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FRB予防的利下げの危うさ

2019年07月31日

予防的利下げの狙いは何か

7月31日に開かれる米連邦公開市場委員会(FOMC)では、0.25%の利下げ(政策金利の引き下げ)が決定される可能性が高い。ただし、利下げが示唆された前回6月のFOMC以降に発表された米国の主要経済指標は、概ね予想を上回るものとなっている。6月分雇用統計では、非農業部門雇用者増加数は事前予想を大きく上回る22.4万人増となった。さらに、26日に発表された第2四半期GDP成長率速報値は年率2.1%と、やはり事前予想を上回っている。これらの指標が示す米国経済の状況は、比較的安定しているのである。

こうした環境下での利下げ実施については、FOMCの中でもその妥当性を疑問視する声が出ており、実際、利下げへの反対票が最大で2票出てくる可能性がある。

ただし、こうした疑問が金融市場で大きく広まることはないだろう。パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長は、次回の利下げが、景気悪化への対応ではなく、予防的措置であることを既に強調しているためだ。米国経済の状況は比較的安定を維持していても、海外経済の弱さが目立つこと、物価上昇率が目標値を下回っていることから、予防的な利下げは正当化される、との考えだろう。

過去のFRBの政策に照らせば、0.5%の大幅な利下げが実施されるのは、景気情勢が思いのほか悪化し、それに遅れて対応がなされる場合、あるいは金融危機のような大きなショックが突然発生した場合だ。予防的措置であるならば、今回は0.25%の利下げ幅となりやすいだろう。

この予防的措置の妥当性については、FRBはある意味ずるい説明をすることができる。先行き、経済情勢が改善すれば、予防的措置実施の効果が表れたと自画自賛し、他方、経済情勢が悪化すれば、予防的措置は正しかったと、自らの先見性を自画自賛できるのである。


予防的利下げが抱えるリスク

FRBが利下げ実施を強く示唆したことで、米国の長期金利は低下した。これによって、弱さが見られていた自動車、住宅などの金利敏感な分野で、この先需要が持ち直す可能性がある。また、利下げ期待による株価上昇が、個人消費を刺激する効果も期待できるだろう。

しかし、現時点での利下げは、金融市場の歪みをより大きくし、短期的にはその調整時期を先送りする一方、将来の調整時の経済、金融への打撃をより大きくしてしまうリスクがある。こうした点から、今回の利下げ実施の妥当性には疑問が残る。

経済が安定を維持する中での今回の利下げは、失業率が大幅に低下する中でも物価上昇率が思いのほか上昇しない、というFRB内で過去数年積み重なってきた疑問に対する回答、という意味合いもある。インフレ率を加速させる失業率、いわゆる「自然失業率」が従来の想定よりもかなり低いのではないかとの認識、そして、経済(需給ギャップ)に対して中立的な「自然利子率」が従来の想定よりもかなり低く、そのため早期に金融引き締め効果が生じてしまったのではないかとの認識が共に強まったことが、今回の政策変更につながった面がある。FOMC内で、自然失業率と自然利子率の水準に対するコンセンサスが次第にシフトしていった結果、それが臨界点を超え、今回の利下げにつながったと考えられる。

しかし、自然失業率にしても自然利子率にしても、その水準を正確に計測することはかなり難しい。それらは、いわば学術的、抽象的な概念である。こうした実証性に欠く概念的な判断に基づいて、政策変更が決定される点に危うさがある。


トランプ大統領のドル安志向のリスク

さらに、利下げ実施には、トランプ大統領による政治介入も影響しているだろう。この先、米国経済が減速感を強めれば、2020年の大統領選挙への悪影響を減らすために、トランプ大統領は、景気減速はFRBの金融政策の失敗によるものだと強く主張するだろう。いわば責任転嫁だ。国民の多くもそれに賛同すれば、FRBの政策に対する国民の信認が大きく揺らいでしまう。そうしたリスクを減らすため、いわば組織防衛の観点から実施する利下げ、という側面もあるのではないか。これは、政治的なリスクを軽減するための、保険の意味での利下げ、とも言えるだろう。

トランプ大統領は29日に、FRBの利下げが予想されるが、それは「十分ではない」とツイッターで発言した。また、FRBは「間違ったことばかりしている」、「インフレ率は非常に低いが、われわれのFRBは何もしない。おそらく、他(の中央銀行)と比べると非常にわずかなことしかしない。残念だ」などとも語っている。

7月31日に利下げが決定されても、トランプ大統領によるFRB批判は止むことはないだろう。仮に、米国経済が先行き力を増していっても、それは変わらないのではないか。それは、トランプ大統領は、景気刺激のためだけではなく、ドル安誘導のためにFRBの利下げが必要だと考えるからだ。そして、FRBの利下げが思ったようにドル安につながらない場合には、トランプ大統領はドル安誘導を意図して、米国単独での為替介入を実施する可能性がある。これは、ドルに対する信認を大幅に低下させ、グローバル市場を混乱に陥れるリスクを持つ危険な政策だ。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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