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FRBのパウエル議長の記者会見-Downplay

2019年03月22日

はじめに

今回(3月)のFOMCは金融政策の現状維持を決定した。さらに、経済成長率の見通しを引下げ、政策金利の年内据え置きが大勢の予想となり、バランスシートの縮小も9月末で事実上終了することを決定するなど、一段と慎重なスタンスを与えるものとなった。しかし、パウエル議長は異なるメッセージも意図していたようだ。


景気と物価の評価

今回(3月)のFOMCで示された見通し(SEP)は、景気見通しをさらに下方修正した。つまり、2019~21年の実質GDP成長率見通し(median)は+2.1%→+1.9%→+1.8%となり、前回(12月)に比べて、2019年が0.2pp。2020年が0.1pp引下げられた。

FOMCは「長期」の見通しを+1.9%に維持したので、パウエル議長が指摘したように、当面は潜在成長率付近で推移するとの見方を確認した。加えて、FOMCメンバーによる2019年の予想の分布は、むしろ下方に厚くなっている点も注目される。

記者会見では下方修正の背景を問う向きが目立ったが、パウエル議長は、欧州と中国の顕著な景気減速の影響を再三強調した。一方で米国に関しては、昨年に比べて財政の貢献が減衰している点を認めつつ、家計を中心にファンダメンタルズ良好に維持され、ポジティブな見方を持っていることを再三強調した。

この点は今回(3月)の声明文と整合的でないように見える。声明文は、設備投資だけでなく家計消費も含めて、第1四半期の経済活動が減速したとの見方を示したからである。もちろん、声明文は足許の動きを描写する一方、政策運営は基調的な動きに基づいてなされるが、パウエル議長は下方修正が過度にネガティブな印象を与えるのを避けようとしている印象も受けた。

物価についても、今回(3月)の見通し(SEP)は僅かに下方修正している。つまり、2019~21年のPCEインフレ率(median)は+1.8%→+2.0%→+2.0%となり、前回(12月)に比べて、各年ともに0.1pp引下げられた。

もっとも、PCEコアインフレ率の見通しは前回(12月)と全く変わらず、2021年にかけて+2.0%のまま推移するとの見方が維持された。パウエル議長も、質疑応答の中で総合インフレ率は様々な要因で2%の近傍で上下する可能性があるが、コアインフレ率は実質的に目標を達成した状態を維持するとの見方を示した。

記者からは、賃金上昇による物価への波及等について質問が示されたが、パウエル議長は、今回(3月)のFOMCにおいて自然インフレ率やインフレ期待の低下に関する議論があったことを説明し、インフレの上方リスクについての懸念を否定した。

なお、今回(3月)の見通し(SEP)では、失業率の見通しも僅かに上方修正された。つまり、2019~21年の失業率(median)は3.7%→3.8%→3.9%となり、前回(12月)に比べて、2019年と2020年が0.2pp、2021年が0.1pp各々引上げられた。それでも「長期」の4.3%を下回っており、パウエル議長も、最大雇用の面でも目標を達成した状態が維持されると説明した。


金融政策の運営

今回(3月)のFOMCは金融政策の現状維持を決定した。また、新たなdot plotによる政策金利の予想パス(median)は、2019~21年にかけて2.4%→2.6%→2.6%となり、前回(12月)に比べて、全期間にわたって0.5ppの大きな下方修正となった。

実際、2019年のdot plotによれば、17名のメンバーのうち11名が政策金利の据え置きを予想している、また、2020年には25bp単位で1回程度の利上げが見込まれていると言っても、FOMCが「長期」の政策金利として想定する2.8%には、2021年末にも到達しないとの見方が大勢になったことも示唆している。

これに対して記者からは、市場では来年初までに利下げを予想する向きが増えているとの指摘がなされるとともに、政策金利の変更に必要な条件を実質的に問う質問が多く示された。

パウエル議長は、先に見たように、米国経済がデュアルマンデートを満たす状態を維持するとの見方を確認した。その上で、足許の経済指標は政策金利をいずれの方向であれ変化させることを求めるような内容ではないとの見方を強調し、従って、声明文などで表明しているように、政策変更についてpatientであることが適切との判断を正当化した。


バランスシートの運営

今回(3月)のFOMCは、昨年末から市場で思惑を招いたバランスシートの縮小方針についても具体的な改訂方針を明示した。まず、米国債については、本年5月以降は償還に伴う毎月の減少額の上限を、現在の300億ドルから150億ドルへ半減させた上で、本年9月末には減少を停止することを決定した。

Agency債とAgency MBSについては、現在のペース(償還に伴う毎月の減少額の上限を200億ドルとする)を維持した後、10月からは200億ドルまでの償還額は米国債に再投資し、それを超える部分をAgency MBSに再投資することを決定した。また、米国債への再投資は、満期構成についてストックの意味で概ね市場中立となるよう運営することも決めた。

この結果、本年10月からは保有資産の総額は一定に維持される一方、その時点での当座預金の規模は金融政策の効率的な運営に必要な規模よりも幾分大きいとの見方を示した。

しかし、銀行券を含む当座預金以外の負債が増加を続けることで、当座預金の規模も金融政策の効率的な運営と整合的な水準まで緩やかに低下するとした。そして、その後は当座預金以外の負債の傾向的な拡大に整合的な形で、FRBは債券保有の増加を増やすとの方針も決定した。

こうした方針は、FRBの幹部が講演等で示唆してきた内容と同じでありサプライズはない。その上で留意点を指摘すると、まず、FRBはバランスシートの規模の適切さをGDP比で考えている可能性がある。実際、パウエル議長は質疑応答で、10月以降に横ばいとなる総資産規模をGDPの約17%と回答した。

より重要なのはバランスシート運営の政策上の意義である。パウエル議長は政策金利が第一義的な手段との原則を確認したが、上記の方針では、バランスシート規模の削減停止を経済状況も念頭において決定したと説明した。次の景気後退で量的緩和を再発動する可能性を考えると、この点は意図的に曖昧にしておくことが得策という訳である。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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