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マイナス金利政策は日本に何をもたらしたか?

2019年02月08日

際立つマイナス金利政策のマイナス面

2月16日で、日本銀行のマイナス金利政策導入から3年となる。この異例の政策が、日本銀行の2%の物価目標達成の助けとはならなかったのは、今や誰の目にも明らかであるが、それだけでなく、経済にプラスの効果をもたらした証拠も見いだせない。導入直後には住宅ローンを増加させた銀行も見られたが、これは貸出金利引き下げを通じた他行からの肩代わりによるところが大きく、金利低下で新規借入れ需要が高まった訳ではない。

むしろ、マイナス金利政策の導入は、金融機関の間で金利引下げ競争を煽るきっかけとなり、その収益環境を著しく悪化させてしまった。それは、金融機関の金融仲介機能を低下させ、適切な資源配分を妨げるなどして、長い目で見て経済活動に深刻な悪影響を与える可能性がある。この点から、マイナス金利政策が経済活動に与えるマイナス面は明らかだ。

マイナス金利政策は、その名称が衝撃的であることから、心理的な効果も狙って導入された面もあったのだろう。しかし、プラスがマイナスへと符号が変わるだけで、経済効果が劇的に高まることはそもそもあり得ないことだ。

また、日本銀行の当座預金に一部マイナス金利が適用されたことで、銀行間ではマイナス金利での資金貸借がなされるようになったが、企業や個人の資金調達・運用には、マイナス金利は適用されていない。つまり、マイナス金利の世界にいるのは金融機関だけであり、その外にいる企業や個人にとっては、長らく続いてきた低金利の水準が、微小に低下しただけに過ぎない。

1999年2月に日本銀行がゼロ金利政策を導入してから20年が経過する。低金利環境が長期化した下では、企業や個人の資金調達の金利感応度は著しく低下しており、こうした環境の下でマイナス金利政策の導入が経済活動にプラスの効果をもたらさなかったのは、自然なことだ。


金利低下が生産性上昇率を低下させる

ところで、プリンストン大学の経済学者、アーネスト・リュー教授とアティフ・ミアン教授、シカゴ大学ブース経営大学院のアミール・スフィ教授による最近の論文によると、金利低下はいずれ生産性上昇率を低下させ、経済全体の活力を弱めることになるという。こうした効果は、金利低下が市場支配力の集中を進めることから生じる(注1)。

金利が低下すると、各業界の大手企業は中小企業よりも、はるかにそれを有利に活用することができる。その結果、大手企業の成長は加速し、一時的には生産性が高まる。また、他社の追随を難しくするという面もある。

競争条件が悪化した中小企業は、新製品や技術への投資をやめてしまう。さらに、もはや中小企業との競争に脅かされることがないほど巨大になった業界の大手企業も、次第に投資を手控えるようになる。市場支配力が少数の大手企業に集中することで、新規に開業する起業家も減少していく。こうして、生産性上昇率はやがて低下し、業界の活力は低下してしまうという。また、謎とも言われる近年の米国での生産性上昇率低下の背景を、こうした理論が説明しているとも言う。

これは米国経済の話である。長らく低金利環境が続いてきた日本では、経済の金利感応度は著しく低下した状態にあり、マイナス金利政策の導入を通じた微小な金利低下は、もはや生産性上昇率にプラス効果もマイナス効果ももたらさないのではないか。日本経済の活力を高める政策は、金融政策にはないのである。


(注1)"How Low Interest Rates Can Freeze the Economy", Wall Street Journal, February 5, 2019

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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