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BOEのカーニー総裁の記者会見-Upside potential

2019年02月08日

はじめに

BOEのMPCは今回(2月)のInflation Report(IR)で、2019年の経済成長率見通しを下方修正したが、インフレ率見通しの下方修正はわずかに止め、今後の政策運営について「gradual pace and to a limited extent」な利上げの継続方針を維持した。こうした奇妙な組合わせの背景を含めて内容を検討したい。


経済の見通し

今回(2月)改訂された実質GDP成長率の見通し(median)は、 2019~21年にかけて+1.2%→+1.5%→+1.9%とされ、前回(11月)に比べて、2019年が0.5pp、2020年が0.2ppの幅で各々下方修正された一方、2021年は0.2ppの上方修正となった。

前半期間の下方修正についてカーニー総裁は、冒頭説明の中で、 Brexitの内容や決着と移行期間等に関する不確実性が一層高まったため、設備投資が抑制されている点を指摘した。加えて、世界経済が前回(11月)の見通し対比で下振れしていることや金融市場の不安定化によって金融環境がタイト化した点も指摘した。

今回(2月)のIRに示された需要項目別見通しをみても、設備投資は2019~20年にかけて-0.75%→-2.75%と、前回(11月)の0%→+2%とは様変わりになったほか、輸出も0%→+1%と+1.75%→+2.5%から下方修正された。なお、個人消費の見通しは前回と殆ど変わらず、実質所得の伸び率は上方修正された。

記者会見では、2021年にかけて経済成長率が顕著に回復するとの見通しに多くの質問が示されたのに対し、カーニー総裁は、企業のファンダメンタルズ(企業収益や設備稼働率)は堅調なので、Brexitに関する様々な不透明性が解消すれば設備投資が回復するとの理解を強調した。加えて、家計に関しては労働市場が極めてタイトな中で賃金上昇がみられる点を付言した。

この間、海外経済に関しては、欧州からの需要の減退に加えて、中国経済の減速が直接および欧州経由で影響を与えているとした上で、カーに総裁は、中国が経済対策を講じていることや、 FRBとECBが政策スタンスを緩和方向に変えていることによって、金融市場の安定性も含めて下支えされるとの見方を説明した。


物価の見通し

一方、今回(2月)改訂されたCPIインフレ率の見通し(Median)は、 2019~2021年にかけて+2.0%→+2.1%→+2.1%とされ、前回(11月)の+2.1%→+2.1%→+2.0%と殆ど変わっていない。

カーニー総裁は、冒頭説明の中で、原油価格の下落によって足許のインフレ率がやや下振れするが、これまでのポンド相場の下落に伴う輸入物価の上昇が波及すると説明した。さらに、こうした効果が減衰した後も、労働市場で賃金上昇が強まるため、国内要因によるインフレ圧力が維持されるとの見方を示した。

今回(2月)のIRでも、マクロ的な需給の観点によるインフレ圧力の議論がなされているが、需要の拡大については、上に見たようにいったん大きく減速した後、徐々に加速するとしている。一方、供給の増加は低い伸びに止まるとしており、結果として需給ギャップも2021年にはプラス圏に回帰すると予想している。

供給の増加ペースが低迷を続ける理由について、今回(2月)のIRは人口増加率が過去より低下するとの予測を挙げており、その理由の一つが(Brexitとの関連で皮肉なことに)移民の減少見通しであることを認めている。また、記者会見の中でブロードベント副総裁は、設備投資の不振による影響も大きいとした上で、今後にBrexitに関する不透明性が低下して設備投資が回復すれば、この問題が緩和される展望も示唆した。


金融政策の運営方針

MPCは緩やかで限定的な利上げ方針を維持した訳であるが、 BOEの場合に注意しなければならないのは、経済や物価の見通しが市場による利上げ見通しを前提に作られている点である。

つまり、今回(2月)のIRによれば、2019~2021年の各年末について政策金利が0.9%→1.0%→1.1%というのがそうした前提である。前回(11月)の1.0%→1.2%→1.4%から若干下方修正されているが、いずれにしても利上げの継続が想定され、その下で先に見たようにインフレ率が2%の目標近傍で推移することになる。

このように緩やかではあるが利上げ方針を維持したことに対し、記者会見ではその妥当性を問う向きが少なからずみられた。これに対しカーニー総裁は、2019年の経済活動の落ち込みの主因はBrexitに関する不透明性の長期化にあり、これが解消すれば、もともと堅調なファンダメンタルズによって企業活動が回復するとの説明を繰り返した。

さらに、多くの記者からは、英国とEUの双方の現状を見る限り、むしろNo-deal Brexitのリスクが高まっており、そうであればBrexitの実現によって不透明性が解消されても、様々な混乱やコスト上昇のために企業活動の回復は妨げられるとの批判が示された。

カーニー総裁も、EUとの合意期限までに残された時間が少なくなり、それでもBrexitの先行きについて幅広いオプションが残っている現状を考えると、No-dealのリスクが以前より高まっている点は認めた。それでも、議会もNo-dealの回避では一致している点にも言及しつつ、MPCとして円滑なBrexitを中心シナリオに維持する考え方を確認した。

また、仮にNo-dealであっても金融システムに深刻なストレスが生じる訳ではないとの評価をFPCが下していることにも言及しつつ、金融政策は必要に応じて様々な手段を行使する用意があることを確認した。ただし、今回(2月)のIRでも強調されているように、 BOEの政策目標はあくまでも2%インフレにあるので、政策対応がアプリオリに金融緩和ではない点も付言した。

カーニー総裁が記者会見で示唆したように、MPCとしては、No-dealの場合に金融政策で対処すべき問題として、ポンド相場の急落に伴うインフレ圧力への対応を念頭においていることが推察される。実際、カーニー総裁は、政府による他の政策の動員も不可欠であることも指摘した。

その上で、MPCが理解するように国内の潜在的なインフレ圧力がそもそも高いのであれば、外部ショックによる上方圧力が上乗せされることは避けたいと考えること自体には合理性もあるし、そうしたメッセージを出しておくことも必要かもしれない。しかし、一時的であっても経済活動が大きく混乱する下で、実際に利上げに踏み切れるかどうかはまた別な問題であろう。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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