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動き出す「情報銀行」制度とその課題

2019年05月10日

「情報銀行」制度とは何か

今年3月から認定が始まった「情報銀行」の制度が、徐々に動き出している。情報銀行制度は、個人から託された個人データを、その個人があらかじめ認めた企業に対して事前に同意した条件で提供するものだ。企業は、その個人データを新たな商品、サービスの開発、あるいは広告活動などに利用する。その際に企業は、情報の対価を情報銀行に金銭で支払う。一方、情報銀行は、個人データを提供した個人に、現金、クーポンなどの形で対価を支払うことになる。

個人が自ら情報の提供先企業を探すことは非常に手間がかかり、また、そのノウハウも十分には持っていない。そこで、情報の活用をプロに任せて、情報銀行がその仲介を果たすことで、より効率的に情報の出し手と受け手をマッチングさせることが可能となる。

ところで、個人は保有する資金を銀行に預け(銀行預金)、銀行がプロのノウハウを用いてそれを貸出や証券投資で運用し、その利益の一部を利息として個人に支払う。情報銀行はこうした銀行業務にも似ている。それが、名前の由来なのだろう。


「いいとこどり」を狙った制度

この制度は、個人が自らのデータを管理し、プライバシー保護を強化するとともに、そのデータを有効活用して、個人及び経済全体に利益をもたらすことを狙っている。プライバシー保護とデータの有効活用とは、本来、相容れない面もあるが、この制度は、いわば両者の「いいとこどり」を狙ったものだ。

2018年5月に欧州連合(EU)で施行された「一般データ保護規則(GDPR)」は、プライバシー保護に重きを置いた法規制であるのに対し、例えば中国では、ビッグデータの有効活用により重きを置いた政策をとっている。日本は、その中間の「第3の道」を目指していると言えるのだろう。

日本経済新聞の報道(2019年5月9日)によれば、スカパーは、情報銀行の認定を得て、7月から視聴者の視聴履歴等の情報を外部企業に提供して対価を得るとともに、視聴者には視聴料を割り引く制度を始める。視聴者は情報提供に同意すれば、案件ごとに視聴料が数百円割り引かれるという。また、みずほ銀行などが出資する個人融資サービスのJスコアは、顧客の信用力をAIが評価するスコアを外部企業に提供することに顧客が同意すれば、現金や電子マネーの提供、優遇金利の適用などの対価を払うという。


「データポータビリティ権」確立が課題か

ただし、この情報銀行制度には、なお大きな課題も残されている。個人が受け取る対価が、飲食店の割引クーポンなどにとどまるのであれば、多くの個人は、既にデジタル・プラットフォーマーなどから受け取っている。それでは、情報銀行を活用するインセンティブにはならない可能性がある。データを提供する個人が果たして魅力的な対価を得られる仕組みになるかどうかによって、情報銀行の枠組みが十分に機能するかの鍵を握る。

また、データポータビリティ権が確立されていないことも、情報銀行がその機能を十分に発揮することを阻害している面もある。情報銀行という制度は、個人が自ら関与する形で個人データを管理し、流通させることを可能にするが、企業が取得した個人データを、個人に返すことを強制することはできない。そのため、企業が蓄積した個人データを、すべて情報銀行で一元管理することは不可能だ。

EUのGDPRには、個人の求めに応じてデータを個人に返す「データポータビリティ権(Right to data portability)」が明記されている。日本では、このデータポータビリティ権が確立されていないことから、個人が自らの個人データを完全にコントロールすることはできないのである。

その結果、個人が自ら関与する形で流通させることができる個人データの量が限られてしまえば、情報銀行の利用価値は高まらずに、結局、この制度が十分に利用されない可能性もある。また、情報銀行制度を創設する狙いの一つが、プライバシー問題への対応だが、それも、データポータビリティ権が確立されていないもとでは、十分な成果を発揮できない。


法整備の進展で日本の情報銀行は世界のモデルとなる可能性も

日本の民法が定める所有権や占有権は、有体物に適用されるとされており、物ではない情報、データには、認められていないことになる。こうした日本の法規定が、データポータビリティ権確立の障害になっている面もあるのではないか。

また、情報、データ自体は所有権の対象となっていないことから、その権利、保護が十分になされてこなかった。こうした法的な不透明性が、企業が個人データの利活用に躊躇する理由の一つにもなっているだろう。また、この点が、日本の情報銀行を本格的に機能させていくうえでの今後の大きな課題ともなっている。

他方で、こうした法制面での整備が今後十分に進んでいけば、日本の情報銀行は、プライバシー保護とデータの利活用を両立させ、人々の生活をより豊かにしていく役割を果たしていくことも可能となる。そうなれば、日本の情報銀行が、世界のモデルとなる可能性もあるだろう。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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