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ウクライナ疑惑で米大統領弾劾手続きが本格化

2019年10月01日

米下院が大統領弾劾調査を開始

米国では、いわゆる「ウクライナ疑惑」に関して、トランプ氏の弾劾訴追に向けた下院での調査が急速に進められている。

「ウクライナ疑惑」とは、トランプ大統領が7月にウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談を行った際、ウクライナへの軍事支援と引き換えに2020年米大統領選挙でライバルとなるジョー・バイデン前副大統領と、次男ハンター氏に対するウクライナでの汚職捜査を再開するようにゼレンスキー大統領に圧力をかけた疑いだ。仮にそれが事実であれば、トランプ大統領は、国益や国家安全保障よりも、大統領選挙に勝利するという個人的な政治目的を優先したことになる。この疑惑は、米情報機関の内部告発により発覚した。

9月24日に、ナンシー・ペロシ下院議長は正式に大統領弾劾調査の開始を表明し、下院民主党の弾劾をめぐる動きを本格化させた。下院の3つの委員会は27日に、ポンペオ国務長官に召喚状を出し、バイデン氏の調査に関する通信記録や、電話会談の同席者リストなどの提出を命じた。また、前駐ウクライナ大使ら5人を議会証言に応じさせることも求めた。5人の証言は10月2~10日に予定されている。さらに、内部告発者も下院で間もなく証言をするという。

米国の大統領が弾劾されれば、史上初めてのこととなるが、その実現に向けたハードルはかなり高い。


過去に弾劾で罷免された大統領はいない

下院での弾劾成立には、議員の過半数の支持が必要であるが、下院では野党の民主党が過半数を占めていることから、その実現可能性は比較的高いものがある。調査によると、弾劾調査を支持する下院議員は既に過半数を超えており、共和党議員の支持もある。

ところが、下院で弾劾(に同意)された後、上院で議員全体の3分の2を上回る賛成が得られなければ、大統領は罷免されない。上院では与党共和党が過半数を占めている。トランプ大統領に代わる有力な大統領候補がいない中、多くの共和党議員は弾劾に反対する可能性が高い。

過去、弾劾手続きがとられたものの罷免されなかった大統領は、第17代のアンドリュー・ジョンソンと第42代ビル・クリントンの2人だ。また、弾劾されそうになった大統領には、第10代ジョン・タイラーと第37代リチャード・ニクソンがいる。ニクソンは、下院本会議での弾劾決議が出る前に辞職した。

民主党は、大統領を弾劾裁判で罷免に追い込むのは実際には難しいことを承知の上で、下院での弾劾同意を目指しているのである。それには、大統領に政治的なダメージを与えることで、2020年の大統領選挙、議会選挙を有利に進めるという狙いがある。

しかし、トランプ大統領の「ロシア疑惑」では、民主党は今まで弾劾手続きに着手してこなかったのは、弾劾手続きが政治を混乱させる党利党略として有権者からの反発を招き、野党に逆風となってしまう可能性が相応にあるからだ。実際、クリントン大統領の弾劾ではそうであった。


弾劾手続きへの国民の支持が急速に高まる

他方、トランプ大統領自らが主導的に関与する今回の「ウクライナ疑惑」では、弾劾手続きを進めることが、国民から支持を得ることができ、トランプ大統領及び共和党に政治的な打撃を与えることができる、との読みが民主党にあったからに他ならない。

実際、米議会専門紙ヒルが27日に発表した世論調査によると、トランプ大統領の弾劾手続きを支持する人が47%となり、不支持の42%を上回った。支持する人の割合は、「ウクライナ疑惑」が出る前、つまり「ロシア疑惑」が念頭に置かれていた5月下旬での調査から12%ポイントも一気に上昇した。そのうち、弾劾に賛成するのは、民主党支持者では78%、共和党の支持者では18%、無党派層では41%となっている。政治サイト、ポリティコの調査でも、弾劾手続きの支持は7%ポイントの急上昇を示すなど、各種調査で弾劾への支持率が上がっており、トランプ大統領の「ウクライナ疑惑」に対する世論は厳しくなっている。

ただし、弾劾手続きが進められていった場合、2020年の大統領選挙に向けて世論がどのように変化していくのかは、未だ見通し難い部分がある。最終的にトランプ大統領に有利に働く結果となる可能性も残されているだろう。

他方、現時点で明確なのは、民主党の大統領候補者選出レースへの影響だ。今回の弾劾手続きは、それを強く主張しているエリザベス・ウォーレン候補に明らかに追い風である。他方、当事者でもあることから、弾劾を強く主張できないバイデン候補には逆風となっている。


ウォーレン大統領誕生を怖れるウォール街

25日に発表された米キニピアック大の世論調査では、全国ベースでウォーレン氏がバイデン氏を2ポイント差でリードした。8月にはバイデン氏が13ポイント差でリードしていた。さらに、世論調査では、予備選の序盤で重要なアイオワ州とニューハンプシャー州で、ウォーレン氏がバイデン氏に勝っている。

CBSテレビの世論調査によると、トランプ大統領が主張するバイデン氏の疑惑について、43%が「さらなる調査に値する」と答え、「値しない」とした28%を上回った。国民は、トランプ大統領の疑惑と共にバイデン氏の疑惑も同様に明らかにすべきと考えており、「ウクライナ疑惑」は、バイデン氏への支持の低下にもつながっているのである。

「ウクライナ疑惑」を巡る下院での弾劾手続きは、米国株式市場には悪材料となっている。それは、政治混乱によってインフラ投資など各種の政策が滞ってしまう恐れがあるからだ。ただしそれにとどまらず、ウォール街はその天敵とも言える急進左派のウォーレン氏の大統領就任の可能性を、部分的に織り込み始めたのである。

「ウクライナ疑惑」を巡る弾劾手続きについては、それが大統領選挙に与える影響と、民主党の大統領候補選出に与える影響の双方の観点から、今後の世論の微妙な変化を随時モニターしていく必要があるだろう。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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