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税制改正は経済の潜在力を高めるか

2019年12月12日

イノベーション促進のための減税措置

12月12日に自民、公明両党は、2020年度与党税制改正大綱を正式に決定した。いわゆる目玉となるような税制改正策は見当たらないが、先般政府が閣議決定した大型経済対策とあたかも対を成すかのように、多くの減税項目が並列的にばら撒かれている、との印象がある。

時代に即した民間イノベーションの促進策としては、「5G導入促進税制」と「オープンイノベーション促進税制」の2つが挙げられるだろう。前者については、政府が認定した事業者を対象に、5G(次世代通信規格)基地局への投資額の15%を税額控除するものだ。

これは、企業の5G投資を促し、先行する中国などに対抗する狙いもあるのだろう。他方で、米国からの要請によって安価で比較的良質な中国製の5G基地局などの購入を事実上断念させられた国内企業に対する、一種の補填のような意味合いも感じられる。


減税の恩恵が大企業に偏るという問題

後者は、大企業が設立10年未満の非上場企業に1億円以上出資した場合に、出資額の25%相当を所得金額から差し引き、税負担を軽くするものだ。これは、いわゆるベンチャー企業に出資した大企業を優遇する、新たな減税措置である。その狙いは、ベンチャー企業に蓄積した技術を活かして、経済全体のイノベーションを促すものだ。

他方で、減税の恩恵が大企業に一段と偏るという問題を、こうした減税措置がより深刻にする、との懸念も指摘されている。現政権は、賃金の引き上げと投資の拡大を促す観点から、賃上げ額の一定割合法人税額から控除する、あるいは法人税額から差し引ける研究開発費の上限を引き上げるなどの措置を、繰り返し実施してきた。その結果、法人税額を特別に優遇し減額する「租税特別措置」の適用額が急増している。これに法人実効税率の低下が加わり、法人税収の基盤はかなり損なわれてしまった感もある。

さらに、租税特別措置の適用が金額ベースでは大企業に偏り、その結果、大企業の実効税率が中小企業と比べてかなり低くなっている、との分析もある。これは、企業間で税制上の不公平感を生んでいることのみならず、伝統的ビジネスに根差す傾向が相対的に強い大企業に偏る減税措置が、果たして国全体のイノベーションを高めるのに有効であるのか、という問題も生じさせているのではないか。


税優遇よりも企業の成長期待を高めることが重要

これ以外には、年120万円を上限に運用益が5年間非課税になるNISA(少額投資非課税制度)を、2024年に「新NISA」に刷新するといった、個人の投資を促す税制措置も講じられる。また、配偶者と離婚・死別した人に加え、未婚のひとり親に既存の寡婦(夫)控除を適用して、税制上の対応を揃える措置も講じられる。他方、検討されていた訪日外国人客へのギャンブル課税という増収策については、外国人の訪日を妨げるとの批判から大綱への明記は見送られた。

今回の税制改正大綱では、日本の成長力を底上げすることを目指すとされている。しかし、過去に多く実施された投資減税措置が、どの程度の投資促進効果を生み、その結果、生産性上昇率の高まりなど、経済の潜在力向上にどの程度貢献したかは不確実であり、この点をまずしっかりと検証することが必要なのではないか。

先行きの国内市場の成長期待がかなり低下してしまった現状では、減税によるインセンティブによって企業が投資を積極化させられる程度は限られるのではないか。減税措置や財政支出拡大を通じた、いわば小手先の政策では、経済の潜在力を向上させることは難しいように思われる。労働者の質を高める、インバウンド需要など海外需要を活用するといった構造改革を通じて、企業の成長期待を高める政策こそが、優先されるべきだろう。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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