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不透明感が強く残る日米貿易協議の初回会合

2019年04月17日

初回会合で激しい対立は回避か

日米貿易協議の初回会合が4月15日・16日の2日間、ワシントンで開かれた。協議は、茂木経済財政・再生相とライトハイザーUSTR(米通商代表部)代表との間で行われ、2日間の日程を終えた後、茂木経済財政・再生相は日本の記者団に「昨年9月の日米共同声明に沿って進めることをライトハイザー代表と確認」、「早期に合意を目指す内容として、日本側としては物品貿易以外には想定していないと話した」、「為替については2017年2月の日米首脳会談で合意された通り、日米財務相間で議論されることになっている」などと説明した。

こうした発言は、日米間で目立った認識や意見の相違が生じていないとの印象を与えるものだ。しかし、昨年9月の日米首脳会談以降、日米貿易協議を巡って両国間の説明に非常に大きな食い違いが生じていることを踏まえれば、これはやや奇異な感じである。

日本側は、この協議を物品貿易協定(TAG)交渉と説明し、「物品に焦点を絞った交渉であり、より広範囲な分野を含む自由貿易協定(FTA)とは全く異なる」との説明を繰り返ししてきた。しかし、米国政府からは、昨年9月の日米首脳会談の直後に、日米FTAとの発言が飛び出していた。

さらに、USTRが昨年12月に公表した、日本との新たな貿易協議についての交渉方針では、情報通信や金融サービスなどのサービス貿易、知的財産、製薬や医療機器など広範な産業分野を交渉対象にするとされた。これは、日本政府が今まで強く否定してきた、日米FTAに近いものの締結を目指した方針に他ならない。また、今年3月に公表された米国の大統領経済報告でも、「日米貿易協議ではFTA締結を目指す」と明示されたのである。

交渉分野と並んで、もう一つ日米間での食い違いが目立つのは、為替条項の扱いである。USTRの交渉方針は、「不公正な競争上の優位性を得るために、日本が為替レートを操作するのを防ぐ」と明記し、輸出を不当に後押しする為替操作の防止を正式に交渉目標に掲げた。


次回日米首脳会談を視野に

さらに、ムニューシン米財務長官は13日に、日米貿易協定交渉では、「為替も議題となり、協定には通貨切り下げを自制する為替条項を含めることになる」と明確に述べている。日本政府は、「貿易問題と為替問題は別であり、為替問題は別途、日米財務相間で議論される」との説明を繰り返してきた。

しかし、米中貿易協議、あるいは北米自由貿易協定(NAFTA)改定の協議の際にも、米国政府は貿易問題と為替問題を分けていない。日本との貿易協議だけ、米国政府が異なる姿勢で臨む可能性は高くないだろう。

このように、日米貿易協議に関して、日米間における認識の違いは実際にはかなり大きい。それが、この初回会合で表面化しなかったのは、本格的な議論を先送りし、両国間の対立が表面化しないように、日本側が議論を誘導したからではないか。また、冒頭で見た茂木経済財政・再生相の発言は、従来からの日本側の見解を繰り返した面が強い一方、米国側から出された異なる見解、日本への厳しい姿勢などをあえて記者には伝えていないのではないか、との印象がある。実際には、ライトハイザー代表との間で、かなり激しいやり取りがあったのではないか。茂木経済財政・再生相は、貿易協議の対象範囲を確定できなかったことを、正直に認めている。

そもそも、このタイミングで協議が開始されたのは、4月26~27日の日米首脳会談の前に開催しておくことを、日本側が強く望んだからではないかと思われる。日米首脳会談でトランプ大統領が貿易問題について日本を突如として強く批判するような事態を避けるには、「とりあえずは閣僚レベルでの協議に任せてほしい」と、トランプ大統領を説得しておく必要がある。そのために、「日米首脳会談の前に閣僚レベルでの協議が始まった」という実績を作っておく必要があるのではないか。他方、初回会合で日米間の対立が表面化してしまえば、日米首脳会談にも悪影響が及ぶことは必至である。

そこで、日本側は、初回会合では両国の対立、認識の違いが表面化しないように、画策したのではないか。また、米中貿易協議が大詰めを迎える中、米国側は未だ対日協議に本腰で取り組む準備ができていないことも、日本側には幸いした面もあったのかもしれない。

茂木経済財政・再生相は来週、日米首脳会談前に再びライトハイザー代表に会うという。これほど短期間での交渉再開はまさに異例のことだが、それも、日米首脳会談で日米間の対立が表面化しないようにするために万全を期す、日本側の措置なのではないか。


当初は農業分野で米国の対日強硬姿勢が示されるか

しかしながら、今後、日米貿易協議の会合が重ねられていく中、米国政府の厳しい対日姿勢が表面化することは避けられないだろう。協議の最大の焦点は、両国間の貿易不均衡の大部分を作り出している自動車分野となろう。最終的には、米国政府は日本に対して自主的な数量規制を求めてくる可能性がある。

ただし、自動車分野では、米政府は輸入自動車・自動車部品全体への追加関税導入に対する方針を未だ明らかにしていない。日米貿易協議で自動車分野の交渉が本格化するのは、その方針が示された後かもしれない。

当面、両国間の交渉において中心となりそうなのが、日本の輸入農産物、牛肉・豚肉の関税引き下げではないか。TPP11、日・EU(欧州連合)EPA(経済連携協定)が発効したことで、日本で輸入農産物、牛肉・豚肉の価格は下がる一方、それらに加盟していない米国からの対日輸出品は割高となり、競争力が低下し、農家の間で大きな不満が生じている。米国内では、米政府が日本側に、こうした製品の関税率を大きく引き下げるよう強い圧力を掛けるべきだ、との議論が高まっている。ライトハイザー代表も以前、対日貿易協議では農業分野を中心に早期の取りまとめを目指す意向を示していた。

日米貿易協議の初回会合こそ、両国の対立は大きく表面化はしなったが、今後の会合では、米国政府の強い交渉姿勢に日本側が防戦を強いられる可能性は高い。また、為替問題も早晩交渉対象となり、日本銀行の金融政策が制約されるなどの影響が及んでいくことにもなるのではないか。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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