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ECBの10月政策理事会のAccounts-Call for unity

2019年11月25日

はじめに

金融政策の現状維持を決定した10月の政策理事会では、景気や物価の先行きに対する慎重な見方が引続き目立っており、その意味で、9月会合における金融緩和パッケージの決定の妥当性が示唆された。


景気の判断

レーン専務理事は、執行部の立場から、最近の経済指標が経済活動の一段の減速を示唆していると総括した。

このうち消費は、好調な雇用者所得に加え、原油価格の下落によって底堅さを維持しているが、雇用は製造業の下押しによって改善が緩やかになったと説明した。また、設備投資の減速は続き、設備稼働率も長期平均まで低下したほか、輸出もBrexitに備えた在庫積増しが一巡し、第2四半期に減少したと説明した。

政策理事会メンバーもこうした見方に概ね(generally)同意し、経済活動の弱さと下方リスクの大きい状態が継続しているとした。中でも、海外経済に関しては、地政学的要因、保護主義の台頭、新興国の脆弱性などにより下方リスクが大きいとの理解を示した。

その上で、海外経済の問題が製造業の生産と設備投資を抑制することで、域内経済の減速をもたらしているとし、本年後半の成長率はプラスだが本年前半より低いとの見方を示した。中でも製造業PMIは、2012年以来の低水準となったほか、金融危機以降で最長の低下を続けている点に懸念が示された。

政策理事会メンバーは、経済活動がサービス業や建設業の底堅さに支えられ、その背景が良好な金融環境や雇用と賃金の一段の増加にあるとした。もっとも、サービス業のサーベイ指標の悪化が、輸出や製造業の減速による波及効果である可能性も指摘した。また、景気減速の中でも家計のマインドが維持されている点を確認しつつ、雇用の軟化を示す指標への留意も示された。

なお、金融環境についてレーン専務理事は、9月の政策理事会以降に、債券の利回りが全期間に亘って上昇したほか、EONIAの先物も上方へシフトしたことを指摘した。また、株価の上昇はリスクプレミアムの低下による面が大きいとの理解を示した上で、域内の事業法人にとっての金融環境は9月時点と同様に極めて緩和的であるとした。


物価の判断

レーン専務理事は、総合インフレ率がエネルギーや食料品の影響によって減速している一方、コアインフレ率には大きな変化がない点を確認した。この間、賃金は強いペースで加速しているが、ほとんどが企業のマージン圧縮で吸収されているとの理解を示した。また、直近のSPFの結果によれば、当面のインフレ期待が僅かに低下したと説明した。

政策理事会メンバーもこうした見方に幅広く(broadly)同意し、インフレの基調とインフレ期待がともに低位にあることを確認した。また、賃金上昇が物価に波及するにはなお時間を要するが、中期的には、金融緩和の効果もあって、インフレ率が徐々に高まるとの見方を維持した。

もっとも、賃金についても、直近のSPFが上昇率の鈍化を示唆していることへの懸念や、景気見通しの悪化の下では、企業がマージンの回復を図る結果として賃金上昇が物価に波及するとの見方に対する疑問も併せて示された。また、インフレ期待に関しても、SPFの結果が継続して軟化した点への懸念が示された。

政策判断

レーン専務理事は、9月政策理事会において予想された経済活動の低迷の長期化が具現しているとの理解を示した。その上で、 9月の金融緩和は、幾分かは事前予想を通じて金融環境の緩和効果を生んだとの理解を示す一方、今後も政策効果の波及を見守る考えを示唆し、フォワードガイダンスの強化が「automatic stabilizer」の役割を果たすことに期待した。

政策理事会メンバーもこうした判断を幅広く(widely)共有し、今回の金融緩和が事前に金融環境の緩和をもたらしたことを、市場がECBの「reaction function」をよく理解したためと評価した。

また、足許の経済指標が9月政策理事会における景気や物価の見通しと整合的であるとしつつ、政策効果に関しては、資産買入れや当座預金の階層構造が導入前であるだけに、今後のデータによって確認すべきとの見方に幅広く(wide)合意した。

その上で、10月政策理事会での金融政策の現状維持に合意するとともに、景気や物価が弱い状況が継続する下で、長期にわたって強力に緩和的な金融環境を維持すべきとの意見に幅広く(broadly)合意した。

なかでも、フォワードガイダンスが焦点とされ、①state-basedな性質によって、インフレ見通しに即した金融環境を実現する、②backward-lookingな性格によって、「reaction function」が明確に理解される、との主張がなされた。

加えて、インフレ見通しの展開に即してあらゆる政策手段を行使する用意がある点を強調することの重要さを確認した一方、副作用に対する配慮の必要性や、様子見のスタンスの明確化を支持する意見もみられた。

なお、レーン専務理事は、政策理事会メンバーが対外的に強調すべき内容として、①9月の緩和パッケージは強力な緩和効果を発揮している、②フォワードガイダンスによってインフレ見通しの変化に即した金融緩和が実現するほか、あらゆる政策手段を講ずる用意がある、③財政政策の支えがあれば、金融政策による物価や景気への効果もより早く実現する、の3点を挙げた。

政策理事会メンバーも幅広く(widely)合意し、政策効果の波及には時間を要する一方、インフレ目標の達成に向けたコミットメントと、そのための長期にわたる強力な金融緩和スタンスの維持の必要性を強調すべきとの指摘がなされた。

また、財政政策に関しては、緩やかに緩和的なスタンスが景気を支えている点を認めた上で、今後の弱い景気見通しの下で、特に財政拡張の余地のある国々による効率的かつタイムリーな活用が提唱された。

今後の政策運営に関しては、政策理事会としての結束を強く求める意見も示され、オープンで率直な議論は必要かつ正当であるが、インフレ目標の追求に対するコミットメントには、コンセンサスを形成して結束することが重要であるとした。この点は文字通り、ラガルド新体制への宿題となる。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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