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7月FOMCのMinutes-Thank you for your concern

2019年08月22日

はじめに

7月FOMCでの議論はパウエル議長による会見の内容と全体的に整合的であったが、新たに興味深い論点も含まれていた。9月以降の政策を展望しつつ内容を検討したい。


経済情勢の判断

FOMCメンバーは、足許の経済指標が堅調さを示し、実質GDP成長率も潜在成長率を若干上回るペースで推移するとの認識を共有した。一方、中国とユーロ圏を中心に海外景気が予想を下回ったほか、貿易摩擦に関する不透明性が高いまま存続する可能性が高くなったとの理解を示した。

なかでも消費の強い拡大が、タイトな雇用環境や所得の増加、良好なセンチメントの下で今後も続くとの見方を示した一方、設備投資は海外経済と貿易摩擦の不透明性によるセンチメントの慎重化のために抑制されているとの見方で一致した。生産活動も、製造業だけでなく、農業やエネルギーも各々天候要因や市況の低迷といった要因も加わる形で下押しされているとの理解を示した。

先行きのリスクは、6月FOMCの時点に比べて若干好転したとの見方がFOMCメンバーの間で広く共有された。理由としては、5月の雇用統計が顕著に回復したことや米中の間で貿易摩擦に関する交渉が再開される見通しとなったこと、議会で連邦債務上限の引き上げに関する合意が成立したことなどが挙げられている。

もっとも、FOMCメンバーも先行きの下方リスクが依然として大きいとの見方を維持し、海外経済の弱さを引続き大きな要因としたほか、貿易摩擦の不透明性も容易に高まりうるとした。


物価情勢の判断

FOMCメンバーは、年前半のインフレ率の弱さが一時的要因に影響された面があり、足許の基調は安定しているとの認識を共有した。もっとも、数名(several)のメンバーは、インフレ率が目標を下回り続けていることに懸念を示し、海外経済の減速と貿易摩擦によって、目標達成が一段と遅延する可能性を示唆した。

賃金に関しては、数名(several)のメンバーが低賃金労働者の間での顕著な上昇圧力を指摘したが、FOMCメンバー全体としては、マクロの賃金上昇が生産性の増加ペースと概ね整合的であるとして、大きなインフレ圧力にはつながりにくいとの理解を共有した。

インフレ期待についても、市場ベースおよびサーベイベースともに依然として低位との見方が大勢であった。数名(some)のメンバーは、長期にわたって実際のインフレ率が目標を下回る結果、インフレ期待が下方にシフトするリスクを指摘し、世界的なディスインフレ環境の下で、FRBがインフレ目標を持続的に達成することが一段と困難になるとの懸念を示した。


金融環境の判断

金融環境については、FRBの利下げに対する期待の高まりによって一段と緩和的になったとの見方でFOMCメンバーは一致しており、このことが経済の下方リスクに対する保険の役割を果たしているとの理解を示している。

この間、FOMCメンバーの一部からは、一部の資産価格の過大評価や高水準の企業債務に対する言及があり、中でも数名(a few)のメンバーは、銀行のような規制と監督を受けていないプレーヤーによるクレジット市場の拡大と監視の必要性を指摘した。もっとも、これらのメンバーも、国内外の金融政策やインフレの展望を踏まえると、リスクの程度は小さいとの見方を示した。


政策判断

7月FOMCは25bpの利下げに踏み切った訳であるが、その理由は以下の3点に整理されている(議事要旨の11ページ右段)。

第一に、海外経済の明確な減速に影響される形で、設備投資と製造業の生産に減速の兆しがみられることであり、FOMCメンバーの大勢(most)はこの点を踏まえて政策金利の予想パスを引き下げている。

第二に、現時点での利下げは経済のリスクマネジメントの点で慎重な対応であり、実際、FOMCメンバーの多く(a number of)は、世界経済の下方リスクが顕在化しても海外での政策対応の余力は小さいと判断している。

第三に、インフレの先行きに懸念がある点であり、インフレ期待もサーベイベースは低位である一方、市場ベースの若干の改善も利下げ期待を反映したに過ぎないと結論付けている。

なお、2名(several)のメンバーは、物価への働きかけを強める観点から50bp利下げを示唆した一方、数名(several)のメンバーは、景気が堅調で先行きの不透明性が若干低下した点を理由に、政策金利の据え置きを指摘した。また、数名(a few)のメンバーは、利下げが金融システムの不安定化に繋がったり、景気悪化の兆候と理解されたりするリスクを指摘した。

その上でFOMCメンバーの大勢(most)は、今回の利下げを政策スタンスの再調整(re-calibration)ないし景気拡大の中での調整(mid-cycle adjustment)と位置づけつつ、多くの(a number of)のメンバーは、多くのリスクが持続的で解消の時期が明確でないだけに、経済指標が今後の見通しに有する意味合いに対して、柔軟さを維持すべきとの考えを示した。


政策レビューに関する議論

7月FOMCでは、執行部が金融危機後の政策運営とその課題についての分析を提示し、これに関する議論が行われた(議事要旨2ページ右段以降)。

なかでも、多くの(a number of)のメンバーが、資産買入れに想定された副作用の多くは顕在化しなかっただけに、より積極的に活用すべきだったと主張した点は注目される。数名(several)のメンバーは資産買入れのコストと効果には大きな不透明性が残ると反論したが、将来、そうした政策が必要になった場合には、もっと自信を持って予防的に使用すべきとの結論が導かれている。

インフレ目標については、過去の未達成分を将来取り戻すもの(makeup)が案として提起されたが、多く(many)のメンバーは、その成否が民間部門の理解と信認に大きく依存すると指摘した。また、インフレ率の時系列的な平均を目標にすることやインフレ目標をレンジとすることも示されたが、後者は目標からの乖離に対する政策対応について柔軟性を高めるメリットがある一方、そのことがインフレ期待の感応度を低下させるリスクがある点も指摘された。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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