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リブラ構想の背後にも米中覇権争いか

2019年07月18日

リブラ対応の議論はG7中銀だけで良いのか

17日に2日間の予定で開幕したG7(先進7か国)では、予想されていた通り、フェイスブックが発行を計画している新通貨・リブラが初日に議論された。リブラへの「重大な懸念」が共有され、規制を含む対策を早急に策定することで各国は一致した。既に6月には、リブラへの対応を巡るG7中央銀行の作業部会が設けられていたが、それが10月に最終報告を出す予定だ。そこでは、マネーロンダリング(資金洗浄)などの犯罪防止策に加えて、金融政策の効果を低下させない方策、銀行預金の減少などを通じて銀行システムの健全性が損なわれないための対応などが示されよう。

しかし、プラットフォーマーと呼ばれるフェイスブックが金融業に参入することで生じるデータ独占とそれによる市場独占など、全く新しい問題への対応は、中央銀行間だけでの議論では十分にカバーされないのではないか。この点から、中央銀行あるいは金融規制当局だけでなく、競争政策を担う当局とも連携しつつ、より包括的な対応を議論すべきではないか。

さらに、プラットフォーマーの金融業参入は、中国が既に経験しており、それへの規制のノウハウも蓄積している。また、リブラの利用が広がった場合に、金融システムや金融市場の安定、あるいは国家の通貨主権に最も影響が及びやすいのは法定通貨の信認が概して高くない新興国だろう。この点を踏まえると、中国を含む新興国もこの議論に入ることが望ましく、G7よりもG20を議論の場とした方が妥当なのではないか。


リブラ・リザーブはドル5割で人民元は含まれない

また17日には、前日の米上院に続いて、下院でもリブラに関する公聴会が開かれた。前日に続き証言を行ったフェイスブックのデビッド・マーカス氏に対し、議員から激しい批判が浴びせられ、同氏は防戦に終始した。

ただし、複数の議員が尋ねた「議会と規制当局がリブラを巡る懸念を払しょくできるまでその開発を一時停止することに同意するか」について、マーカス氏は、計画を進める予定であると答え、リブラ発行に向けた強い意志を改めて明らかにした。

マーカス氏の発言の中で最も注目されたのは、リブラの価値を安定させ、また信頼性を高めるためにリブラ協会が保有する、複数の安全通貨によるリブラ・リザーブの構成について言及した箇所だ。同氏は、「およそ50%がドル、そしてユーロ、英ポンド、円などが入る」とする一方、中国人民元は「入らない」と発言したのである。

リブラ・リザーブは、国際通貨基金(IMF)のSDR(特別引き出し権)がモデルになっていると考えられる。SDRは国際流動性の不足を補填することを目的とした準備資産であり、現在は、ドル、ユーロ、人民元、日本円、英ポンドの5通貨からなる。それぞれのウエイト(2015年基準)は、ドルが41.7%、ユーロが30.9%、人民元が10.9%、日本円が8.3%、英ポンドが8.1%である。

人民元を含まないリブラ・リザーブでは、SDRに占める人民元の構成比分だけドルの構成比が高まり、ユーロ、日本円、英ポンドについては、SDRと同程度の構成比になることが考えられる。

人民元をリザーブに入れないということは、リブラの設計の意図と深く関わっているのではないか。中国では既に、アリペイやウィーチャットペイなど、プラットフォーマーによる決済サービス、デジタル通貨の発行が支配的となっている。リブラが目指しているのは、中国を除くグローバル通貨になるということなのだろう。

他方で、中国の決済サービス、デジタル通貨がその他の国でも大きく広がることを懸念し、それに先手を打つ狙いがリブラ構想にあるのだろう。実際、リブラに強い懸念を示す米議会、当局に対してフェイスブックは、中国とは明言しないものの明らかに中国を念頭に、「リブラを作らなければ他の国が同様なものを作ってしまう」と、危機感を煽っている。この観点は、今後、リブラが米政府や議会からの支持を取り付ける際の、一つの論点となるかもしれない。

このように、リブラ構想の背景にも、米中の覇権争いが影響している。そして、リブラが発行されれば、それは中国あるいはその友好国と、米国その他の国の間で、異なる規格のデジタル通貨が流通し、世界が2分される事態へと発展する可能性がある。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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