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崩れる中国のグローバル・バリューチェーン

2019年05月17日

ファーウェイ向けの米企業輸出を事実上禁止へ

合意間近とされていた米中貿易協議は、5月上旬に一転、決裂状態へと陥った。これを受けて、トランプ政権は5月10日に、中国からの輸入品2千億ドル相当分に対する追加関税率を、10%から25%に引き上げる制裁措置を発動した。また、中国政府は13日に、600億ドル相当の米国製品への関税率を、5~10%から最大25%へと引き上げる報復措置を発表、同日に米国政府も、約3,000億ドル相当の中国からの輸入品に最大で25%の関税を上乗せする案を発表した。米中は再び報復関税の応酬の様相となってしまった。

トランプ政権は、こうした追加関税措置に加えて、畳み掛けるかのように15日に、中国の最大手通信機器ファーウェイ(華為技術)に対する米国の部品などの輸出を事実上禁止する強硬措置を打ち出した。ファーウェイは否定しているが、米商務省は、「同社が制裁対象のイランと取引し、米国の安全保障や外交政策上の利益に反する行為をした」として、同社とその系列会社を輸出管理法に基づく「エンティティー・リスト(EL)」に追加すると発表した。

この措置で、今後、ファーウェイに部品などを供給する米企業(サプライヤー)は、同社との取引を継続するためのライセンスの申請を余儀なくされる見通しだ。実際には、政府の運用を通じて、取引の継続はかなり難しくなると見られる。

このライセンスの承認を得るには、数週間から数か月要する可能性がある。この点から、直ぐに輸出禁止となるのではないだろう。また、米国産部品を含む製品をファーウェイに販売する米国以外の海外企業についても、このライセンスの申請及び承認が必要になると見られている(注)。米国輸出管理法に基づくと、米国企業の部品・ソフトが全体の25%を超えれば、海外企業にも適用されるとの見方もある(5月18日、日本経済新聞)。

15日にトランプ大統領は、米国企業によるファーウェイ製品の調達を事実上禁じる大統領令にも署名した。事実上の調達禁止は既に行われていたが、ファーウェイ向けの部品供給の制限にタイミングを合わせて大統領令に署名することで、米国政府の強い姿勢を中国側に示す狙いがあったのだろう。


米国企業にも大きな打撃

こうした結果、スマートフォンから5G(次世代通信規格)まで、ファーウェイが事業全般で使用している海外の重要サプライヤーへのアクセスが遮断され、同社の重要部品調達が困難になる可能性が高まっている。

通信機器で世界最大手、スマートフォン販売で世界第2位のファーウェイは、先端部品の多くを米国に大きく頼っている。スマートフォン向け半導体ではクアルコムとブロードコム、携帯中継塔の部品ではインテル、ソフトウエアではオラクルなどだ。

主要な米国企業の販売に占める中国向け比率を見ると、クアルコムが67%、インテルが26%、エヌビディアが24%、アップルが20%を占めている(2018年度、エヌビディアのみ2019年度)。

仮に、海外のサプライヤーに対しても上記のような形でファーウェイ向け販売が規制される場合には、日本企業への影響も避けられない。ファーウェイの世界からの部材調達のうち、日本企業からのものは約1割、年間66億円とされる(5月18日、日本経済新聞)。例えば、東芝メモリは、スマートフォンのデータ保存に使うフラッシュメモリをファーウェイに供給している。村田製作所、ソニーなどもファーウェイのサプライヤーだ。

ところで、ファーウェイは今回の事態を十分に予想していたのだろう。ファーウェイは過去1年、米国によって供給網に支障が生じる事態に備え、在庫を積み増してきたとしている。また、ファーウェイは、米国のサプライヤーへの依存度を低減してきている。既に、先端チップの多くを内製している。また、ファーウェイ製スマートフォンは、現在は、グーグルのモバイル端末向けOS「アンドロイド」を搭載しているが、自社基本ソフト(OS)も開発した。以下に見るZTEの事件も踏まえて、ファーウェイもそれなりに準備を進めてきていたはずだ。


現時点ではまだ脅しの側面も

2018年4月には、イランや北朝鮮に対して通信機器を違法に輸出したとして、米商務省は、中国通信機器大手のZTE(中興通訊)に対して、米国企業との取引を7年間禁止する決定をした。同社は、米国でAT&TやTモバイルUSA、スプリントなど携帯電話大手にスマートフォンを供給している。他方、クアルコムやマイクロソフト、インテルなど米企業の製造する部品等を多く採用している。この制裁措置を受けて、ZTEは米企業から主要部品が調達できなくなり、工場はほぼ操業停止に追い込まれて経営危機に陥ってしまった。その後は14億ドルの罰金支払いと経営陣の刷新を条件に、2018年7月には米商務省はZTEへの制裁を解除した。

売上高で見るとZTEの約8倍であるファーウェイに対する今回の措置は、ZTEの時よりも格段に大きい影響を世界経済に与えるだろう。

ところで、ZTEへの制裁が解除された際には、中国政府からの働きかけに加えて、クアルコムなど同社に部品を供給する米企業からの働きかけによるところもあったとされる。その措置が米企業に与える悪影響が非常に大きかったためだ。

今回のファーウェイに対する措置は、米中貿易協議で中国側からの譲歩を引き出し、6月の米中首脳会談で合意に至ることを目指すための、トランプ政権の戦略という側面もあるだろう。合意に至る場合には、米国企業への大きな打撃にも配慮して、トランプ政権が今回の措置を見直す可能性はあるだろう。撤回をすることはないとしても、緩い運用を通じてファーウェイに対する米企業、あるいは海外企業の主要部品の供給継続を認めるような措置も考えられるところだ。


(注)"Silicon Valley Will Feel Sting of Export Restrictions Against Huawei", Wall Street Journal, May 17, 2019

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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