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新紙幣発行はキャッシュレス化に逆行する側面も

2019年04月09日

プラスティック紙幣の導入は見送られた

9日に麻生財務相は、2024年度上期をめどに1万円札、5千円札、千円札の新紙幣を発行すると発表した。紙幣を一新するのは2004年以来のことで、約20年ぶりとなる。

この時期に紙幣を刷新するのは、新元号の発表や開始に合わせたもの、との印象を持った向きは多いと思われるが、麻生財務相は「たまたま重なった」と説明している。他方で、偽造防止の観点からこれまでも約20年ごとに変えてきた、と麻生財務相は説明している。これについては納得感が高い。紙幣は発行から時間が経つに従って、偽造が増えてくるのが一般的だ。紙幣に施された偽造防止の技術が、次第に陳腐化してくるからである。今度の新札には、肖像の3Ⅾ画像が回転する、世界初の最先端のホログラムが採用されるという。

紙幣刷新に際して筆者が注目してきたのは、第1に、日本でポリマー紙幣(プラスティック紙幣)が導入されるか、第2に、高額の1万円札紙幣を廃止することが議論されるか、の2点であった。どちらも見送られたことから、今回の決定は保守的という印象を持った。

世界各国ではポリマー紙幣(プラスティック紙幣)の導入が急速に広まっている。1988年にオーストラリアで発行されたのが最初であるが、その後、シンガポール、ニュージーランド、カナダ、英国などで相次いで導入された。

ポリマー紙幣のメリットは、クリーン度が長く維持されやすい点にある。紙幣と比べて製造コストは高めになるが、長持ちすれば結果的に安上がりとなる。また、その製造にはポリマー用紙の確保と高度の技術が必要であるため、偽造防止効果が高い。

他方で、紙幣に対応している現在のATMや紙幣識別機などの設備を大幅に改修する必要が生じる。つまり社会的コストが高いことが、ポリマー紙幣の導入を見送った理由なのかもしれない。


1万円札廃止は公に議論されず

第2の点については、犯罪に利用されやすいことから、高額紙幣を廃止するのが世界の潮流となっている。スイスの千フラン札と並んで、日本の1万円札も廃止の対象として、海外ではしばしば議論される。その中で、1万円札の廃止の議論が公になされることなく、今回、新たな1万円札の発行があっさりと公表された。もちろん、突然廃止すれば社会的混乱は大きいことは確かであるが、公には全く議論がされなかったことは、それに否定的な財務省、あるいは日本銀行の姿勢を反映しているようにも思われる。

ややショック療法的ではあるが、1万円札を廃止すれば、大量の5千円札、千円札を持ち歩くことの煩雑さから、人々にキャッシュレス決済の利用を促すことになる。政府は2025年までにキャッシュレス化比率を40%まで引き上げることを目指しているが、それに最も前向きなのは経済産業省だろう。他方、財務省、金融庁、日本銀行などは、キャッシュレス化にやや慎重な姿勢と見受けられる。

最後に、新紙幣発行の経済効果が注目されているが、それはかなり限定的だろう。紙幣が新しくなったことで、心理面から消費が促される、あるいは逆に貯蓄が促されることは考えにくい。紙幣の利用が促されるという面は、一時的にはあるかもしれないが、これはキャッシュレス化には逆風だ。

ATM、自動販売機、紙幣識別機などで識別システムの改修は必要になるが、大きな投資需要ではないだろう。既に述べたように、仮にポリマー紙幣の導入が決定されていれば、その適用に必要な企業のコスト、裏返せば新規投資需要は格段に大きくなったはずだが、それは見送られたのである。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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