、日本銀行が本格的な金融緩和措置を実施するとはとても考えられない。効果がないだけでなく副作用が心配な追加緩和措置を、日本銀行としては、できれば実施したくないのが本音だろう。


前回の経済対策発表後にはETF買入れ増額を決定

前回10月の決定会合以降生じたイベントの中で、日本銀行にとって最も重要なのは、政府が事業総額で26兆円規模の大型経済対策を閣議決定したことだろう。これに日本銀行がどのような反応を示すかが、今回の金融政策決定会合での最大の注目点となる。

2016年7月に政府が前回の大型経済対策を打ち出した際には、その直後の金融政策決定会合(2016年7月29日)で日本銀行は、ETF買入れ額を年間約3.3兆円から約6兆円におよそ2倍に増額する緩和強化策の実施を決めた。

今回も、ETF買入れ増額で日本銀行が政府との協調を演出する可能性を一応念頭に置いておく必要はあるものの、その可能性は低いだろう。短期金利引下げといった本格的な金融緩和措置で協調を演出する可能性はほぼゼロだ。

景気情勢が厳しく、また円高が進行しているような局面であれば、政府が大型経済対策を打ち出せば、日本銀行は協調策として金融緩和策の実施を強いられたことだろう。しかし現状では、経済・金融情勢は比較的安定している。こうした場合日本銀行は、政府の大型経済対策との協調策を実施するのではなく、政府の経済対策を評価するリップサービスをこのタイミングで示し、協調姿勢を演出する可能性があるだろう。

2016年7月の決定会合では、対外公表文に「日本銀行としては、(中略)きわめて緩和的な金融環境を整えていくことは、こうした政府の取り組みと相乗的な効果を発揮するものと考えている」との表現が付け加えられた。ETF買入れ増額を、政府の経済対策との協調策と位置付けたのである。今回も、このような協調姿勢を演出する文言が対外公表文に加えられる可能性は十分に考えられる。


協調策の効果を説明するIS―LM分析

黒田総裁は、政府の財政政策と金融政策との協調の重要性を常に強調してきた。これは、「日本銀行は、(中略)政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない」と謳う、日本銀行法第4条の規定を念頭に置いた発言だろう。

他方、中央銀行が政府の国債管理政策に協力する「財政ファイナンス」については、頑なに否定している。しかし両者の違いは、実はそれほど大きくないのではないか。

日本銀行が財政拡張策と金融緩和政策との協調の重要性を説く場合、念頭にあるのは基礎的な経済学のIS―LM分析だろう。詳細な説明は省くが、このモデルの下では、財政拡張策は金利の上昇をもたらし、それを通じて効果が一部削がれてしまう。これが、いわゆるクラウディングアウトだ。しかし、財政拡張策と同時にマネーの供給を増やす金融緩和策が講じられれば、クラウディングアウトを生じさせず、財政拡張策の効果を高めることが可能となるのである。

ちなみにこの分析に基づくと、財政拡張策と金融緩和政策の協調策は、それぞれ単独で実施した場合と比べればより大きい景気刺激効果を生むが、相乗効果は生じない。日本銀行が2016年7月の決定会合の対外公表文で示し、その後も何度か説明に用いている財政政策と金融政策との「相乗的な効果」とは、全く検証されていない、実体のないものだ。


金融市場の「財政ファイナンス」観測が強まる

政府も上記と同様のモデルを念頭に置いているのだろう。日本銀行が異例の金融緩和策を継続あるいは強化するもとでは、政府が国債の新規発行増額を通じて調達した資金で財政拡張策を実施しても、金利が上昇してその効果が削がれることはなく、また、国債の消化は円滑になされ続ける、との政府の認識が今回の大型経済対策の前提にあるのではないか。その際に、日本銀行が大型経済対策とタイミングを合わせ、金融緩和策を実施すれば、それは日本銀行の独自の判断に基づく純粋な金融政策であると日本銀行がいくら強調しても、実質的には「財政ファイナンス」に近いものとなる。そしてそれは、財政政策と金融政策の双方の信認を損ねてしまうリスクがあるのだ。

今回、日本銀行は政府との協調を演出した追加緩和策を実施しないだろうが、対外公表文で日本銀行が協調姿勢を演出するだけでも、金融市場の「財政ファイナンス」観測を強め、金融政策の信認を低下させてしまうリスクがあるだろう。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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