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5Gで中国に優位を許す米国の課題

2019年06月26日

米中貿易戦争が米国の5G関連投資を遅らせている

米トランプ政権は、5G(次世代高速通信規格)分野で中国に優位を許さない強い覚悟であることを表明してきた。しかし、同政権が実施してきた中国からの輸入品に対する追加関税導入は、米国での5G関連投資を遅らせるリスクを自ら高めるものとなっている。シスコシステムズなど、中国に工場を持つ欧米企業にとっては、米国に輸出する5G関連製品の価格がすでに上昇している。

こうした措置は、AT&Tやベライゾン・コミュニケーションズなどの米通信大手が5G網に必要な携帯中継塔のハードウエアや交換機、ルーターを取得する費用も引き上げ、投資を抑制してしまう可能性があるだろう。さらに、こうした通信会社のコスト増加が、例えば5Gスマートフォンサービスの利用料に転嫁されることになれば、顧客にとっての5Gの魅力も薄れてしまう。

これに加えてトランプ政権は、米国での5G関連投資のコストをさらに高める可能性のある措置を検討している。6月23日に米ウォール・ストリート・ジャーナル紙が報じたところによると、トランプ政権は、欧州の通信機器メーカーなどに対して、5G関連機器の設計と製造を中国以外で行うように義務付けることを検討しているという。

トランプ政権は既に、米国内の5G市場からファーウェイ(華為技術)やZTE(中興通訊)といった中国の通信機器メーカーを、事実上排除している。その結果、スウェーデンのエリクソンとフィンランドのノキアの北欧2社が、基地局を中心に5G関連機器を米国企業に多く供給している。

こうした措置が実施されれば、エリクソンとノキアも、生産拠点の変更を迫られることになる。2018年時点でエリクソンの生産のうち中国の占める割合は45%、ノキアは10%だという。生産拠点変更に伴い発生するコストや、中国よりも人件費の高い国での生産は、米国に販売する5G関連機器の価格を押し上げることになるだろう。


米国では5G関連で深刻な投資不足

中国で製造された製品は、仮に欧米企業によるものであっても、盗聴や機密データの窃取などのリスクがある、というのがトランプ政権の考えだ。それに加えて、5G分野で米国は中国に後れをとっており、それを挽回する意図も背景にはあるのだろう。しかし、こうした措置は、関連投資を抑制し、5G分野での米国の競争力をさらに低下させてしまうリスクもあるのではないか。

2019年4月に米国防総省に技術革新の協力と助言を行う国防イノベーション諮問委員会が、5Gのエコシステム(生態系)に関する報告書を公表した(注1)。その中では、米国は最新技術の開発と5Gの世界標準の確立で後れを取っていることを指摘している。「5Gを制する国が多数のイノベーションを握り、世界標準を定めることになる。現時点で、米国がその国になる見込みは薄い」と明確に述べているのである。さらに、欧米に比較して中国が優位に立っている理由として、中国の製品の方が欧米の製品よりも安いうえに、多くの場合より質が高いことを挙げている。

このように同報告書は、5Gの分野で米国が中国に優位を許してしまった原因の一端は、米国企業による投資不足にあると指摘している。中国は過去5年間に1,800億ドルを投じ、米国の10倍の数の基地局を設置した。これに対して、債務負担を抱えるベライゾンやAT&Tなどの米企業は、必要な数の基地局を整備するための投資ができていないのが現状だ。


周波数帯へのアクセス制限が米国の問題

5Gネットワークの構築が進められる中、最も重要な周波数帯への通信事業者のアクセスが限られていることが、米国の5G計画が出遅れている一因となっている面もある。問題になっているのは、長距離伝送が可能で、建物などを通り抜けられる「ミッドバンド」と呼ばれる中間周波数帯である(注2)。ミッドバンドでは、通信会社が近隣地域に何10万もの新しいアンテナを一斉に立てる必要がなく、既存の携帯基地局を利用して配備できる。

米通信大手スプリントと米衛星放送大手ディッシュ・ネットワークは、もともとミッドバンドを多く保有しているが、それは顧客へのサービスには利用されていない。米国ではミッドバンドは、民間用ではなく衛星通信や軍事用途にあてがわれているためだ。

通信大手のベライゾン・コミュニケーションズとAT&Tは、高周波数帯に含まれる「ミリ波」を使った5Gサービスを、いくつかの都市で開始している。このミリ波は、超高速で通信できるが、長い距離は難しいうえに建物の壁など固い物質は通り抜けにくいという欠点を持つ。そのため、広範囲に5Gサービスを行うには、相当数の基地局を新たに設置する必要が生じるのである。

逆に、ミッドバンドは通信速度ではミリ波に劣るものの、既存の通信インフラを使える利点があり、コストを抑えることができる。通信会社も、5Gの迅速な普及にはミッドバンドが必要だと主張している。しかし、このミッドバンドの活用で、現状、米国は中国や韓国に後れをとっているのである。

米国での5Gの拡大を加速させるために、より多くのミッドバンドを開放することが連邦通信委員会(FCC)に期待されており、実際、その検討はなされている。しかし、それでもミッドバンドの利用拡大にはまだ時間がかかりそうだ。

新しいミッドバンド周波数の入札は、少なくとも、FCCがミリ波の割り当てを2019年末に終えるまで開始されないからだ。その間も、自動運転車、あらゆるモノがネットにつながるIoT、スマートシティ、仮想現実(VR)、戦場(実際の戦いとサイバーを含む)、など広範な技術分野で利用が見込まれる5Gサービスで、米国は中国の優位を許してしまう可能性があるだろう。


(注1)「米中5G覇権争い、揺らぐ米国の優位」、ファイナンシャル・タイムズ、2019年6月19日
(注2)"5G Push Slowed by Squabbles Over 'Sweet Spot' of U.S. Airwaves", Wall Street Journal, June 24, 2019

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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