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1月FOMCのMinutes-Constructive ambiguity

2019年02月21日

はじめに

1月FOMCのMinutesでは金融環境の評価と市場との対話に関する議論のウエイトの大きさが目立つ。バランスシートの削減に関する議論も含めて内容を検討したい。


経済と物価の評価

政策論の前提となる実体経済に関する議論をみておくと、執行部とFOMCメンバーとも経済活動は堅調に拡大し、デュアルマンデートが実質的に達成されているとの判断を維持している。

個人消費については、雇用と所得の力強い拡大や高水準の純資産といった良好なファンダメンタルズに支えられ、(主要指標の公表が遅延しているが)堅調な拡大が維持されているとの見方が共有されている。この間、消費者マインドの軟化については政府機関閉鎖の影響が指摘されている。

これに対し設備投資は減速が確認され、製造業(海外経済)、エネルギー関連(原油価格)、農業(貿易摩擦)へ広がりを持つ点も認識されている。背後での企業マインドの慎重化については、欧州や中国を中心とする海外経済の減速、貿易政策の不透明性、減税効果の剥落、政府機関の閉鎖等の要因が指摘されている。

これらに加え、後に見る金融環境のタイト化を理由に、FOMCメンバーの数名(several)は経済成長率の見通しを下方に微修正したようだが、大勢は見通しを変えていないことを示唆している。

インフレ率も2%目標の近傍で推移するとの見方がFOMCの大勢である。ただし、数名(several)は、原油価格の軟化、海外経済や物価の減速、昨年のドル高といった要因により、インフレ指標の軟化が今年中は継続するとの見方を示している。

さらに、多く(many)のメンバーはインフレ圧力が昨年よりも低下したとしている一方、インフレ期待については、市場ベースでの低下が取り上げられたが、サーベイベースのインフレ期待が安定していることを踏まえ、インフレリスクに対するプレミアムの低下による面が大きいとの理解が示されている。


金融環境の評価

金融環境の変化やその背景は1月FOMCの焦点の一つであった。執行部は、前回(12月)のFOMC以降に市場のセンチメントが顕著に慎重化した際には、FOMCのコミュニケーション、経済指標の軟化、貿易政策の不透明化、政府機関の閉鎖、企業収益の先行き懸念が背景であったとの理解を示した。加えて、ボラティリティの急上昇には、年末で市場の流動性が低下したことが影響を与えた可能性も示唆した。

なかでも企業の資金調達については、社債全体の発行額は12月に回復したが、ハイイールド債発行の減少が続いたことや、クレジットスプレッドも足元でやや縮小したが、1年前に比べて拡大している点が指摘された。この間、銀行貸出も全体では大きな変化はないが、商工業ローンが償還の減少やCLO組成の困難化によって伸びを高めているという事実も示唆されている。

FOMCメンバーは、金融環境は全体として元に戻ったとしても、資産価格はvolatileになったほか、株価の下落やクレジットスプレッドの拡大によって、1年前に比べると金融環境は顕著にタイト化したと評価した。加えて、一部のメンバーは金融システム安定への影響に懸念を示し、2名(a couple of)のメンバーは、経済見通しが以前より強くない下では、こうしたストレスが残存したり拡大したりするリスクがある点を指摘した。


政策判断

1月FOMCは政策金利の現状維持を決めたが、理由については、デュアルマンデートの達成が維持される見通しの下で、FOMCメンバーから、現在の政策金利が既に中立金利の推計レンジの下限に達したことや、インフレ圧力が低下したことなどが指摘されている。

その上で、経済の先行きに対する不透明性の高まりの下では、次の政策変更を判断する上で"patient"であるべきとの考えで一致し、FOMCメンバーの多く(many)は、本年後半に政策金利を上下どちらに変更すべきか現時点では明らかでないとの考えを示した。

もっとも、数名(several)はインフレが見通しより上振れした場合のみに利上げが必要と主張した一方、他の数名(several)は経済が見通し通りに拡大した場合も年後半には利上げが適切との意見を示した。また、多く(many)のメンバーは、経済の不透明性が低下した場合は、"patient"を他の表現で置き換えるべきとした。


市場との対話とバランスシートの削減

市場との対話ももう一つの焦点であった。執行部は資産価格が不安定化した際、市場はFOMCが金融環境のタイト化とその影響を考慮せず、金融政策を柔軟に運営しない印象を持ったと説明した。また、その後にFOMCが"patient"な政策判断などを示唆したことを受けて、市場のセンチメントが改善したとした。

加えて、市場における今後の利上げパスの予想は、12月FOMC当時に比べて約25bp低下し、次の政策変更が現状維持ないし利下げとの予想やバランスシートも柔軟に運営するとの見方が台頭したことも示された。

一方、金融政策の長期方針に関する議論で、執行部は、保有資産の削減と非所要準備の増加により、準備預金は大きく減少したと説明した。このため、本年後半には資産規模を一定にした上で、準備預金が徐々に縮小する枠組みへ移行するとの考えを示した。

これに対し殆ど全て(almost all)のFOMCメンバーは、そうした案を支持し、遠くないうち(before too long)に方針を公表すべきと主張した。また、最終的には国債のみを保有する方針に従い、MBSの償還分も国債の再投資に振り替えるべきとの意見も示された。

この間、FOMCメンバーは、バランスシートの削減が金融市場に影響を与えたとする市場の見方を取り上げ、それまで1年以上の間、市場への影響もなく円滑に進展したことやFOMCがバランスシートの削減方針を十分事前に公表していたことなどを指摘しつつ、市場の見方に対する疑問を示した。

もっとも、FOMCメンバーも、政策金利の調節を主たる政策手段と位置づけつつも、バランスシートの削減もデュアルマンデートの達成を支持することが必要であることを確認するとともに、金融経済の動向に即して細部を調整することが適当との見方で合意した。

次の景気後退の際に量的緩和を再活用する蓋然性が高まっている点を踏まえれば、FOMCとしてはバランスシートの規模自体の政策効果について、現時点で決着をつけるメリットは大きくない。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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