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リブラに強い警戒感を示したG20

2019年10月21日

「あらゆる政策手段を動員」というものの

筆者も参加した国際通貨基金(IMF)・世界銀行の年次総会及びその関連会議に合わせて、10月17日、18日(米国時間)の2日間、ワシントンでG20(20カ国・地域財務相・中央銀行総裁会議)が開かれた。主な議題は、世界経済減速への対応、デジタル課税、リブラへの対応の3点だ。これらいずれについても、予想外に議論の進展が見られた、ということはなかった。

第1に、世界経済については、各国から下振れリスクの指摘が相次いだとされるが、具体的な協調策がまとめられることはなかった。しかし、これは全く予想通りのことだ。実際に世界経済が深刻な後退局面に陥るようなことがない限り、G20で具体的な政策対応が議論されるような危機感は醸成されないだろう。閉会後に「持続可能でバランスのとれた経済成長を実現するために、あらゆる政策手段を動員する」との認識が示されたが、具体策はない。そもそもG20は、景気悪化に対して予防的な措置を決める枠組みとしては機能しないのではないか。

さらに、世界経済にとって、現在大きな下方リスクとなっている米中貿易戦争、ブレグジットについては、ともに政治的な要素で決まるものであり、経済当局が経済への悪影響を予見して、予防的措置を講じること自体が難しい。


デジタル課税は今後もOECDで議論

第2に、デジタル課税については、G20議長国の日本が6月の大阪サミットで大きなテーマとして取り上げたものだ。グローバルに活動するプラットフォーマーが本社機能や主要設備などを低課税国に置くことで、節税効果を挙げていることへの対応が議論されてきた。各国から示された案を調整することで、経済協力開発機構(OECD)が10月19日に原案をまとめ上げた。その原案がG20で議論されたのである。

デジタル課税の議論は昨年EU(欧州連合)レベルでの議論がまとまらず、決裂した経緯がある。その後OECDが、欧州と米国との意見の相違を踏まえ、いわば折衷案としてまとめ上げたのがこの原案だ。今までのOECDでの議論の進展は予想以上であり、まさに目を見張るものがあった。

今回のG20で発表されたプレスリリースでは、「我々は、2020年末までに取りまとめられる最終報告書によるコンセンサスに基づく解決策に向けた全面的な支援を再確認する」、「OECDに対してサウジアラビア議長国下における2020年2月の次回会合において作業の進捗状況を報告することを求める」と述べられている。

G20で、デジタル課税で具体的な議論の進展があった、あるいは各国間での調整が進んだ、ということではないのだろう。デジタル課税の議論は、今後もOECD主導で粛々と進められていくだろう。


リブラに「深刻なリスク」との強い警戒が示される

第3に、リブラについては、G7(先進7カ国)の作業部会が10月17日に、報告書を発表した。そこでは、リブラなど、価値が安定している暗号資産(仮想通貨)とされる「ステーブルコイン」について、「法律や規制、監督上の課題とリスクに対応できるまで運用を始めるべきではない」と強い警戒感が示された。G7は、リブラがマネーロンダリング(資金洗浄)やテロ資金の調達など犯罪に利用されることを怖れており、また、消費者とデータの保護が十分になされるかどうかに懐疑的だ。マネーロンダリングについては、国際組織などが定める「最高水準の規制」に従った上で、中央銀行や財務・金融当局の監督を受けるべきだと強調している。

この報告書を見る限り、G7がリブラの規制に関する検討を始めた6月時点から、具体的な議論はあまり進展してないように見える。恐らく、リブラを主導するフェイスブックと金融当局側は、ともに相手の出方を睨みあったまま具体策を示さずに、議論は膠着状態にあるのではないか。

金融当局側は、フェイスブックがリブラ計画を自ら撤回することを望んでいるようにも見えるが、他方でフェイスブックは、必要な規制を受け入れる柔軟な姿勢を見せていることから、当局側がリブラ計画を無理やり潰すようなこともできない。他方で、金融当局側が懸念する犯罪対策などについて、フェイスブック側が具体的な対応措置を示していないことが、当局側の不満を高めているのだろう。

今回のG20では、G7作業部会の報告書と金融安定理事会(FSB)および金融活動作業部会(FATF)から提出された報告書が示され、議論された。G20のプレスリリースでは、「(グローバル・ステーブルコインが)深刻なリスクを生じさせる」との警戒感が示され、また麻生太郎財務相は閉幕後の議長国記者会見で「懸念がある間に(デジタル通貨を)出すのは、賛成している国がない」と説明した。

発表されたグローバル・ステーブルコインに関するG20プレスリリースでは、金融安定理事会(FSB)および金融活動作業部会(FATF)の報告を歓迎するとともに、双方及びIMFに対して、更なる報告と検討を期待、あるいは要請するとされている。つまり、G20が主導してリブラ対応の議論を前進させる、ということは必ずしもないのだろう。

麻生太郎財務相は会議後の議長国記者会見で、ステーブルコインとデジタル課税の議論が「前に進んだ」と強調したが、本当にそうだろうか。3つのテーマについてG20で確かに議論はされたのだろうが、従来の議論を前進させるような具体策が示された訳ではない。その意味で、G20は各国による具体的な行動に繋がるような、新たな議論を生み出す場とは言えないのではないか。また、それをサポートするような事務局的な機能も弱いのだろう。その意味で、G20の形骸化が進んでいることは否めないのではないか。


Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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