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ECBの利上げ先送りもドイツ銀行の統合協議を後押し

2019年03月14日

自力更生から統合模索へ方針転換

以前から経営再建を進めているドイツ最大手のドイツ銀行が、同じくドイツ大手のコメルツ銀行と経営統合の交渉を進める方針を固めた模様だ。ドイツ銀行は、2015年~2017年の最終損益が3年連続で赤字となった。2018年には4年ぶりに黒字を計上したものの、収益力になお大きな課題を残している。また、2008年のリーマン・ショック後に公的資金を投入されたコメルツ銀行は、ドイツ政府から15%を超える出資を現在も受けており、経営基盤の強化が大きな課題である。両行ともに、PBR(株価純資産倍率)がわずか0.3倍にとどまっていることが、経営に対する評価が市場で極めて低いことを表している。仮に両行が統合すれば、単純合計で総資産は1.9兆ユーロ近くとなり、欧州では英国のHSBCとフランスのBNPパリバに迫る規模となる。

ドイツ銀行のゼービングCEO(最高経営責任者)は、他行との統合を議論する前に、まず投資銀行部門を中心にドイツ銀行の構造改革を断行するとしていた。しかし、そうした自力再建を優先してきたゼービングCEOは、今回、コメルツ銀行との統合協議に反対する姿勢を取り下げざるを得なくなった模様である。ドイツ銀行の取締役会が、今年2月後半に、コメルツ銀行との非公式な統合協議を始めるようゼービングCEOに強く迫ったと報じられている。

ドイツ銀行が、このタイミングでコメルツ銀行との統合協議を始めることを決めた背景には、幾つかの要因が考えられるだろう。第1は、統合を求める株主からの強い要請だ。株価の低迷自体、現在のドイツ銀行の経営改善を求める株主からの声の反映、とも言える。例えば、ドイツ銀行とコメルツ銀行の双方の主要株主である、米プライベート・エクイティのセルベルス(Cerberus)は、両行の統合を強く求めている。

第2は、ドイツ政府の要請だ。ドイツ政府は、両行を統合させて巨大銀行とすることで、ドイツ企業の国際競争力を高めることを狙っている。他方で、両行が海外の銀行に買収されてしまうことを強く警戒している模様だ。コメルツ銀行は、ドイツ経済を支える中小企業向け融資で圧倒的なシェアを持っている。それが海外の銀行に買収された場合に、ドイツ経済の競争力低下に繋がることも警戒しているのだろう。


統合で構造改革を進める青写真を描けるか

さらに、先日、欧州中央銀行(ECB)が、政策金利引き上げ時期を先送りし、年内には引上げない方針を示したことも影響しているだろう。

ドイツ銀行は、金利が1%上昇すれば、純金利収入は初年度に17億ユーロ程度増加する、との試算を先月示していた。これは、2018年の純金利収入の10%以上に相当する規模だ。また、コメルツ銀行も、金利が1%上昇すれば、純金利収入は5億~5億5,000万ユーロ増えるとの見通しを示している。つまり、両行ともに、収益立て直しのきっかけの一つとして、ECBの政策金利引き上げに大きく期待していた、あるいは、それを最後の頼みとしていたのである。それが裏切られることになったことが、両行の統合気運を高めるきかっけになった面があるだろう。

ところで、ドイツの主要労組、ドイツ統一サービス産業労組(ベルディ)は、両行が統合すれば、少なくとも1万人の雇用が失われるリスクが生まれると指摘し、統合に反対の姿勢を強く表明している。2018年のドイツ銀行の収入に対する経費の比率は、実に93%を占めていた。ドイツ国内での統合となれば、店舗統合、人員削減などを通じて、コスト削減を進めやすい。両行が本格的に経費を削減するには、数万人の人員削減が必要になる、との指摘もある。

また、両行が統合を決めた場合、その実現には、ECB、ドイツブンデスバンク(中央銀行)、BaFin(ドイツ連邦金融監督局)の3者の承認が必要となる。こうした監督当局は、ドイツ銀行とコメルツ銀行が統合することで、一層問題が深まることを警戒しているという。統合が逃げ道になることで、痛みを伴う構造改革がむしろ先送りされてしまうリスクも確かにあるだろう。

このように、慎重意見や反対意見は依然としてあり、ドイツ銀行とコメルツ銀行が正式に統合協議を始めたからと言って、すぐに合意に達する訳ではない。破談となってしまう可能性も十分に残されているだろう。協議を通じて、監督当局が納得するような、大胆な構造改革を伴う統合の青写真を果たして描くことができるかどうかが、統合の成否を左右することになるのではないか。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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