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アップル・クックCEOが連邦政府規制を主張

2019年01月22日

「包括的連邦プライバシー法」の制定を訴える

米アップル社のティム・クックCEO(最高経営責任者)は、ネットユーザーの個人データが本人の知らないところで売買され、プライバシーが侵害されている状況を踏まえて、新たな連邦法の制定を通じてデジタル・プラットフォーマーへの規制を強化するべき、との主張を2019年1月17日付けの米タイム誌に寄稿した(注1)。

2018年には、フェイスブックの情報流出問題など、個人データの管理を通じたプライバシー保護に関する議論が、世界的に高まりを見せた。欧州では、5月に、個人のデータ管理を強化する一般データ保護規則(GDPR)が施行された。

クックCEOは、2018年10月にも、規制当局者が集まる欧州の会議で、個人データ管理に関して米国での規制強化を訴えていた。その場で、同氏は4つの個人の権利を挙げていた。第1は、「個人データの収集を最低限に抑える権利」だ。これは、企業に対して、個人を特定できるような情報をできるだけ排除する、あるいはそもそも収集しないことを求める権利だ。第2は、どのような個人データを企業が集めたのか、その目的は何かを「知る権利」だ。第3は、企業に対して、個人データにアクセスし、修正し、削除することを求める「アクセス権」だ。第4は、個人データの安全な管理を求める「データ・セキュリティの権利」だ。

こうした個人の権利を確立するために、クックCEOは、連邦レベルでのプライバシー保護法、「包括的連邦プライバシー法」の制定が必要だと訴えている。

他方で、法律を制定するだけでは、個人のプライバシーを十分に保護することにはならないとも指摘している。難しいのは、企業がこうした法律を破っても、それを見つけ出すことが簡単ではないことだという。例えば、消費者がネット・ショッピングで商品を購入した場合、販売者は、その情報を「データ・ブローカー」に売却することを本人に伝えない。そして、データ・ブローカーはその個人データをパッケージ化してさらに転売し、個人データはどんどん拡散していく。こうした仕組みは、いわばシャドーエコノミー(影の経済)の領域にあり、個人や当局が個人データの行方を追跡することは難しい。


アップルのビジネス戦略との批判も

こうした点を踏まえてクックCEOは、米連邦取引委員会(FTC)がすべてのデータ・ブローカーに登録を義務付け、消費者が自身のデータの売買などを追跡して、必要に応じて削除できるような仕組みを確立することを提案したのである。

クックCEOのこうした主張については、アップルはプライバシー保護に配慮していることを顧客にアピールし、その点で十分な対応ができないとしてフェイスブックやグーグルなど競争相手を暗に批判する、ビジネス上の戦略という要素が多分に含まれている、とも指摘されている。

以前から、クックCEOはグーグルやフェイスブックを念頭に、「無料のオンライン・サービスにとって、利用者は顧客ではない。利用者は製品だ」との発言をしてきた。今回の主張も、その延長線上にあるとの見方が可能だ。アップルは、個人情報を、ターゲット広告に活用するために外部に提供していないことを常に強調してきた。ところがアップルは、アプリの開発者が個人情報を取得することを可能にしているとされる。アプリにはデータ共有の許可があいまいで、簡単に位置情報データが転売可能な場合もあるという。すべての開発者に対して、アップルと同等の厳格な基準でプライバシーを保護するよう義務づけることはできていないようだ。

しかしながら、デジタル・プラットフォーマー自らが、個人データ保護に関する規制強化を訴えたことは、米国議会での規制議論を活性化させる可能性はあるだろう。クックCEOに対しては、規制強化に向けて、業界全体の利害を調整し、意見を統一する調整役を期待する議論もでている。米国政府、議会がクックCEOの提案をどう受け止めるのか、その反応を見極めたい。


(注1)"You Deserve Privacy Online. Here’s How You Could Actually Get It", TIME, Tim Cook, Jan. 16, 2019

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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