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円急伸で幕を開けた2019年の金融市場

2019年01月04日

世界経済の悪化懸念を映す円高

1月3日午前のアジア市場では、一時的ではあったが、円の対ドルレートは昨年3月以来となる1ドル104円台まで急伸する局面があった。中国での販売不振などから、アップルが2018年10-12月期の売上高見通しを引き下げたことがそのきっかけとなったが、円高進行の底流にあるのは、「世界経済の悪化懸念」だ。

円は、世界経済の状況を最も敏感に反映する通貨と言える。世界経済が堅調な局面では、外需依存度が高い日本経済と日本株には追い風となりやすい。それは、日本の投資家のリスクテイク余力を高め、為替リスクをとった海外への投資を活発化させる。これが、円安傾向を生むことになる。この円安による景気刺激効果や株高傾向は、国内投資家の海外投資をさらに拡大させ、一層円安傾向が促されるのである。

しかし、ひとたび世界経済に減速懸念が生じれば、こうした好循環は一気に逆回転を始め、日本の投資家がリスク回避のために海外資金を引き上げる、あるいはそうした観測を反映して、円高傾向が進みやすくなる。現状は、まさにこうした局面にあると言える。


米国経済に注目

欧州や中国の景気減速は、既に2018年にかなり明らかになっていた。世界経済は2018年年初頃を境に、その増勢を落とす局面に入ったと考えられる。それでも、世界の金融市場の景況感が顕著には悪化しなかったのは、また、それを映してドル円レートが1年を通じて概ね横ばい傾向を維持したのは、ひとえに、米国経済が堅調を維持していたためである。しかし、米国経済の堅調は、大型減税などによっていわば無理やり実現された側面が強く、持続可能ではない。2018年年末以降、金融市場は米国経済の減速と世界経済の悪化の可能性を織り込む展開となり、株安と円高傾向を強めていった。

世界経済は2018年年初頃を境に増勢を落とす局面に入ったが、これは、緩やかな回復局面の中での短期的な下向き局面という要素も多分にあり、世界経済の後退局面入りに直結する動きと決めつけるのは正しくないだろう。しかし、今後、米国経済指標に弱さが見られれば、金融市場は世界経済の後退局面入りの可能性を徐々に織り込んでいくことになろう。

今年前半の米国経済指標は、大型減税、インフラ投資の効果一巡、ドル高による輸出減速などから、下振れしやすい。特に1-3月期の経済指標は、経済統計のくせと天候悪化の影響から、実勢以上に弱めに出やすい。これを反映して、年初の世界の金融市場では、景況感の悪化を映した株安傾向が続き、円高傾向がさらに強まる可能性があるだろう。


日本の政策対応の余地は小さい

このように、当面の円ドルレートの鍵を握るのは米国経済であり、それに影響を与える米中貿易戦争や米国政府閉鎖問題の行方である。従って、日本の政策対応によって、円高、株安傾向に歯止めを掛けることは難しい。日本の当局は、当面は様子見姿勢を続ける以外にないだろう。

円高阻止のための為替介入は、日本政府の政策対応の選択肢に入っていないだろう。実質実効レートで見て円の価値は大幅安の水準にある、とトランプ政権が認識している中、日本の当局による為替介入をトランプ政権は許さないはずだ。また、トランプ政権の意向を無視して、日本政府が円高阻止のために円売りドル買いの為替介入に踏み切れば、1月下旬にも始まる日米貿易協議に深刻な悪影響を与えることは必至である。

円高傾向が強まるなか、さらなる円高に繋がりかねない政策金利の引き上げなどの正式な正常化策の実施は、当分の間は、日本銀行の政策の選択肢には入ってこないだろう。日本銀行は従来続けている国債買入れの減額措置を粛々と進める可能性はあるが、その動きを加速させることをしばらくは控えるだろう。他方で日本銀行は、既にマイナスの領域に入った10年国債利回りのさらなる低下を容認することを通じて、円高抑制効果を生じさせることを図るのではないか。それは、間接的に株価を支えることにもなるだろう。10年国債利回りが変動許容レンジの下限である-0.2%に接近するまでは、日本銀行は利回り低下を食い止める措置は講じないだろう。

金融市場が動揺するなか、今年10月の消費税率引き上げの先送り観測が浮上する可能性がある。ただし、消費税率引き上げの先送りによって、社会保障拡充策の目玉である幼児教育無償化の財源も失われてしまうことから、政府は円高、株安傾向だけでは、安易に消費税率引き上げを先送りできないだろう。グローバル金融危機の発生や国内経済の失速傾向が確認できること等が、先送りの必要条件だ。他方、金融市場が不安定な動きを続けるもとでは、消費増税の景気対策を、現在想定している2兆円超からさらに上積みすることになるのではないか。それでも、円高、株安傾向を食い止める効果は限定的だろう。

このように、足もとで進行する円高、株安を、日本の当局は当面見守るしかない状況だ。当局に打つ手がない、という状況自体が、金融市場の景況感を悪化させ、投資家のリスク回避姿勢を強めることを通じて、円高、株安傾向をさらに後押ししてしまうことにもなるだろう。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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