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大きな政府化と金融緩和の弊害を映す政府予算案

2018年12月19日

「大きな政府」化が進む

2019年度政府予算案を閣僚間で最終調整する大臣折衝が17日に始まった。政府予算案は21日に閣議決定される見込みだ。今回の予算案は、2019年10月に実施される消費税率引き上げの影響を大きく受けている点が、最大の特徴である。

消費税増税の経済対策が2兆円規模で盛り込まれた結果、一般会計総額は101.5兆円前後と、2018年度当初予算よりも約3.8兆円も増額され、当初予算としては初めて100兆円の大台に乗る。他方、消費税率引き上げの効果もあり、税収は過去最大の62.5兆円前後になる見込みだ。歳出、歳入ともに大幅に増加する、まさに「大きな政府」化が進んでいる。米国からの高額装備品購入などにより、防衛関係費は7年連増で増加し、過去最高となった。公共事業費も大きく上積みされる。

総額2兆円規模に及ぶ消費税増税の景気対策には、「マッチポンプ」的な側面があることは否定できないのではないか。消費税増税の景気への悪影響を国民に喧伝し、その懸念を煽ったうえで国民の支持のもとで景気対策を積み増していく、という側面だ。この機会に乗じて、別の政策目標実現のための歳出も拡大させるという、便乗的な要素も感じられる。


ポイント還元策はキャシュレス化推進に有効か

例えばそれは、新たに導入されるポイント還元策に使われる2,798億円などの予算措置だ。これは消費増税の景気対策とキャッシュレス化推進という全く異なる政策目標の実現のために実施される、いわば合わせ技だ。しかし、この制度のもとでは、景気対策としても、キャッシュレス化推進策としても、どちらも効果が薄く終わってしまう可能性がある。

増税後9か月間は、電子マネーやクレジットカードなどでキャッシュレス決済をした中小小売店の買い物客に対し、国の負担で購入額の原則5%分のポイントを還元する。増税策を実施する中で実質減税という、ややちぐはぐな対応だ。キャッシュレスで支払える店舗を増やすため、中小小売店が必要な端末などの機器を導入する費用も、国が3分の2を補助し、残り3分の1を決済事業者が負担する。また、小売店が決済事業者に支払う手数料の3分の1も国が補助する。

この制度は、主にクレジットカード決済の拡大を通じたキャッシュレス化を目指している。しかし、現金決済を代替してキャッシュレス化を推進する手段としては、クレジットカードや電子マネーによる決済の拡大よりも、スマートフォンを利用した決済の拡大の方が有効なのではないか。また、QRコードなどを用いたスマートフォン決済時の読み取り手段と比べて、クレジットカードの読み取り機器の新規導入はよりコストが掛り、それが国の負担つまり国民負担となってしまう点も問題だ。


公平性への配慮が重要に

消費増税時の景気対策の決定では、その経済効果と負担・便益の公平性の適切なバランスをどのようにとるかが重要だ。

そもそも消費増税の実施には、財政健全化を進めるとともに、高齢化社会の負担が現役世代のみに過大にかかることを軽減するという、世代間公平性への配慮がある。所得増税と比較すると、消費増税は退職世代も含めた幅広い世代に負担を求めることになる。しかし、他方で、消費増税には逆進性があり、低所得者により大きな負担となってしまう。そこで、今回は、食料品などに軽減税率が適用され、逆進性の緩和が図られている。

一方、消費増税に前後して、駆け込み購入とその反動減が最も顕著に生じるのが耐久消費財だ。そこで、反動減対策として自動車と住宅を対象とする減税措置が実施されるのは、ある意味自然だろう。しかし、この自動車と住宅の減税策は、低所得者よりも中・高所得者により恩恵が及ぶことになるだろう。これでは、世代間所得格差を拡大させてしまうのではないか。ポイント還元策も、クレジットカード決済の比率が高い中・高額所得者により大きな恩恵をもたらすのではないか。

消費増税と景気対策の実施に際しては、財政健全化効果、世代間格差の観点からの公平性、所得格差の観点からの公平性、景気対策としての有効性、といった複数の目的にバランスよく適うものであることが必要だ。その決定には、かなり精緻な分析が必要であったはずだが、実際には、景気対策は精緻な分析と十分な議論を欠く形で、一気に決められてしまった感があることは否めない。


金融緩和が財政規律を緩める弊害

消費増税の実施を理由に全体的に歳出拡大色が強まったのが、2019年度政府予算案だが、社会保障費については一定の抑制が見られた点は評価できる。社会保障費の増加額は約4,800億円となる見込みだ。概算要求段階では6,000億円と見込まれていたが、薬価の引き下げなどで1,200億円の財源が捻出される。過去3年間は、毎年4,997億円に抑えていたが今回はそれらを下回る。

ただし、問題は2020年度の社会保障費予算だろう。第2次世界大戦終戦時の出生率低下の影響から、2020年と2021年には社会保障関連の受給が高まる75歳に達する人口の増加数が、一時的に大きく低下する。その結果、社会保障費の増加ペースも低下する。こうした要因が、2020年度の社会保障費予算にどのように反映されるか、今後、注目しておきたい。

政府の財政赤字に相当する新規国債発行額は、2018年度当初を約1兆円下回る32.7兆円前後となる見込みだ。これは9年連続の減額である。これだけを見ると、財政規律は維持されているようにも見えるが、2019年度については、預金保険機構の剰余金0.8兆円の繰り入れという、一時的な措置によって数字が作られた感もある。

さらに、新規国債発行額が一定程度抑制されてきた背景には、世界経済の長期景気回復という強い追い風がある。しかし、こうした好環境はずっと続く訳ではないだろう。世界経済そして日本経済がひとたび後退局面に陥れば、税収は大幅に減少することは避けられない。また、そうした局面では財政出動による景気対策が実施されるため、両面から財政収支は一気に悪化する。景気回復期の財政政策は、将来の景気後退局面での財政悪化も考慮に入れて策定、運営されなければならない。実際には、経済の好環境下で予防的な面も含めた財政健全化策が、十分に進められてこなかったのである。

こうした財政政策運営の背景には、日本銀行の異例の金融緩和も影響しているだろう。そうした金融緩和措置が続けられているもとでは、財政規律の低下が国債の利回り上昇につながるリスクは低い、あるいは低金利での資金調達を可能にする環境の下でこそ、必要な財政支出を拡大すべき、との意見も政府内に相応にあるだろう。この点から、日本銀行の異例の金融緩和策が、政府の財政健全化策を妨げ、また財政規律の低下を促し、国債の増発を通じて将来世代の負担を高めてしまっている面があると言える。これこそが、異例の金融緩和策の最大の副作用の一つだ。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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