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日銀追加緩和見送り報道の背景を探る

2019年10月28日

追加緩和の狙いは組織防衛

10月30、31日に開かれる日本銀行の金融政策決定会合を前に、今回は追加金融緩和の実施は見送られる、との報道が相次いでいる。実際、その通りなのだろう。

会合1週間程度前のタイミングで一斉にそうした報道がなされる場合には、日本銀行が意図してそうした情報をリークしている可能性が高いと思われる。その目的は、追加緩和を見送っても金融市場、特に為替市場が悪く反応しないようにするための地均しである。

日本銀行は、マイナス金利の深掘りを中心とした追加緩和措置の実施の準備をしているとみられるが、実施しなくてすめばそれに越したことはない、と考えているだろう。追加緩和の経済効果は見込めない一方、副作用は避けられないからだ。それでも、実施を余儀なくされるのは、実施しないと日本銀行が政府や国民から強い批判を浴びる場合だ。それを避ける、いわば組織防衛のための追加緩和措置との性格が強い。

その際の条件は、景気情勢の悪化、円高進行、そしてそれらを受けて政府が巨額の景気対策を実施する場合だ。今回の決定会合で日本銀行が追加緩和を見送るのは、こうした条件が満たされていないからだ。追加緩和は将来、そうした条件が満たされる時に備えてしっかりと温存しておかねばならない。


追加緩和を匂わす強いメッセージは円高牽制の狙い

最短では12月の会合で、そうした条件が満たされて日本銀行は追加緩和を実施する可能性があるが、それは現時点では未だ見通せない。日本銀行も、追加緩和実施の時期を未だ決めてはいないのである。日本銀行が望むように、追加緩和を実施せずに済む可能性も5割近くはあるのではないか。

ところで、過去2回の決定会合で日本銀行は、追加緩和の実施を匂わす、いわば予告するような文言を、対外公表文に盛り込んでいる。7月の会合では「先行き、物価安定の目標に向けたモメンタムが損なわれる惧れが高まる場合には、躊躇なく、追加的な金融緩和措置を講じる」との文言、9月の会合では、「日本銀行は、『物価安定の目標』に向けたモメンタムが損なわれる惧れについて、より注意が必要な情勢になりつつあると判断している。こうした情勢にあることを念頭に置きながら、日本銀行としては、経済・物価見通しを作成する次回の金融政策決定会合において、経済、物価動向を改めて点検していく考えである」といったものだ。

こうしたメッセージには、追加緩和姿勢をアピールすることで、欧米で追加緩和が進み日本だけが追加緩和を見送る中でも円高が進行することは避ける狙いがある。日本銀行の行動をきっかけに円高が進行することで、政府や国民から批判を浴びることを日本銀行は非常に恐れているのである。

他方、仮に追加緩和実施を迫られる環境となった場合には、その可能性をこうしたメッセージを通じて事前に予告していたと説明することで、サプライズ政策との批判をかわすことができる。いわば2段構えの戦略なのである。


「やるやる詐欺」批判にも配慮

このように、過去2回の会合でトーンを加速的に強める形で追加緩和の可能性を示すメッセージを示してきた日本銀行は、追加緩和策が見送られると見込まれる次回会合では、どのようなメッセージを示すのだろうか。

引き続き、円高進行を抑える狙いで追加緩和の可能性を示唆することは間違いないだろうが、そのトーンを一段と強めることはもはや難しいだろう。日本銀行が対外公表文で追加緩和の可能性を強く匂わせながら、実際には追加緩和を見送ってきたことは、一部では「やるやる詐欺」とも揶揄されている。日本銀行は、そうした声にも配慮する必要がある。

他方、追加緩和実施という、いわば実弾までの時間稼ぎのための措置としては、政策金利のフォワードガイダンス(政策方針)の時間軸延長、という選択肢もある。「当分の間、少なくとも2020年春頃まで、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持することを想定している」という文言のうち、「少なくとも2020年春頃まで」を「少なくとも2020年秋頃まで」等に修正することだ。

しかし、政策金利の引下げがあるかないかに関心が集まる中、政策金利引き上げに関わる時間軸を先に延ばすという措置は、市場の期待に十分に影響を与えないのではないか。この点から、次回会合では追加緩和策はもちろんのこと、こうした市場への口先介入も含めて、目立った措置は講じられない可能性がある。

それでも、円高が進行することが回避できれば、日本銀行にとっては非常に好ましい結果となる。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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