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ECBの12月政策理事会のAccounts-Risk rotation

2019年01月11日

はじめに

ECBの12月政策理事会での議論も、足許までの実体経済の堅調さと先行きに対する不透明性の高まりとの乖離を浮き彫りにした点で、12月FOMCでの議論と共通している。もっとも、ユーロ圏の方がハードデータの減速が米国より明確である中で、金融政策の「正常化」に踏み出す点で、より難しい状況にあることは明らかである。


景気と物価の判断

プラート理事は、執行部説明の中で、GDP成長率が年初から減速を続けている点を認めつつも、外需の弱さや特定国の問題(ドイツの自動車産業とみられる)による面が強いと指摘した。つまり、内需に関しては、賃金上昇や企業収益の増加と内需の拡大といったファンダメンタルズの良好さが維持されており、これらを背景に個人消費と設備投資の拡大が続くとの見方を維持した。

政策理事会メンバーも、幅広く(broadly)こうした見方に同意し、足許の経済指標の軟化に関わらず、潜在成長率近傍で推移するとの執行部見通しを支持した。

物価についてプラート理事は、特に賃金上昇の加速が地域的にも産業面でも広範になっている点を強調し、徐々にインフレ率の加速に繋がるとの理解を示した。また、執行部の見通しが足許で下方修正された点については、原油価格の下落を反映させたものと説明し、そうした効果も徐々に減衰するとの見方を示唆した。

同様に、政策理事会メンバーは幅広く(broadly)こうした理解に同意し、労働市場での稼働率上昇が賃金上昇圧力に繋がっている点を確認した。もっとも、原油価格の下落については、実質購買力の増加を通じて総需要を押し上げる効果も期待される点が指摘されたほか、賃金上昇が一般物価の上昇に繋がるにはなお時間を要するとの指摘もみられた。


リスクバランス

その上で、プラート理事は、景気の先行きに対するリスクは依然として上下にバランスしているとの判断を示しつつ、地政学リスク、保護主義、新興国の状況、金融市場のボラティリティに関する不透明性のために、リスクは下方に移動しつつある(moving to the downside)との評価を加えた。

これに対し、政策理事会メンバーはリスクの内容について詳細なレビューを行った。中でも、プラート理事が掲げたリスク要因(に加えてFRBの政策も挙げられた)が仮に後退したとしても、新たなリスクが浮上する状況にあるとの主張がなされた。

例えば、新興国問題についても、トルコやアルゼンチンが安定化しても他国に新たな問題が発生する可能性や、貿易摩擦やBrexitについても、急激に状況が変化することが挙げられた。このように、現在はrisk rotationの状況にあるとして、不確実性の全般的な高まりがみられると評価した。

こうした議論を踏まえて、政策理事会ではリスクバランスの評価について意見が分かれた。一方で、執行部の経済見通しが下方修正を続け、企業のコンフィデンスも悪化しただけに、景気指標の軟化が全て一時的要因と言えない限り、リスクバランスは下方にシフトしたと評価すべきとの議論がみられた。他方で、執行部の景気見通しには足許での景気指標の軟化は既に織り込まれており、原油価格の予想外の下落や域内での景気刺激策の動きは景気にポジティブになりうるとして、リスクバランスの変更は不要との議論が見られた。

最終的には、両者の妥協の形で、プラート理事が提示したように、リスクは上下にバランスしつつも、下方に移動しつつあるとの評価に落ち着いた訳である。


政策判断

プラート理事は12月末での「量的緩和」の停止とフォワードガイダンスの強化について提案を行った(具体的な内容は、政策理事会直後のドラギ総裁会見に関する本稿を参照されたい)。また、こうした政策判断に関する対外的なコミュニケーションにおいて、次の点を強調すべき点を確認した。

①経済指標は軟化しているが、ファンダメンタルズの基調は堅調で、インフレ圧力も徐々に上昇している。②先行きのリスクは上下にバランスしつつ、下方に移動しつつある。③政策理事会は「量的緩和」の停止後もインフレの2%目標への収斂を確信している。 ④政策金利と再投資のフォワードガイダンスが金融緩和効果を維持する。⑤少なくとも2019年夏まで、さらにインフレ目標への中期的な達成に必要な限り、政策金利を現状で維持する。⑥少なくとも利上げ開始から相当な期間、さらに緩和的な流動性環境の維持が必要な限り、完全な再投資を継続する。

上記のように景気のリスクバランスについては意見が分かれていた中で、政策判断については政策理事会メンバーの全会一致で決定された。

その上で興味深い点に触れておくと、まず、プラート理事と政策理事会メンバーの双方がstate-dependentなフォワードガイダンスの有効性を評価した。こうしたフォワードガイダンスの下では、景気が軟化すれば、利上げの開始や再投資の停止のタイミングに関する市場の期待が後ズレして市場金利が低下し、金融緩和効果を発揮することが指摘された。ただし、そうであれば利上げの開始を(最短で)2019年夏以降としているtime-dependentなフォワードガイダンスをどう考えるかという点は残る。

また、再投資の停止時期を利上げの開始時期と紐付けることで、政策金利が主要な政策手段であるとのメッセージを強化しうるとの議論も、プラート理事と政策理事会の双方から示された。こうしたフォワードガイダンスは「正常化」に先行したFRBと同じ設計であるが、米国市場の現在の議論を考えるとそう単純ではないように思える。また、ECBの場合には利上げ開始前に景気後退に直面する可能性も存在するだけに、現時点で政策手段の位置づけについて「決め打ち」することの適否には議論も残る。


再投資の運営

2019年初以降の再投資の運営についての執行部案はクーレ理事が提示し、政策理事会メンバーも全会一致で承認した。主なポイントは、①2018年末の残高を基準、②PSPPの国別配分(ストック)は出資比率がベース、③CSPPは市場残高がベース、である。もちろん焦点は②であり、クーレ理事も、既に生じた乖離の円滑な修正、各国の国債発行計画に即した買入れの平準化といった点を強調した。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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