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本格利下げを否定したFRBと様子見姿勢維持の日銀

2019年08月01日

長期にわたる一連の利下げの始まりではない

米連邦準備制度理事会(FRB)は7月31日、事前予想通りに0.25%の利下げ(政策金利引下げ)を実施した。また、この金融緩和策と整合性をとる観点からも、9月に予定していた保有資産縮小策の停止を前倒しで実施することを決めた。これも事前予想通りであった。

他方、金融市場にとってややサプライズであったのは、米連邦公開市場委員会(FOMC)終了後のパウエルFRB議長の記者会見での発言だった。議長は、今回の利下げを「サイクル半ばでの調整」、「下振れに対する保険」、「長期にわたる一連の利下げの始まりではない」などと説明した。この発言は、今後の利下げ期待を縮小させるものとなり、金融市場で小幅なドル高、大幅な株安を生じさせたのである。

他方で、「一度きり(の利下げ)とは言っていない」とも発言し、追加利下げの可能性も示唆している。予防的措置にしても、0.25%の1回限りの利下げでは不自然でもあり、9月あるいは10月のFOMCで0.25%の追加利下げが実施されることが予想される。9月よりも10月の可能性がより高いのではないか。

経済・金融情勢が安定を維持する場合には、ここでFRBの予防的利下げは一巡し、政策は様子見姿勢に転じよう。ただし、米国経済が減速感を強めた場合には、予防的利下げが本格的な利下げに転化する可能性も相応に残されている。

それでも、利下げを織り込んだ長期金利の低下が、長期金利に敏感な住宅投資や自動車購入などを刺激することで、目先は米国経済の減速観測は浮上しにくいと考えられる。

利下げ実施の理由として、FRBは海外経済の弱さと並んで、低インフレのリスクを挙げている。物価上昇率が2%の目標値を下回る状況が続き、その結果、中長期の予想物価上昇率(インフレ期待)が下振れていることを、FRBは強く警戒しているのである。

ただしこの問題については、大幅な利下げ措置ではなく、現在FRBが議論を進めている「金融政策の枠組見直し」で対応することになろう。最終的には現在の2%の物価安定目標を、上下対称の目標であることをより明確にし、局面によっては2%を上回る水準も容認することで、中長期の平均値で2%程度を目指すものへと、インフレ目標政策を修正する可能性がある。


日本銀行は当面様子見姿勢を維持できる環境に

FOMCが予想通りの政策決定となったこと、また、パウエル議長が、本格的な利下げの可能性を否定したことにより、日本銀行は当面様子見姿勢を維持できる環境となった。

7月30日の金融政策決定会合で、日本銀行は対外公表文の最後に「躊躇なく、追加的な金融緩和措置を講じる」との文言を加えた。FRB及び欧州中央銀行(ECB)が利下げに動く中、そして両者の追加利下げ期待が高まるなかで、日本銀行だけが金融緩和の実施が難しいとの観測が市場に広まると、急速な円高が生じるリスクがある。日本銀行は、自らの政策、政策姿勢がきっかけとなって急速な円高が生じ、国民あるいは政府から強く批判されることをことさら怖れているだろう。そうしたリスクを軽減するために、この文言を加えたのである。

そして、今回のFOMCの決定を受けて円高が進む可能性も事前に意識していた。ただし、結果的にはこれほど強いメッセージを市場に送る必要はなかったことになるのではないか。

日本銀行は、できれば追加緩和を実施せずに済めば良いと考えているだろう。FRBがあと一回利下げする程度の情勢であれば、日本銀行は追加緩和実施を見送るだろう。今回のFOMCの結果を受けて、日本銀行は追加緩和実施を免れることができるのではないか、という楽観的な期待を再度強めているだろう。


最大の注目は米国経済の行方

日本銀行が追加緩和の実施に追い込まれるか否かの鍵を握るのは、米国経済である。海外経済の弱さを反映して、輸出と設備投資は悪化する一方、良好な雇用・賃金環境を背景に個人消費の強さが、それを相殺しているのが米国経済の現状だ。目先は、長期金利低下の景気刺激効果にも期待できる。

しかし、いずれ海外経済の弱さが勝るようになれば、あるいは金融・資産市場の自律的な調整(バブル崩壊)が生じれば、米国経済が失速し、世界経済は本格的な後退局面に陥るだろう。その際には、FRBは本格的な利下げを実施し、日本銀行は追加緩和の実施を強いられよう。手段としては、短期金利の-0.2%への引き下げとETFの買入れ増額の組み合わせ、が有力ではないか。

日本銀行が追加緩和の実施を強いられる直接的なきっかけとしては、内外経済の悪化、1ドル100円に近付く急速な円高進行、政府による消費税(景気)対策の大幅上積み、の3つが重要だ。

日本銀行が追加緩和の実施を決める時期としては、9月の決定会合の可能性はかなり低く、10-12月期が目途と筆者は考えてきた。ただし、今回のFOMCを受けて、日本銀行が様子見姿勢を続けられる時間的猶予が幾分伸びた感がある。この点を踏まえると、9月と並んで10月の決定会合でも政策変更が見送られる可能性が高まったように思われる。

注目されるのは、12月の決定会合となるのではないか。もちろん、急速な円高進行、世界の金融市場の混乱などの不測の事態が生じれば、日本銀行は臨時会合での緊急緩和を決めることも可能だ。対外公表文に付け加えられた文言には、その可能性を事前に伝えておく意図も込められているだろう。

日本銀行の追加緩和策には、効果は期待できない一方、副作用を高めるだけであるため、筆者はその実施に反対である。日本銀行もできれば実施したくないはずだ。ただし環境が変われば、否応なしに実施を強いられることになるだろう。その確率は、現状では概ね半分程度なのではないか。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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