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ECBの4月の政策理事会のAccount-Uncomfortably below

2019年05月24日

はじめに

4月の政策理事会の議事要旨(Account)は、政策理事会メンバーの間で景気の低迷が一時的ではないリスクが意識されたことを示唆している。一方で、そうしたリスクへの対応策については、まだ具体的な議論に至っていないようだ。


経済情勢の判断

執行部説明の中で、プラート理事は、足元で個人消費の減速に歯止めがかかった点を指摘するとともに、雇用や所得のようなファンダメンタルズが良好に維持されている点を強調した。

加えて、それ以前の減速の要因を、原油価格の上昇(による購買力低下)、環境対策に伴う自動車の供給制約、マクロ経済の不透明性増加、および個別国の特殊事情と整理し、一時的な側面も強いとの見方を示唆した。

これに対し、設備投資については、当面はより減速したペースでの拡大に止まるとの見方を示した。この点に関しては、海外要因の大きさを示唆しており、グローバルに見ても製造業関連の指標が低迷し、かつ貿易量が(1月時点で)減速している点を指摘した。

なかでも輸出に関しては、ユーロ圏の域外向けと域内向けの双方が減速し、短期で回復する兆しが見えない(no immediate recovery was in sight)とやや強い表現で懸念を示している。

政策理事会メンバーも、こうした見方に概ね(generally)同意した。つまり、一時的な要因の影響は剥落しつつあるが、海外経済からの逆風(headwinds)は影響し続けているとの理解を示した。特に貿易については、中国経済の減速に歯止めがかかった点を歓迎する一方で、貿易摩擦やBrexitに関する不透明性がむしろ高まったことへの懸念が示されている。

もちろん、中国経済の減速は貿易摩擦と無関係でないが、経済対策の効果によって減速に歯止めがかかることは考えられる。しかし欧州にとっては、仮に米中間の摩擦が沈静化しても、米欧間での自動車を中心とする交渉が本格化するリスクも高く、貿易摩擦が不透明性の源泉であり続けることに注意する必要がある。

その上で、政策理事会メンバーは、根強い「soft patch」の意味合いについて議論しており、今回のストレスが輸出から生産へ波及しているため、経常収支が黒字であるユーロ圏は相対的に影響を受けやすい点や、域内では特定国に影響が目立つ点が指摘されている。

政策理事会メンバーからは、「soft patch」が一時的に止まり、追加的なショックがなければ堅調な成長へ回帰するとのメインシナリオにも懸念が表明された。これに対しては、過去にも一時的な減速は数多く見られたとの指摘や、サービス部門は堅調さを維持しているとの反論も示された。ただし、金融市場が(4月政策委員会の時点で)安定を取り戻し、それはフォワードルッキングな意味合いを持つとの指摘は、現在は説得力が低下している面もあろう。

実際、プラート理事も政策理事会メンバーも景気の先行きについては下方リスクが相対的に大きい点で一致している。


物価情勢の判断

プラート理事は、足元でインフレ率が低迷していることを確認しつつも、賃金上昇は契約部分を中心に堅調に上昇しており、かつ域内諸国で幅広く観察される点を強調した。また、インフレ期待についても、市場ベースでは若干の鈍化がみられるが、サーベイベースでは特に長期の期待が安定を維持していることを説明した。

政策理事会メンバーもこうした見方に幅広く(broadly)合意し、足元では基調的インフレ率が低迷しているものの、タイトな労働市場や高水準の設備稼働率の下で賃金上昇が続くとして、インフレ率が目標に向けて収斂する動きが続くとの理解を示した。

また、3月のHICPコアインフレ率が予想以上に低下した点についても、統計作成方法の改訂やイースターのタイミングによる影響に注意すべきとの指摘がなされた。その上で、中長期的には賃金から物価への波及が重要であり、これまでは企業がマージンの圧縮を通じて賃金上昇を吸収し続けてきたが、やがては物価に転嫁されるとの見方が示された。

政策理事会メンバーの一部からは、市場ベースのインフレ期待の低下への懸念も示されたが、むしろ景気指標の鈍化に反応している面が強いとの反論も示されている。この点に関しては、金融市場に関する執行部説明の中で、デギンドス副総裁も、10年物のOISによる推計結果として、総じて見ればインフレの影響が相対的に大きいが、足元では経済成長の影響も影響している可能性を示唆している。


政策運営

プラート理事は、前回(3月)の政策理事会に比べて、(FRBの援軍もあって)長期金利が低下し、資産価格のボラティリティも低下するなど金融環境が一段と緩和したことを指摘した。その上で、金融政策の現状維持を提案した訳である。

そうした提案に政策理事会メンバーも全員一致で同意した。一方で、前回(3月)に比べて経済見通しに関する不透明性が高まったとの認識も示し、次回(6月)では執行部による見通しの改訂も含めて、より幅広いデータが得られることを確認した。

その上で、現時点で政策対応が必要という訳ではないが、インフレ率が目標対比で不快なほどに(uncomfortably)低位であり、市場ベースのインフレ期待にも低下の兆しが見られ、インフレ目標への到達見通しが繰り返し先送りされる問題も提起された。

この点に関しては、インフレ率が目標に向かって持続的な形で収斂するよう、政策理事会として全ての政策手段を適切に活用するとの意思を確認した。また、インフレは究極的には貨幣的現象であり、経済構造に関する要素は潜在成長率と金融政策の効果の実現に寄与するとの理解が強調された。

TLTRO IIIに関しては、プラート理事が、政策効果の波及メカニズムや経済情勢の推移を考慮して条件を決定する考えを示し、政策理事会メンバーも同意した。また、①不確実性が上昇した場合の保険としての役割を持たせるべきとの意見や、②金融政策の強度を調節する手段としての位置づけを期待する意見が示された。

なお、マイナス金利政策に関しては、プラート理事が政策効果の維持のために副作用の除去の必要性を検討する可能性を示唆し、政策理事会メンバーも定期的にそうした検討を行うことに合意するに止まった。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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