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歴代最長の政権のもとで膨らむ経済対策規模

2019年11月19日

国民の将来不安は緩和されていない

11月20日に、安倍首相の通算在職期間は歴代最長に達する。2012年以降の在職期間中の経済環境を振り返ると、戦後最長の景気回復が続いたと見られる中、失業率の大幅低下など雇用環境の改善が目立った。また金融市場では株価上昇、円安傾向が生じている。

このように、在職期間中の経済、金融市場は、比較的良好な環境が維持されてきたが、これは世界経済の長期景気回復の追い風によるところが大きいのではないか。

最大の問題は、この間に、潜在成長率、生産性上昇率といった経済の潜在力に改善の兆しが見られなかったことである。潜在成長率が高まらなければ、日本の先行きに楽観的な見通しは出てこない。また、労働生産性が高まらない、あるいは緩やかに低下している可能性がある中では、国民の将来への生活に関する楽観的な見通しも出てこないのである。国民の生活の質を決めるのは実質賃金(名目賃金÷物価)であり、分配に変化がなければ実質賃金上昇率は労働生産性上昇率と一致するためだ。

国民は概ね、失業を心配する必要はない状況にあるが、それだけで将来不安が解消される訳ではない。今日よりも明日の生活が良くなるとの期待が高まらない限り、雇用に不安がないだけでは国民は満足しない。雇用環境は景気の水準に左右されるが、それよりも景気の変化率、つまり潜在力の方がより重要だ。

経済の潜在力を高める経済政策が構造改革であるが、現政権の下で、構造改革の効果は明確には確認できていない。政権総仕上げのこれからの局面では、経済の潜在力を着実に高める構造改革、成長戦略を最も重視しなければならないのではないか。それが、国民の幸福度を高める一方、日本経済が様々な外的ショックに対して抵抗力をつけることにもつながる。


補正予算で10兆円との意見も

しかし残念なことに、政府の経済政策は、構造改革ではなく財政拡張の方向に舵を切りつつあるように見受けられる。政府は12月中旬をめどに、2019年度補正予算、2020年度本予算に盛り込む経済対策の議論を進めている。その中では、相当規模の対策が必要との議論が高まっているように見受けられる。

経済対策について経済再生相は、「安倍晋三首相から『しっかりとした規模で経済運営に万全を期すように』との指示を受けている。マクロ経済の状況や台風の被害の状況などを勘案していく」としている。また、「国土強靱化、防災・減災にはかなりの量の公共事業が必要」と指摘している。

また自民党の幹事長からは、2019年度補正予算について、「10兆円を下回らない程度が必要だ」と、耳を疑う発言も出てきた。台風など自然災害を踏まえて、国土強靭化の加速が重要であるとし、また、「経済の先行きへの不透明感が増す中、大型の補正予算案でなければ、国民の不安は拭えない」と指摘している。

自然災害をいわば口実にして、不要不急の支出を拡大させることがあってはならないだろう。大規模な経済対策が必要な経済環境にあるとは思えない。

政府が財政拡張志向を強めているように見える背景には、政治的に逆風となる消費税率引き上げ後の景気悪化を何としても避けたい、あるいはそのためにできる限りのことはやったとの証拠を残しておきたい、との思惑があるのではないか。


財政拡張策で経済の潜在力はさらに低下も

消費税率引き上げによる財政健全化効果は、今回の経済対策を含めた各種消費税対策によって打ち消されてしまう。しかし、消費税率引き上げという財政健全化効果を持つ政策を実施したことがいわば免罪符となり、今後は財政拡張策が許される、との誤った認識を政府が持つようになってはいないか。

大規模な経済対策によって、相応規模での新規国債発行は避けられないだろう。この新規国債発行は将来世代が担っていかねばならない、将来世代へのつけ回しである。その結果、将来の需要が押し下げられると企業が考えれば、企業の中長期の成長期待は低下し、現在の雇用、賃金、設備投資を抑制する。このようにして、将来へつけを回しても、それは現在に返ってくるのである。そして、企業が設備投資を抑制すれば、潜在成長率はさらに下がってしまうだろう。

安易な財政拡張策は、こうした経路を通じて経済の潜在力を一段と押し下げ、国民の将来不安をさらに高めてしまう可能性があるという点を真剣に考えておかねばならないのではないか。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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