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BOEのカーニー総裁の記者会見-Rate hike scenario

2019年05月07日

はじめに

BOEによる今回(5月)のMPCは、四半期に1回のインフレーションレポート(IR)の改訂に当たり、いわゆるSuper Thursdayである。金融政策については現状維持を決定したが、景気や物価の見通しを若干引き上げるとともに、今後の利上げの方針を維持した。


景気見通し

今回(5月)のIRで示された実質GDP成長率の見通しは、2019~2021年の第2四半期の前年比でみて、+1.6%→+1.5%→+2.1%となり、前回(2月)の+1.3%→+1.5%→+1.8%に比べて、2019年と2021年がともに上方修正された。

カーニー総裁は冒頭説明の中で、2019年の上方修正については、 ①他の主要国の金融政策対応によって英国内の金融環境が緩和したこと、②貿易摩擦の不透明性がやや後退したことなどを背景として指摘した。加えて、雇用や所得の拡大を背景に、個人消費が前回(2月)の見通し対比で上振れているとの理解も示した。

ただし、2019年の第1四半期の実質GDP成長率が、前期比+0.5%と大きく改善したことについては、企業がBrexitの不透明性に対応するための在庫積み増しを進めたことによる面-しかもそうした需要が想定よりも輸入の増加を伴わなかったことによる面-や、昨年12月から今年1月にかけての需要の好転が大きかったことによる「ゲタ」による面が大きいと説明した。

また、2021年の上方修正については、Brexitがどのような形で展開するにせよ、この時期には不透明性の低下によって企業の設備投資が本格的に回復するとの見方が背景にあると説明した。また、カーニー総裁やブロードベント副総裁は、質疑応答の中で、金融危機後には労働参加率の上昇などのために労働生産性の改善が停滞しているだけに、企業はBrexitのような制約要因が解消すれば設備投資を拡大するはずとの理解も示した。

もっとも、こうした景気見通しの上方修正に対しては、多くの記者から疑問の声も示された。なかでも数名の記者は、BOEの見通しが円滑なBrexitを前提としている点に再び疑問を呈したが、 カーニー総裁は、英国議会もno-dealに対して今や明確に拒絶姿勢を示したほか、欧州連合が調整期間の延長を容認したのもno-dealを回避するためだったと指摘することで、円滑なBrexitの可能性が以前よりも高まったとの反論を展開した。

別の数名の記者からは、BOEの前提がBrexitの展開に関する市場や企業の不安心理とは整合的でないとの批判も示された。これに対してカーニー総裁は、特に企業を対象とするサーベイ結果について、Brexitの見通しに関する回答には悲観方向でのバイアスが感じられるとの理解を示した(この点は、IRと同時に公表されたMinutesの中でも指摘されている)。


物価の見通しと政策対応

その上で、今回(5月)のIRは2019~21年の同じく第2四半期の前年比でみたCPIインフレ率について、+2.1%→+1.7%→+2.1%との予想を示した。これを前回(2月)の+1.9%→+2.2%→+2.1%と比較すると、2019年が上方修正された一方、2020年は下方修正となっている。

カーニー総裁は、2019年については上に見たような内需の拡大に加えて、エネルギー価格の上昇が寄与する一方、2020年には後者の効果が剥落するとの見方を示した。つまり、基調的には上に見た実質GDP成長率見通しのパターンと整合的な形でインフレが緩やかに加速するシナリオを維持した訳である。実際、マクロの超過需要(つまりGDPギャップ)も、2019~21年にかけて、対GDPで-0.25%→0%→+0.5%と改善を続けるとみている。同時に、失業率も3.8%→3.9%→3.7%と推移するとの予想になり、前回(2月)の4.0%→4.1%→4.0%からさらに下方修正された。

このように、MPCによる物価見通しは景気見通しと整合的な形になっているだけに、これだけを取り出して批判することは難しい面がある。このため記者からは、インフレ率が2%をやや上回る程度であれば、利上げの必要性は乏しいのではないかといった、政策運営への疑問が示された。

実際、声明文やminutesの中で、MPCは、英国経済が上記のような見通しに沿って進む場合、緩やかかつ限定的な形での利上げを行うことが適当との立場を維持した。

ちなみに、今回(5月)のIRで示された景気や物価の上記の見通しの前提となる政策金利は、2019~21年の各第2四半期において、 0.7%→0.8%→0.9%と置かれているが、MPCの場合、これは市場の見通しをそのまま活用している点に注意する必要がある(従って、前回(2月)の0.7%→0.9%→1.1%から「下方修正」されたのも、上記のような金融環境の緩和による)。

これに対しカーニー総裁は、これまでインフレ率のオーバーシュートをある程度容認してきたのは、経済全体にslackが残存していることによるトレードオフが相対的に大きかったためであり、今やこうした制約は解消されつつある点を指摘した。

その上でカーニー総裁は、上記のようなインフレ率見通しが政策金利の緩やかな引き上げを織り込んだ上でのものである点に注意を喚起するととともに、特に労働市場のslackがほぼ消滅する下で、見通し期間を通じてマクロの超過需要が拡大を続けることによるインフレ圧力には注意すべきとの考えを確認した。

同時に、ブロードベント副総裁も、インフレ圧力の原因が内需にあるだけに金融政策による対応が適切との見方を確認するとともに、政策効果の時間的ラグを考慮すると、緩やかかつ限定的な幅であっても予防的な対応を行うことが重要との理解を示した。

この結果、記者の質問や現地メディアの報道が指摘するように、 BOEは主要国の中で最も明確に利上げ方針を掲げる中央銀行となった。Brexitの展開や影響を巡る不透明性を考えると、グローバルなショックの潜在的な発生源にある中央銀行が最もタカ派というのは奇妙な取り合わせである。

その一方で、一部の記者が取り上げたように、Brexitの結果として導入される関税如何では、内需主導のインフレ圧力を強めるリスクも少なくない。BOEとしては、過度に慎重な政策スタンスを示唆することでインフレ期待が上昇し、second round effectを招くことは避けたいのであろう。その意味ではBOEの置かれた状況は特殊であり、カーニー総裁が今回(5月)の記者会見で強調したように、従来のようなFRBの金融政策との高い相関関係にも変化が生ずることになるのであろう。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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