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日米貿易協議は大枠合意も自動車分野は先送りか

2019年08月26日

4月から進められてきた日米貿易協議は、閣僚級交渉で事実上の大枠合意に達した。さらに、日米首脳会談を経て、両国は9月末に署名を目指す方針を確認している。報道されている内容に沿って9月末にも最終合意に達するのであれば、日本にとっては大幅な譲歩をすることを回避しつつ、想定内での決着を得ることとなる。

他方、米中貿易協議では、対立が激化しており、合意の目途が立っていないことから、トランプ政権は対日貿易協議では早期に合意に達し、成果を得たいと考えているはずだ。こうした事情が、日本にとって有利に働いている可能性がある。

日米協議で、米国は農産物の市場開放を日本に強く求め、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定で合意された水準より踏み込んだ引き下げを要求していた。しかし、最終的には、「関税率の引き下げはTPPの水準が最大限」、という日本政府の主張をトランプ政権が受け入れた模様だ。

トランプ大統領は、日本が余剰になっている米国産とうもろこしを購入することに同意したと説明している。他方、安倍首相は、とうもろこしの購入は民間主導で行われるとしている。両者間に認識の違いがある可能性もあり、この点が将来に対立の火種を残しているとはいえ、このとうもろこし購入の同意が、農産物の関税率引き下げ幅でトランプ政権が日本側に譲歩した背景の一つではないか。

日本が米国産牛肉にかけている関税は38.5%であるが、日米貿易協定が発効すれば、その時点のTPP加盟国の税率に一気に下げる。さらに、その後の税率下げのペースはTPP加盟国と足並みを揃えることとなる。

トランプ大統領にとっては、対中貿易戦争の影響から農産物の輸出が大幅に減少している米国農家への配慮が、来年の大統領選挙にとって重要度を増している。このことが、日本に対して大幅な関税率引き下げ要求を撤回してでも、関税率引き下げで早期に日米貿易合意を得たいというトランプ政権の姿勢につながっている可能性がある。日本では秋の臨時国会で日米貿易合意が承認されなければ、来年年初から本格化する大統領選挙戦の開始に間に合わない。そのため、国会で承認されやすい合意となるよう、トランプ政権が譲歩した面もあるだろう。

しかし他方で、農産物と並んで日米貿易協議でもう一つの柱である自動車分野では、協議が事実上先送りされている。日本は米国側に自動車の関税撤廃を要求してきたが、農産物での合意と交換に、今回はその要求を先送りすることを決めた模様だ。ただし、貿易協定とは別に今後も交渉を続けるという。

また、トランプ政権は通商拡大法232条に基づく自動車、自動車部品全体への追加関税の方針を決めておらず、日本に対しても適用される可能性はなお残されている。日本政府は、自動車分野での関税や数量規制の導入を拒否する考えであるが、トランプ政権がこれを受け入れるかどうかは不明だ。

このように、来年の大統領選挙への影響を視野に入れ、トランプ政権が早期の合意を急ぐ農産物分野では、日本が想定内での決着を得る方向にある。しかし、もう一つの柱である自動車分野では、合意は事実上先送りされる方向と見られる。つまり、早期合意が成立する方向が見えたのは、とりあえず半分程度というのが実情なのではないか。さらに、ドル安志向を強めるトランプ政権が、日本の不当な円安誘導策が対米貿易黒字の背景にあるとの批判をする可能性も残されており、日米間の貿易政策及び為替政策を巡る対立が、今回の合意で解消されると考えるのは早計だ。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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