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国債利回りの下振れと円高の板挟みに苦しむ日銀

2019年08月30日

10年国債利回りの下振れを容認しない姿勢を示す

日本銀行は30日に、残存期間5年超10年以下の長期ゾーンの国債買入れオペの規模を前回から500億円減らす、大幅な減額措置を実施した。減額は16日に続いて今月2回目となる。10年国債利回りが-0.3%に接近する中、さらなる利回り低下を容認しない姿勢を示すのが目的だ。

日本銀行は、イールドカーブコントロールという政策の枠組の中で、10年国債利回りに目標値を設定している。それが0%程度だ。さらに、金融政策決定会合での正式な決定事項ではないが、0%程度を中心に上下0.2%程度の変動を容認する姿勢を昨年から示してきた。

ところが、世界的な景気減速懸念、金融緩和観測の高まりを背景に、グローバルに長期国債の利回りは低下し、そのもとで、日本の10年国債利回りも許容変動レンジの下限である-0.2%程度を下回る期間が、既に3週間程度にも及んでいる。この状態を放置すれば、日本銀行は操作目標である10年国債利回りをコントロールできていないことになり、イールドカーブコントロールという政策の枠組み、及び政策全体への信認を損ねる恐れがある。これがオペ減額の背景である。


利回りへの影響が大きくないのは想定内

ところが、10年国債利回りの低下を抑制するために、大胆に長期ゾーンのオペの減額を進める、というほどの金融調節はとられていない。そうした金融調節をすれば、円高が進行してしまうことを日本銀行は強く恐れているのである。この点から日本銀行は、10年国債利回りの低下と円高進行リスクとの板挟みの状態にあり、大きく身動きがとれなくなっている。30日に長期ゾーンの国債買入れオペ減額を実施したのは、円が対ドルで106円台後半まで円安方向に振れた、まさにその間隙をぬった措置だったのである。

そうした措置にも関わらず、10年国債利回りを押し上げる効果は限定的だ。そもそも、オペの減額措置がどの程度金利を押し上げる効果を持つかは不確実だ。オペを減額しても、日本銀行が国債買入れを続け、保有国債が増え続けていることには変わりない。国債利回りは、日本銀行のフローの買入れ額ではなく、日本銀行が保有する国債の残高、即ちストックの変化で決まると考えれば(ストックビュー)、オペの減額措置は利回り押し上げの効果を生まない。

そもそも、10年国債利回りが下振れる局面で、利回りを押し上げて、目標水準を維持する手段を日本銀行は持っていないのである。これは、イールドカーブコントロールという政策の枠組の大きな欠点の一つだ。

この点から、30日のオペ減額が、10年国債利回りを押し上げる効果が限定的であったことは、日本銀行にとっては全く想定内のことである。重要なのは、円高リスクが小さいタイミングで、変動許容レンジを大きく下回る10年国債利回りを容認しないという姿勢を示すことが、日本銀行の目的だった。


変動レンジ拡大よりも撤廃

昨年7月に、10年国債利回りの変動レンジを、上下0.1%程度から2倍程度に拡大させた措置は、金融政策決定会合後の総裁記者会見で説明された。そうした慣例を作ってしまった以上、0%程度という目標値の変更ではなく、変動レンジに関わる今後の方針変更は、同じく金融政策決定会合後の総裁記者会見で公表されるだろう。

この点から、9月の金融政策決定会合で、10年国債利回りの変動レンジに関わる何らかの方針修正がなされるのではないか、との観測が市場にある。実際、変動レンジを拡大するとの観測も少なくないが、その可能性は高くないだろう。0%程度を中心として上下0.2%程度とする現在の変動レンジを、仮に0.3%程度にまで拡大しても、既に市場の利回りはその水準にまでほぼ達しているのである。他方、上下0.4%あるいは0.5%までさらに拡大すれば、それはもはや利回りをコントロールしていないことになるだろう。

イールドカーブコントロールに関しては、9月の金融政策決定会合で、現状のまま何ら方針が変更されないか、あるいは変動レンジを撤廃するかのいずれかと思われる。

9月は米連邦準備制度理事会(FRB)と欧州中央銀行(ECB)が共に政策金利を引き下げる可能性がある。その場合、日本銀行は政策金利を下げない可能性が現状では高いため、円高が進んでしまうリスクがある。それに配慮して、いわばゼロ回答を避けるために、日本銀行が変動レンジを撤廃して、10年国債利回りのさらなる低下を容認するという選択肢がありえる。この時点で、イールドカーブコントロールという枠組みは、事実上終わることになる。


変動レンジに関わる修正は追加緩和ではない

金融市場の動きを追認する形で、10年国債利回りのさらなる低下余地を生じさせるこうした措置は、追加緩和策とは言えない。そもそも、イールドカーブコントロール導入の目的に一つに、長期金利の低下、イールドカーブのフラット化の回避を日本銀行が挙げていたという経緯に照らしても、積極的に10年国債利回りの低下を意図する、という説明を日本銀行はできないだろう。

しかしながら、金融市場では変動レンジを撤廃する措置を一種の追加緩和策と捉えるだろう。日本銀行は、そうした市場のミスリードを敢えて狙うのである。

他方、9月の金融政策決定会合でも、イールドカーブコントロールの枠組み修正を見送り、10年国債利回りの下振れを容認し続けるという決定をする可能性も相応にある。その場合、将来、短期金利引下げなどの正式な追加緩和措置を実施する際に、イールドカーブコントロールの変動レンジ撤廃という措置を一種のパッケージとして実施するために、今は温存しておくとの選択肢もあるだろう。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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