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貿易問題で米中間の意見の隔たりは依然大きい

2019年01月30日

中国の産業政策の修正は一部に

米中貿易問題を話し合う閣僚級協議が、1月30日、31日にワシントンで行われる。中国の習近平国家主席の最高経済顧問である劉鶴副首相が率いる代表団と、米国のライトハイザーUSTR(米通商代表部)代表が、主として交渉にあたる。

米国は、今年3月1日までを期限に、中国からの輸入品2,000億ドル相当分への追加関税率を10%から25%に引き上げる措置の実施を一時猶予しており、中国からの譲歩を引き出そうとしている。今回の協議では、両国が全面的な合意に達して、両国間のいわば貿易戦争が解消に向かう方向性も、あるいは両国の話し合いが決裂してしまう可能性も、どちらも示されないだろう。

貿易問題を巡る両国の見解には、依然として大きな隔たりがあるようだ。中国側は既に、米国から農産物やエネルギー関連品の輸入を大幅に拡大させる方針を示しているが、米国側がその条件だけで納得する可能性は低い。中国が米国企業から技術を移転させるといった知的財産権の侵害に対して、中国政府が毅然とした対応を約束することを、米国政府は求めている。しかし、中国政府は、不当に海外から技術を盗んでいること自体を否定していることから、その対応を確約することは難しいのではないか。

他方、米国側が最も強く望んでいるのが、「中国製造2025」を中心とする、中国政府による産業政策の抜本的な見直しだ。巨額の政府補助金などを背景に、中国が先端産業を急速に立ち上げ、米国の軍事的優位をいずれ脅かすことを、米国政府は強く恐れている。しかし、産業政策の抜本的な見直しをあからさまに要求することは、貿易交渉の範疇から外れている面もあり、また内政干渉の側面もあることから、米国にとっては表立っては強く要求しにくい面がある。

「中国製造2025」の大幅見直しあるいは撤回は、中国の政治・経済システムそのものの修正にも繋がり、また、習近平国家主席の威信を大きく傷つけることから、中国側としては到底受け入れがたい。ただし、劉鶴副首相は今回の協議で、産業政策を一部修正すると説明する見通しだ。


中国が望むのは追加制裁関税の全面撤廃

知的財産権問題への対応や産業政策の見直しで、米国側からの十分な理解を得ることが難しいことから、今回、中国側は、中国国内での経済改革の進展を強くアピールする戦略に出るものと見られる。それを象徴しているのが、代表団の一人に、中国人民銀行総裁を同行させたことだ。同総裁から、金融面での改革の進展、海外への市場開放を米国に説明させるのだろう。例えば、今回の協議の直前となる28日に、中国人民銀行はこの貿易協議にタイミングを合わせたかのように、米国の格付け大手のS&Pグローバル・レーティングを傘下に持つ米S&Pグローバルに対して、中国で格付け業務を展開することを認めたと発表した。同社は、中国の格付け市場が外資に開放されて以降、正式に参入する第1号になったとみられる。

中国側は米中貿易協議を通じて、今まで米国側が中国に課してきた追加制裁関税の全面撤廃を実現させることを、最終目標に据えている模様だ。しかし、これが、両国の交渉を難しくさせている面があるように思われる。中国側が米国側に対して大幅に譲歩したにも関わらず、米国が追加制裁関税の全面撤廃をしなかった場合に、中国国内で政府が受ける政治的ダメージは非常に大きくなる、と中国政府は考えているという。それゆえに、中国側は大幅譲歩を躊躇っているという面もあるのだろう。ムニューシン財務長官は、追加制裁関税の全面撤廃も選択肢であると話しているが、実際には、その実現は難しいだろう。ライトハイザーUSTR代表は、仮に中国側が米国側の納得する譲歩案を示したとしても、それが履行されることを確認するまでは、既に実施している追加制裁関税は維持し、圧力を掛け続けるべきだと主張している。これは、核兵器全廃の考えを示した北朝鮮に対して、経済制裁を続けている米政府のアプローチにも似ている。

一時停戦の期限となる3月1日までに見えてくるのは、中国側の一定の譲歩を受けて一時停戦がさらに延長されるか、あるいは、一時停戦が失効し、米国が追加制裁関税率を25%に引き上げるか、のどちらかだろう。国境の壁建設、政府閉鎖を巡る混乱や、ロシア疑惑問題で議会が大統領弾劾裁判の手続きに動くなどといった国内政策での行き詰まりを、外交で挽回しようとトランプ大統領が考える場合には、中国に対してより強硬な対応を示すことから、後者の可能性が高まっていくだろう。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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