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米国におけるロボアドバイザーによる法令違反の摘発

2019年01月15日

2018年12月21日、米国の証券取引委員会(SEC)は、コンピュータ・プログラム(アルゴリズム)を用いながらスマートフォン等を通じて人手を介さずに自動的に投資助言や投資一任運用などの投資顧問サービスを提供するロボアドバイザー業者2社に対して1940年投資顧問業法に違反する行為を行わないよう求める排除措置命令(cease and desist order)を発出し、対象となった2社が制裁措置に同意したことを明らかにした(注1)。近年米国では、1980年以降に生まれたいわゆるミレニアム世代を中心にロボアドバイザーが人気を博しているが、そうしたサービスをめぐるSECによる法令違反の摘発は今回が初めてである。


ウェルスフロント事件

今回、SECによる制裁措置の対象となった2社のうちの一つは、2018年8月時点での運用資産が110億ドルに達し、新興専業業者の中では最大手の一角に位置付けられるウェルスフロント(Wealthfront)社である。同社に対しては、排除措置命令と併せて25万ドルの民事制裁金の支払いが命じられた(注2)。

ウェルスフロント社は2008年に投資顧問業登録を受け、当初はミューチュアルファンド(投資信託)の分析サービスを提供していたが、2012年頃から本格的な投資一任運用機能を含むロボアドバイザー・サービスを展開している。

同社は、遅くとも2012年10月以降、自社の提供するTLH(tax loss harvesting)戦略についての情報開示を行っていた。それらの開示資料によれば、同社のTLHプログラムは、含み損を抱えた株式等を適宜売却して投資による利益を圧縮することで節税効果を生み出すものだとされた。そして同社は、TLHプログラムの下では、売却損を計上した銘柄と実質的に同一の銘柄を30日以内に買付ける「ウォッシュセール」が生じないよう各顧客の口座を監視していると説明していた。

これは米国の税法上、「ウォッシュセール」に該当する場合には損益通算が認められず、当該銘柄の取得価額が修正されるのみに留まるため、節税効果を十分に発揮させるためには、含み損を抱える銘柄の売却後30日間は当該銘柄と実質的に同一の銘柄の買付けを回避することが求められるからである。

ところがSECによれば、実際のウェルスフロント社のロボアドバイザー・サービスでは、定期的に行われる顧客資産のリバランスに伴う売買や顧客による直接の指図に基づく売買では「ウォッシュセール」に該当する取引が行われてしまう可能性があったという。このため2012年10月から2016年5月までの期間中、TLHプログラムに参加した顧客口座の31%以上で「ウォッシュセール」が発生し、2014年からの3年間でみると、その間に顧客が実現させた損失の約2.3%が節税効果を生まないものとなっていたとされる。

このTLHプログラムによる節税のための取引機能は、預かり資産10万ドル以上の顧客に提供されるものだが、ウェルスフロント社のロボアドバイザー・サービスのレベルの高さを示すものと受け止められ、同社の運用資産拡大の一つの原動力となっていた。その看板サービスに関する情報開示が不適切であったとされたことの影響は決して小さくないだろう。

またSECは、ウェルスフロント社が、自社の従業員や出資者、無料サービスを受けられることとなる顧客等、同社の一般顧客と利益相反が生じる可能性のある者が行った、同社のサービスを肯定的に評価するような内容のツイッター発言をそうした利益相反の可能性に言及することなくリツイートしたことや新規顧客を自社のサイトへ誘導するためのアフィリエイト・プログラムについて適切な社内手続きや情報開示を怠ったことなどについても違法であったと指摘した。


ヘッジャブル事件

SECによる制裁措置の対象となったもう1社は、2009年に設立されヘッジファンドへの小口投資を可能にしたことで有力ロボアドバイザー業者の一つとして知られていたヘッジャブル(Hedgeable)社である 。同社は、2018年3月時点では8,100万ドルの運用資産を有していたが、同年7月以降新規資金の受け入れを停止し、9月までにすべての顧客資産を他社に移管して廃業した。

SECによれば、ヘッジャブル社は、2014年及び2015年の期間について、自社の顧客と他のロボアドバイザー業者の顧客との投資収益率を比較し、自社顧客の収益率が優れていたことを示す資料を開示していたが、当該資料には、ヘッジャブル社顧客の実績が顧客の96%以上の実績を算入せずに算定されていたという事実が示されておらず、他社の収益率の算定にも誤りがあるなど様々な問題点があったという。また、同社の投資ストラテジーを紹介するウェブサイト上の開示資料についても比較対象とされたベンチマークの投資収益率が不正確に低く示されるなど重大な問題があったとされる。

こうした違法行為を行ったヘッジャブル社に対して、SECは排除措置命令と併せて8万ドルの民事制裁金の支払いを命じた。この金額は、同時に公表された前述のウェルスフロント社に対して課された25万ドルよりもかなり小さいものだが、SECはその理由を特に説明していない。恐らくヘッジャブル社の違法行為の場合、当該行為が投資家に被らせた損害の大きさが明確でないことや同社が既に廃業しており、それほど厳しい制裁を科さなくても将来にわたって投資家保護の面で問題を生じさせる可能性が低いことなどが考慮されたものとも考えられる。

もっとも、ヘッジャブル社の違法行為の内容は、投資家が同社のサービスを利用するかどうかを判断する上で一つの決め手となることが容易に想像される同社顧客の運用パフォーマンスという重要な情報を恣意的に操作したとも言うべきものであり、決して軽微な法令違反であったと言うことはできないだろう。


SECによる法令違反摘発の意義

今回SECが違法であるとして問題視したロボアドバイザーによる行為は、①顧客に対して開示・説明していた内容と実際に提供されていたサービスの内容が重要な点で異なっていた、②自社のサービスに対する肯定的な内容のリツイートやアフィリエイトといったネット上での広告・宣伝のやり方が不適切なものであった、③自社のサービスによる運用パフォーマンスに関する情報が重要な点において虚偽または誤解を生じさせるような内容であった、といったものである。いずれもロボアドバイザー・サービスのみに伴う特徴的な違法行為というよりは、伝統的な人手を介する投資助言、投資一任運用サービスでも問題となり得る性質のものだと言えるだろう。

もっとも、顧客との接点がもっぱらインターネットに限られるロボアドバイザー・サービスの場合、営業担当者やポートフォリオ・マネジャーといった人と顧客が直接やり取りを行うことが想定される伝統的投資助言、投資一任運用サービスの場合以上に、インターネット上で運用会社側が顧客向けに提供する情報の正確性や誇大表示となっていないことの重要性が大きくなるという面は否めまい。

従来、日本の個人向け金融サービスをめぐる利用者保護の議論では、金融サービス会社側の営業担当者による説明や勧誘の在り方が主として検討されてきたが、フィンテック時代の金融サービスでは、今回のSECによる指摘にみられるようなインターネット上の表示やそうした表示と実際に稼働していたプログラムとの齟齬といった側面がこれまで以上に重要性を増してくるのではないだろうか。


(注1)SEC, Press Release, "SEC Charges Two Robo-Advisers With False Disclosures", Dec. 21, 2018.
(注2)SEC, INVESTMENT ADVISERS ACT OF 1940 Release No.5086December 21, 2018.
(注3)SEC, INVESTMENT ADVISERS ACT OF 1940 Release No.5087December 21, 2018.

Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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注目ワード : ロボ・アドバイザー

注目ワード : FinTech(フィンテック)

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