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保守党圧勝で英国はEU離脱も混乱は今後も続く

2019年12月13日

来年1月末にEU離脱へ

英メディアの出口調査の結果等が示すところでは、12日に実施された英国総選挙の結果、ジョンソン首相率いる保守党が下院で圧倒的過半数を確保する可能性が濃厚となっている。

最大野党の労働党は、英国のEU離脱の是非を問う国民投票を再度実施するとの主張を掲げて選挙に臨んだが、3年以上にわたって続くEU離脱を巡る政治の混乱を終わらせたいと考える国民が、保守党の支持に多く回った可能性が考えられる。

実際に保守党が下院で過半数の議席を押さえれば、2020年1月末のEU離脱がほぼ決定的となる。ジョンソン政権は12月17日にも新議会を開き、クリスマス休暇入りまでにEUと合意した離脱案の審議を再開する方針である。来年1月中にこの離脱案が可決されれば、1月末のEU離脱となる。

しかしこれは、EUとの間での関税同盟が失効し、英国経済を大きな混乱に陥れる「合意なき離脱(ハードブレグジット)」となることを意味するものではない。2020年末までは離脱のショックを和らげるために、EUとの関税同盟が維持される、いわば「移行期間付きの離脱」である。


バックストップ見直しで離脱案は議会承認へ

英国議会でのEU離脱案の承認を難しくしていたのは、アイルランドの国境問題であった。英国がEUから離脱すれば、EUにとどまるアイルランドと英国領の北アイルランドとの間に国境が作られ、国境検査、関税審査が行われる。

しかしこれは、北アイルランド紛争の和平合意に示された国境での自由な往来の原則に反し、再び紛争を生み出すリスクがあった。そこで、アイルランドの国境問題が解決されるまでは、英国もEUとの関税同盟にとどまり続けるという、いわゆるバックストップ条項が付されたのである。これがメイ前首相がEUと締結した、前回の離脱案だった。

しかしそれでは、英国全体がEUの関税同盟に留められるため、第三国との間でEUとは異なる英国独自の貿易協定が結べない、という問題があった。そのため、保守党の中でも反対者は多かったのである。

一方、ジョンソン首相がEUとの間で新たに締結した離脱案は、英国本土と北アイルランドの間で通関手続きを実施する、という内容だった。その結果、北アイルランドを含む英国全体が法的にはEUの関税同盟から離脱するという原則を維持しつつも、アイルランド国境での通関手続きを回避することが可能となる。この離脱案のもとでは、バックストップ条項はなくなり、EU離脱後の移行期間終了とともに、英国は自由に他国との間に貿易協定を結ぶことができるようになったのである。

この修正離脱案は保守党内で広い支持を得ることが見込まれる中、保守党が今回下院で圧倒的過半数を確保すれば、離脱案が承認される可能性は高くなる。


2020年末に向けて再び政治混乱

しかしながら、2020年末までという短期間で、英国がEUとの間で新たな貿易協定を締結させることはかなり難しい。そのなかで、2020年末に移行期間が終了してしまえば、EUとの間の関税同盟が失効し、英国とEU間の貿易に世界貿易機関(WTO)のルールが適用される。そうなれば、両地域間の関税率が大幅に上昇するという「合意なき離脱」となる。つまり、来年1月末に移行期間付きの離脱が実現してもなお、「合意なき離脱」の可能性は残る。英国のEU離脱を巡る金融市場の懸念は容易に解消されないのである。

ジョンソン首相は否定しているものの、実際には2020年末に期限となる移行期間が延長される可能性が比較的高いのではないか。ジョンソン首相も含めて、英国経済を大きな混乱に陥れる「合意なき離脱」は誰も望んでいない。しかし、仮に移行期間が延長されるにしても、それが決まるのは2020年末の期限ぎりぎりとなるだろう。

そこまでは、新たな通商条約を巡って英国とEUとの交渉は難航し、ジョンソン首相は再び「合意なき離脱」というカードをちらつかせることになるだろう。今回の選挙で保守党が過半数を制すれば、英国のEU離脱に向けて一歩踏み出すことにはなるが、その後も完全離脱に向けてはなお大きな不確実性と政治的混乱が待ち受けている。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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