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成長戦略の見直しを迫られるアップル

2019年01月17日

iPhoneの中国での販売不振

年初のグローバル金融市場は、いわゆる「アップルショック」で幕を開けた感が強い。アップルは1月2日、2018年10-12月期の売上高の大幅な見通し下方修正を発表し、株価が急落した。これが、世界的な株価下落や、日本市場での円急騰をもたらした。アップルのティム・クックCEO(最高経営責任者)は、見通し下方修正の主因は、中国での販売不振にあるとの見方を示した。

中国での販売不振の背景には、中国景気の減速や中国メーカーとのスマホ販売の競争激化に加えて、テンセントホールディングスのSNSアプリ「微信(ウィーチャット)」の人気が高まっていることがある。中国のユーザーはウィーチャット1つで、対話から決済まであらゆることができる。中国では、スマホユーザーが多くの時間をテンセントの交流・決済アプリ「微信(ウィーチャット)」を見て過ごしている。また、ウィーチャットはアプリも販売しているため、アップストアの魅力も薄れている。中国における昨年のアップストア売上高は14%増と、年間平均の伸びが120%を超えていた2012〜18年から急減速したという。

かつて、中国でスマホ販売首位だったアップルは、中国メーカー4社に抜かれて、現在5位に転落している。アップルのiPhoneの最高級端末を身につけてステータスを誇示しようとする風潮も後退してきているという。

そこで、アップルは昨年末から、中国で中古のiPhoneを下取りに出す顧客に対して新機種の値引きをし始めた。


米国でもiPhoneの値引き販売

アップルは過去数年、新たな機能を加えることで、毎年1機種以上の新型iPhoneをより高価格で発売してきた。その結果、高額機種では1,000ドルを超える水準にまで価格が押し上げられた。これが、米国でも消費者離れを呼んでいる。

そこでアップルは、米国でもiPhone旧機種の下取り価格を引き上げることで、顧客を確保する戦略を打ち出しており、昨年後半にはそれを強化したという。例えば、ウェブサイトや顧客への電子メール経由では、749ドルからとなっている新型iPhone「XR(テンアール)」を旧機種下取りなら449ドルで提供しているという。

アップルのティム・クックCEOは年初に、顧客がより簡単に旧機種を直接アップルに下取りに出し、新機種へのデータ移行をやりやすくすることで、スマホ販売のてこ入れを目指す考えを示している。新機種のおよそ75%は、通信会社経由で販売されているが、アップルによるiPhoneの旧機種買い取り価格は、米国の通信大手4社よりも高いという。

しかし、こうした値引き戦略が、iPhoneの販売促進効果を発揮したという証拠は、中国、米国ともにまだ見られていない。


サービス事業強化に戦略転換

こうしたなか、アップルは、売上高全体の15%程度を占めるサービス事業に活路を見出す戦略をとり始めている。このサービス事業には、アプリを販売するアップストア、音楽配信サービス、モバイル決済サービスなどが含まれる。クックCEOは2017年に、サービス事業の売上高を2020年までに500億ドルに倍増させる目標を打ち出した。2018年9月期のサービス売上高は33%増の397億5000万ドルと、着実に達成に向かっているように見える(注1)。

ハイテク業界では、ハードウエア企業がサービスに成長の活路を見出すケースがしばしば見られてきた。IBMやヒューレット・パッカード、デル・テクノロジーズなどがそうであり、コア事業の減速に直面したことをきっかけにサービス事業へと軸足を移した。しかし、それらは必ずしも成功した訳ではない。

アップルは長年、主にソフトウエアやサービスを同社のハードウエア上でしか利用できないようにすることで特別感を演出し、その高い価格を正当化するという戦略をとってきた。

そのため、アップルはiPhone向けのアプリ販売をアップストアに限定して独占し、不当な利益を得ているとして、現在、米国の消費者から訴えられている。仮に最高裁が、消費者がアップルの違法な独占販売で損害を受けたとして提訴できると認めれば、アップルがアップストアでのアプリ販売から徴収する手数料30%にも影響が出かねない(注1)。

こうした背景のもと、アップルは、ソフトウエアやサービスを他社のハードウエアでも利用できるように戦略を転換し始めたのである。昨年12月にはアマゾンが、同社の音声操作スピーカー「Echo」でアップルの定額制音楽配信サービス「Apple Music」が利用可能になると発表した。また、年明け後には、サムスン電子が、アップルのコンテンツ配信ソフトウエア「iTunes」が同社のスマートテレビでも利用できるようになると発表した。さらに、「iPhone」などのアップルの端末からスマートTVに直接コンテンツを出力できる「AirPlay 2」にも対応すると明らかにした(注2)。

このようにアップルは、エコシステムのあらゆる部分を支配しようとする今までの戦略を変更し始めた。高いお金を払ってもアップルブランドのハードウエアを買おうとする消費者が減ってきたためだ。そこでアップルは、ハードウエア収入を一部犠牲にしてでもそのサービスを幅広く利用できるようにすることで、サービス収入を拡大させる方針に転じたのである。

今後の株式市場でのアップルの評価も、サービスビジネスに軸足を移すという、この新戦略の帰趨にかかっているだろう。


(注1)"Apple’s Pressing Challenge: Build Its Services Business", Wall Street Journal, January 11, 2019
(注2)"Apple’s Next Move: Be More Like Microsoft", Wall Street Journal, January 11, 2019

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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