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日本株の大幅下落と米国の政治混乱

2018年12月26日

米国の政治混乱が株式市場の動揺を促す

昨日の日経平均株価は1,000円を超える大幅な下落を見せ、1年3ヶ月ぶりに2万円の大台を割り込んだ。しかし、大幅な株価下落をもたらす直接的な原因は、国内には見当たらない。足もとで日本及び世界の株安傾向をもたらしているのは、トランプ政権の下での米国の政治、政策面での混乱といえるだろう。

米国経済は、依然安定を維持している。クリスマス商戦も総じて堅調が伝えられている。しかし、世界経済の成長ペースが着実に鈍化するなかで、米国経済だけが一人堅調を維持し続けるのは難しい。大型減税、インフラ投資拡大などの財政拡張策の効果剥落、輸出鈍化、ドル高、関税率引き上げによる輸入物価上昇などの影響から、早晩、米国も成長ペースを落としていくとの不安が金融市場にある。

こうした不安が、足もとでの米国での政治的な混乱によって増幅されてしまったのが、株価大幅下落の主な背景ではないか。ここでいう政治的な混乱とは、主として、政府機関閉鎖、トランプ大統領によるマティス国防長官解任、米連邦準備制度理事会(FRB)批判とパウエル議長解任観測、の3点だ。

政府機関閉鎖については、その原因となったメキシコ国境の壁の建設費を巡る対立で、トランプ大統領と民主党との間に歩み寄りの姿勢は今のところ全く見られていない。マルバニー行政管理予算局(OMB)局長は、「今回の政府機関閉鎖が28日を過ぎて、新議会まで続く可能性は十分にある」と述べている。新年1月3日には新議会が招集され、下院の過半数は野党・民主党へと移る。そうなれば、民主党の影響力がより高まり、トランプ大統領と民主党との間で妥協を成立させることは、一段と難しくなるのではないか。


FRB議長、財務長官の解任観測も

トランプ大統領は、「米国経済にとって唯一の問題はFRB」だとし、連日のようにFRB批判を繰り広げている。そうしたなか、「トランプ大統領はパウエル議長の解任を検討している」、との報道もなされ、これも米国株価の下落を促すきっかけになったと見られる。実際、トランプ大統領がパウエル議長の解任の可能性について、政権内で言及したことは確かなのだろう。

これに対して、ムニューシン財務長官は、大統領はパウエル議長の解任を提案しておらず、また解任できるとは考えていないと述べた。マルバニーOMB局長も、トランプ大統領は今、パウエル議長を解任できないと認識している、と話している。これらの発言は、「政策金利を引き上げたことを理由にして、パウエル議長を解任する法的権限はトランプ大統領にはない」、との見解を示したものだろう。その発言の背景には、連邦準備法の規定や過去の判例があると見られる。

連邦準備法10節2項に基づけば、大統領がFRB議長を含め理事を罷免するには「正当な理由」が必要となる。この「正当な理由」とは、連邦準備法では定義されていない。ただし、大統領がFRBのような独立機関の高官を解任し、その決定が最高裁判所の判決によって覆された、という事例が過去にある。その際、最高裁判所は、「独立機関の高官は、行政府の支配から解放されていなければならない。非効率的行為、職務怠慢、不正行為によってのみ解任される」、との判断を示したのだ。大統領の意に反して政策金利の引き上げを遂行したことだけでは、FRB議長は解任されない。

このように、パウエル議長の解任が法的に難しいことを理解したとみられるトランプ大統領は、今度は、金融市場の不安定化を許したとして、ムニューシン財務長官の解任を検討している、との報道が一部に流れている。トランプ大統領は、株価下落を自らの失策によるものでないことをアピールする観点からも、誰かにその責任を押し付けたいのだ。

ムニューシン財務長官であれば、トランプ大統領の判断で解任することは容易であり、その権限は憲法第2条に規定されている。金融市場で注意しなければならないリスクは、パウエル議長の解任ではなく、ムニューシン財務長官の解任だろう。仮にそれが現実のものとなれば、今までのトランプ政権下での多くの閣僚の解任、辞任と比べても、金融市場に与える悪影響は格段に大きくなるはずだ。


日本の当局は打つ手なし

足もとで進行する円高、株安の原因がこうした米国での政治混乱にある以上、日本の当局は、市場安定化に向けた有効な対策手段はない。当面は様子見姿勢を続ける以外ないだろう。

ドル・円レートは109円台をうかがう展開ともなっているが、無秩序に円高が進む状況にあるとまでは言えない状況だ。実質実効レートで見て、円は歴史的な大幅安水準にあるとトランプ政権が認識している中、日本の当局による為替介入を、トランプ政権は許さないはずだ。また、こうしたトランプ政権の意向を無視して、日本の財務省が円高阻止のために円売りドル買いの為替介入に踏み切れば、年明けから始まる日米貿易協議に深刻な悪影響を与えることは必至であることから、それは選択肢とはなり得ないだろう。

他方、円高、株安を背景に、日本の10年国債利回りは一段と低下し、0%の水準に接近してきた。10年国債利回りが低下傾向を示すなか、日本銀行は従来続けている国債買入れの減額措置をさらに加速させることが可能な状況ではある。しかし、そうした正常化措置は、円高リスクを高め、金融市場の景況感をさらに悪化させることから、その実施は控えるだろう。日本銀行は、10年国債利回りのさらなる低下を容認することで、その円高抑制効果にも期待するのではないか。それは、間接的には株価支援策ともなる。10年国債利回りが変動許容レンジの下限である-0.2%に接近するまでは、日本銀行は目立った利回り安定化措置は講じないだろう。他方、国内経済が比較的堅調であるなかでは、円高、株安の進行だけで追加緩和措置を真剣に検討するとは、現段階では思えない。

このように、足もとで進行する円高、株安を、日本の当局は当面見守るしかない状況だ。「当局に打つ手がない」という状況自体が、金融市場の景況感を悪化させ、投資家がリスク回避姿勢を強めることを通じて、円高、株安傾向をさらに後押ししてしまうことにもなるだろう。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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