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日銀は市場に配慮しつつ追加緩和の温存を続ける

2019年07月30日

新たな一文をどう評価するか

7月30日の金融政策決定会合で、日本銀行は大方の事前予想通りに、金融緩和措置の実施を見送った。さらに、一部で観測が浮上していた、時間軸を伴う政策金利のフォワードガイダンス(政策方針)の修正も実施されなかった。また、7月展望レポート(経済・物価情勢の展望)の予測値についても、微調整にとどまり、サプライズはなかった。

そうしたなか、今回の公表文の最後に新たに加えられた以下の一文をどう評価するかが、最大の注目点となる。

「特に、海外経済の動向を中心に経済・物価の下振れリスクが大きいもとで、先行き、『物価安定の目標』に向けたモメンタムが損なわれる惧れが高まる場合には、躊躇なく、追加的な金融緩和措置を講じる。」

米連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)は、それぞれの会合で金融緩和の実施を強く示唆したうえで、次の会合で政策金利の引き下げに動こうとしている。上記の一文が、これに類するものであるとすれば、次回9月の会合で追加緩和措置を実施することを予告したと解釈できる。実際に、そのような解釈をする向きもあるかもしれない。

しかし、実際にはその解釈は正しくないだろう。仮に、物価のモメンタムが損なわれたとの判断がなされるとすれば、それは、展望レポートで先行きの物価見通しが顕著に下方修正されることに併せて示されるのではないか。9月の会合では、展望レポートは示されないことを考慮しても、次回9月の会合で追加緩和が実施される可能性は低い。


金融緩和実施の予告ではない

FRBとECBなど主要中央銀行が政策金利引下げに動く中、日本銀行は追加緩和措置を講じないとの期待が市場に強まると、為替市場で円高が進行してしまう可能性がある。日本銀行が公表文にこの一文を加えた狙いは、そうしたリスクを減らすためであり、口先介入的な意味合いが強いのではないか。

また、「躊躇なく、追加的な金融緩和措置を講じる」は、総裁が好んで使ってきたフレーズとの印象がある。今回の金融政策決定会合で、日本銀行が何ら追加のメッセージも発しない場合、つまりゼロ回答の場合に円高進行など金融市場が悪く反応することを恐れた総裁が主導して加えた保険的意味合いの強い文言であったのかもしれない。


追加緩和の可能性は10月以降

日本銀行は、できる限り追加緩和策を温存しておきたいというのが基本姿勢と考えられる。そうしたなか、追加緩和実施までの時間稼ぎに使うことを念頭に置いているのが、政策金利のフォワードガイダンスで時間軸を延長する措置だ。今回も、「少なくとも2020年春頃まで、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持する」との文言を、「少なくとも2020年後半頃まで」などと修正することも選択肢にあったのではないか。

実際には、このフォワードガイダンスの時間軸延長ではなく、上記の文言追加を選択した訳だが、それは、前者が将来の政策金利引き上げ(政策の正常化)時期についての市場の期待を先送りするのにとどまるのに対して、後者は政策金利引き下げなど、当面の政策変更に対する市場の期待に直接働きかけるものであり、市場安定化効果で前者に勝る、との判断があったのかもしれない。

一層の景気減速、円高進行などが生じた場合には、日本銀行は、必要に応じて複数回にわたるフォワードガイダンスの時間軸延長で時間稼ぎをし、追加緩和を温存するだろう。一方、日本銀行は金融政策の正常化も視野に入れていると考えられる。この観点から、将来の正常化策を強く縛るような、思いきったフォワードガイダンスの時間軸延長は控えるのではないか。例えば、時間軸の延長も、2021年前半頃までではないか。

日本銀行は、追加緩和を実施せずに済むことを期待し、その可能性も視野に入れているだろう。他方、内外景気の明確な悪化、1ドル100円に接近する円高進行、政府による巨額の景気対策(消費税対策の上積み)が、追加緩和実施のきっかけになり得る。

筆者はあらゆる追加緩和措置の実施に反対であるが、消費税実施後の10月以降は、追加緩和の可能性が出てくることは否定できない。その際、追加緩和手段は、政策金利の-0.1%から-0.2%への引き下げ、あるいはそれとETFの買入れ増額との組み合わせが有力と考えられる。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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