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リブラを巡るフェイスブックと金融当局との長い闘い

2019年07月04日

強い逆風下でリブラ計画を発表した意味

フェイスブックが発行を目指す新通貨・リブラについては、世界中の金融当局や米国議会から、それを強く警戒する意見が噴き出している。リブラ計画の発表直後に、米下院金融委員会のウオーターズ委員長(民主党)は、「仮想通貨の開発停止に合意するようフェイスブックに要求する」との声明を発表した。また、米上院銀行委員会も公聴会を7月中旬に開く計画だ。金融安定理事会(FSB)も各国の首脳に書簡を送り、事実上リブラを名指しして規制を求めた。

フェイスブックは個人データ流出問題をきっかけに、世界中から強い批判に晒され、また、コンテンツのチェックや個人データの利用、管理について厳しい対応を求められている。さらに足もとでは、米国の反トラスト法の適用を視野に司法の捜査の手も及びつつある。フェイスブックを含めてGAFAの解体を主張する意見も米議会には出されている。

こうした極めて強い逆風の中で、フェイスブックがグローバル規模で新たに金融分野に足を踏み入れると宣言すれば、それだけで多くの批判を浴びることは目に見えていた。それにも関わらず、このタイミングで新通貨・リブラの発行計画を公表したのはなぜだろうか。


ビジネスモデルの修正を迫られるフェイスブック

フェイスブックは2012年に、5つの経営理念を発表している。影響力を重視(FOCUS ON IMPACT)、迅速に行動(MOVE FAST)、大胆であれ(BE BOLD)、オープンであれ(BE OPEN)、社会的価値を築く(BUILD SOCIAL VALUE)の5つだ。最後の点については、「フェイスブックは単に一企業を築くために存在しているのではなく、より開かれ、つながった世界を作るために存在している。フェイスブックで働く者すべてに、日々のあらゆる活動において、世界にとって真に価値あるものをどのようにして築くか、という点に力を注いでもらいたい」と説明されていた。

リブラ計画はこうした理念の延長線上にあると考えることもできるだろう。リブラ計画の概要を示すホワイトペーパーでは、以下の6つの理念が打ち出されているが、特に社会的価値を築く(BUILD SOCIAL VALUE)、というフェイスブックの企業理念と重なる部分は多い。金融包摂を推進することが、社会的な意義を持つことと強調されている。

  • もっと多くの人が金融サービスや安価な資本を利用できるようにする必要がある、と私たちは考えます。
  • 人には合法的な労働の成果を自分でコントロールする生まれながらの権利がある、と私たちは考えます。
  • グローバルに、オープンに、瞬時に、かつ低コストで資金を移動できるようになれば、世界中で多大な経済機会が生まれ、商取引が増える、と私たちは考えます。
  • 人びとは次第に分散型ガバナンスを信頼するようになる、と私たちは考えます。
  • グローバル通貨と金融インフラは公共財としてデザインされ統治されるべきである、と私たちは考えます。
  • 私たちには全体として、金融包摂を推進し、倫理的な行為者を支援し、エコシステムを絶え間なく擁護する責任がある、と私たちは考えます。

他方、リブラ計画は、強い規制の流れの下でフェイスブックの既存のビジネスモデルが修正を迫られる中、ビジネスモデルの転換と新たな収益源の確保を狙ったという側面もあるのではないか。そして、金融包摂の推進など社会的意義を強調することで、大衆を味方につける狙いがあるのだろう。


リブラの法制上の不確実性は強い

6月29日の日本経済新聞は、「金融庁は、米フェイスブックのリブラについて『暗号資産(仮想通貨)にあたらない可能性が高い』との見解に傾いている」と報じている。資金決済法によって仮想通貨は「法定通貨または法定通貨建ての資産ではない」と位置づけられているのに対し、このリブラは米ドルやユーロなどの法定外貨を裏付けとするためだという。

その場合、リブラの再販や回収を行う再販業者は、日本では新たに資金移動業としての登録が必要となるだろう。これは、現状では1回に100万円までの送金を認められているスマートフォン決済の運営会社などに適用されるものだ。そして、仮想通貨交換業の登録業者(仮想通貨交換所)は、リブラを扱う再販業者とは認められないことになる。

しかし、実際には見解は分かれており、リブラは仮想通貨と解釈されるべき、との専門家の意見もある。この場合には、リブラ協会が発行するリブラを円や他の仮想通貨と交換する役割を担うのは、既存の仮想通貨交換業の登録業者(仮想通貨交換所)となるのだろう。


「KYC」と「AML」がポイントに

リブラについて、金融当局が最も強く懸念しているのは、「KYC」(Know Your Customer:本人確認)と「AML」(anti-money laundering:マネーロンダリング対策)の2つへの対応だ。

リブラのホワイトペーパーには、「Libraブロックチェーンには匿名性があり、ユーザーは実世界の本人とリンクされていない1つ以上のアドレスを保有することができます」と書かれている。この点から、「KYC」と「AML」が金融当局の大きな懸念として浮上しているのだが、この点にどのように対応するかについて、フェイスブックからの明確な説明はない。それがリブラへの不信感をさらに高める結果ともなっている。

リブラでも、サービスを利用するためのウォレットでは利用者のKYCを義務付けることを計画している、とも言われている。しかし、誰にも邪魔されずに送金できるという、既存の暗号通貨のコンセプトを踏襲したリブラに対して、当局が「KYC」と「AML」の観点から警戒心を緩めることにはならない。今のところ、金融当局が抱く懸念や規制の考え方に関して、フェイスブックは当局と真摯にコミュニケーションを行う姿勢を見せていないように見える。

他方、金融当局はフェイスブック、あるいはリブラ協会が、決済分野にとどまらず、将来的にはどの程度まで金融業務を拡大させていくかについて不確実である点も、懸念を高めている。フェイスブックは、将来、貸出業務に乗り出す考えも示唆している。


各国金融当局との交渉に膨大な時間

ロイター通信社によると、リブラの取引を扱うフェイスブックの子会社カリブラは、米国で金融取引の事業免許を申請し、米財務省の金融犯罪取り締まりネットワーク(FinCEN)に登録した。さらに、カリブラはニューヨーク州金融サービス局から同州で仮想通貨事業を行う免許も申請したという。また、英金融行為規制機構(FCA)、イングランド銀行(英中銀)、スイス連邦金融市場監督機構(FINMA)もフェイスブックから接触があったことを明らかにしたという(注1)。

これらは、フェイスブックがリブラを起点に、将来、金融ビジネスを一層拡大することを狙って、幅広く免許、認可などを各国で得ようとしていることを意味しているのかもしれない。しかし、それらは金融当局の警戒心をより煽る結果ともなりかねない。そして、免許、認可の取得や規制を巡る、各国ごとの金融当局との交渉は、フェイスブックに膨大な時間とコストを掛けることを強いる結果となるのではないか。

フェイスブックは、目立った規制を受けない中で、SNSを世界に広げることが可能だった。それは、ネットサービスが新たな分野であったため、各国で規制を免れることができた面があった。しかし、ひとたび金融の世界に足を踏み入れれば、それは長らく強い規制の下に置かれた伝統的業態なのである。


(注1)「アングル:フェイスブックの仮想通貨「リブラ」に規制当局の壁」、ロイター通信ニュース、2019年7月1日

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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