1. HOME
  2. ナレッジ&インサイト
  3. 研究員の時事解説
  4. 木内登英のGlobal Economy & Policy I…
  5. 日銀に様子見姿勢維持の猶予を与える9月短観

日銀に様子見姿勢維持の猶予を与える9月短観

2019年10月01日

製造業の景況感に下げ止まりの兆しも

10月1日に発表された日銀短観(9月調査)は、弱さと底堅さとが共存し、依然方向感が定まらない日本経済の状況を浮き彫りにした。大企業製造業の業況判断DIは前回比2ポイント下落して「5」と、3四半期連続の下落となった。

しかし、下落幅は事前予想の5ポイント程度を下回り、懸念されていたほど悪い結果とはならず、景況感が下げ止まる兆しを示すものともなった。商品市況の下落の一時的な影響がなければ、その下落幅はさらに小さくなっていたはずだ。

他方、大企業非製造業の景況判断DIは、前回比2ポイントの小幅低下となったものの、「21」と依然としてかなりの高水準を維持している。過去の本格的な景気後退の入り口では、製造業と非製造業の景況感は共に顕著に悪化していたことを踏まえると、今回の短観は、日本経済が本格的な景気後退局面に陥る状況には依然ないことを示していると言えるだろう。


消費税率引き上げの顕著な影響は見られない

今回の短観調査では、10月1日からの消費税率引き上げの影響があまり顕著に表れていない点もその特徴の一つだろう。一般に消費税率引き上げ前の駆け込み購入は、企業側が期待した程ではなかったと見られる。しかし、自動車、電気機械、食料品などでは、顕著な景況感の悪化は見られていない。

また、先行き判断についても同様であり、駆け込み購入の深刻な反動減が懸念されてはいないように見える。


輸出環境の悪化には歯止めも

足もとでの製造業の活動の弱さは、鉱工業生産統計など他の経済指標でも確認されているところだ。7-9月期の生産は、2四半期ぶりに前期比マイナスとなった可能性が高いが、10-12月期にも2期連続でマイナスとなる可能性も出ている。業種別には、設備投資関連の資本財と自動車など輸送機械の弱さが目立つ。これは、輸出環境の弱さを主に反映したものだろう。

ただし、貿易統計や製造業PMIは、その輸出の悪化に既に歯止めが掛かってきていることを示している。足もとでの製造業の生産活動及び景況感の弱さは、昨年末から年初にかけての輸出環境悪化の影響が、在庫調整を通じて遅れて現れているとの印象だ。

しかし、輸出の悪化には既に歯止めが掛かっている中、製造業全体の在庫調整の先行指標ともなる電子部品・デバイス分野では、既に在庫過剰感は解消されている。こうした点を踏まえれば、今後は製造業の生産及び景況感は、次第に改善に転じる可能性があるだろう。


非製造業の好環境は個人消費の底堅さを反映か

他方、短観でも確認できた非製造業の景況感の良さは、サービス業PMIにも同様に見られている。同指数は製造業の指数と低下と逆行する形で、足もとではむしろ改善傾向にある。こうした非製造業の景況感の予想外の良さの背景には、物価安定下で良好な雇用・所得環境に支えられた、個人消費の底堅さがあるのだろう。

製造業の生産調整の悪影響が、現状では比較的堅調な内需にも波及することで、先行き、経済が失速してしまう可能性よりも、輸出環境悪化の一巡と在庫調整の一巡を背景に、製造業の生産調整も一巡していき、経済全体がむしろ緩やかに持ち直しに向かう可能性の方がやや高いように思われる。実際、今回の短観は、それを示唆しているのではないか。

ただし、現時点での国内経済はなお明確な方向感を欠き、引き続き微妙な局面にあることは確かである。そうした中で海外経済環境が明確に悪化すれば、日本経済が後退局面に陥るリスクが生じ得よう。今回の短観調査でも、2019年度の大企業製造業の売上高計画は、国内向けに比べて海外向けはより大幅な下方修正となった点は気がかりだ。

この点から、国内経済を方向づけるのは、消費税率引き上げといった国内要因よりも、引き続き、海外経済要因である。特に重要なのは米国経済の動向だ。


日本銀行に様子見姿勢維持の猶予を与える短観

今回の短観は、日本経済が深刻に悪化した状態にあることを示すものではない。この点から、短観の結果が、追加金融緩和や追加財政出動といった政策対応の実施が検討されるきっかけとはならないだろう。ましてや、消費税率引き上げの影響をしばらくは見極める必要もある。

短観では、設備投資計画に多少の下振れ感が見られるとは言え、日本銀行にとっては国内経済の安定維持を示す、総じて良好な内容だったと見られる。このため、日本銀行が様子見姿勢を維持する猶予を与えるものと言えるのではないか。

ところで、政府・与党は、10月末の時点で、消費税率引き上げの影響の検証を始める模様だ。実際には、その影響を見極めるには、数か月から半年程度の時間が必要だろう。日本銀行が仮に追加緩和措置を実施する場合には、政府の追加財政出動の協調策として打ち出される公算が大きいように思われる。政府が10月末の段階で追加財政出動の方針を固めるとは考えにくいことから、現状では、10月末の次回政策決定会合でも、日本銀行は追加緩和措置を見送る可能性を見ておきたい。

ただし、急速な円高進行など金融情勢が急変する場合には、10月末の次回政策決定会合での追加緩和実施の可能性が出てくる。そのきっかけとなるのは、米国経済の悪化など、やはり海外要因であろう。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

この執筆者の他の記事

木内登英の他の記事一覧

このページを見た人はこんなページも見ています