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消費増税の財政健全化効果を相殺する景気対策

2018年12月12日

消費増税の景気対策は2兆円規模に

2019年10月の消費増税がもたらす景気への悪影響への対策として実施される減税措置や歳出拡大の規模が、少なくとも増税施行当初は、増税による家計負担増に並ぶ規模にまで膨れ上がる見通しとなった。消費増税を理由にバラマキ的な財政拡張策を行う、一種の「焼け太り」の状況に近付いているようにも見える。

増税対策としては、当初から増税実施のタイミングに合わせて幼児教育無償化制度の導入が予定されていた。しかし、それでも増税による経済悪化を懸念する政府は、多くの追加景気対策をさみだれ式に打ち出している。中小店舗でのキャッシュレス決済の際に、政府の負担でポイント還元する制度は、増税対策とキャッシュレス化推進策の合わせ技だ。ただし、当初は増税分の2%分をポイント還元するとしていたが、その効果に懐疑的な見方が広がると、政府は、還元率を5%にまで拡大させる方針とした。これでは、増税策との組み合わせでネット減税策が実施される、といういびつな対応となってしまうのではないか。この結果、政府の年間支出は数千億円増加する。同制度は、2019年10月から9ヶ月間実施される見込みだ。また、国費を原資に割増金をつけて、自治体が地域振興のために発行するプレミアム商品券も発行される。これには、年間1千億円台後半の政府支出が必要となる。

他方、住宅ローン減税を受けられる期間を現在の10年間から3年延長し、13年間とする措置も導入される見込みだ。加えて、住宅の買い控えを防ぐために、一定条件を満たす住宅の購入者に一時金を渡す「すまい給付金」も拡充される見込みだ。これら住宅減税に必要な政府の財源は、2千億円程度と見込まれる。さらに、自動車取得税に代わって2019年10月から導入される燃料課税の税率を、1年間は1%軽減する。これには500億円程度の国費投入が必要になる。また、自動車保有税も減税され、その規模は1,300億円程度と考えられる。自動車関連減税の規模は、合計で2千億円弱に上ると見込まれる。

さらに、防災や減災のためのインフラ整備に、政府は2018年度~2020年度の3年間で3兆円台半ばの規模の対策を予定している。2018年度2次補正予算に1兆円強のインフラ整備が計上される見込みだが、2019年度予算にも同規模のインフラ整備のための予算措置が講じられる見込みだ。


消費増税の本来の目的がないがしろに

日本経済新聞によると、これらすべての増税対策の減税、予算措置を合計すると、2019年10月からの年間換算では、2兆円程度に達する見込みだ。他方、消費増税による家計への負担は、軽減税率、幼児教育無償化の導入を除くと2.2兆円程度と推計されている(日本銀行による)。少なくとも、消費増税実施当初には、その家計所得への影響は概ね中立化されることになる。

しかし、これは、財政への影響も中立化されることを意味する。つまり、消費増税を実施するにもかかわらず、財政健全化には貢献しないことになってしまう。検討されている景気対策の多くは現時点では期限付きであり、恒久措置ではないが、今後それらの措置が延長され恒久化されていくことも、景気情勢などによって十分に考えられるところだろう。そうなれば、増税による恒久的な財政健全化効果はかなり小さくなる。

国民生活のことを考えて、消費増税の景気対策をしっかり行う、という政府の説明は、国民から支持されやすいのだろう。しかし、これでは財政健全化や、社会保障費を賄うために退職世代への負担も広く求める世代間の負担の公正化といった、消費増税実施の本来の目的がないがしろにされている感があり、残念なところである。

多くの景気対策を通じて、2019年の消費増税が、景気の基調に悪影響を与える可能性はもはやかなり小さくなったと考えられる。しかし、それにも関わらず、駆け込み購入とその反動は必ず生じるものだ。反動減で個人消費が落ち込んでいる局面では、それが一時的な反動なのか、あるいは、より基調的な消費の悪化なのか、見極めはつきにくい。それが明らかになるまでには、半年程度の時間を要しよう。

消費増税が景気後退の引き金となる可能性は低いが、他方で、消費増税の実施の時期が、世界経済の後退局面入りと不幸にも重なってしまう可能性はあり得るだろう。その場合、表面的には消費増税が景気後退の引き金となったように見えてしまう。

これだけの景気対策を実施したにも関わらず、消費増税が景気後退の引き金となってしまったと国民が考えた場合、将来のさらなる消費増税の実施を一段と困難にさせるだろう。追加的な消費増税なしに、持続的な社会保障制度と財政健全化が難しい点を踏まえると、この点は大きく懸念されるところだ。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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