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米政府のファーウェイ対応で3つのシナリオ

2018年12月10日

米中停戦気運に水を差したファーウェイCFO逮捕

12月1日に開かれた米中首脳会談で、両国が貿易戦争の一時休戦で合意したことから、今後、両国間の対立は多方面で緩和に向かうとの楽観論が世界に広がった。しかし、中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟・最高財務責任者(CFO)が逮捕されたことを受け、そうした楽観論は一気に後退を強いられた。孟氏は、ファーウェイ創業者の任正非氏の娘で、後継候補と目されてきた人物だ。

孟氏が米当局の要請を受けてカナダで逮捕されたのは、米中首脳会談が行われた当日のことだった。会談に出席したボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)は、逮捕を事前に知っていたと認めている。

逮捕の容疑は当初は明らかでなかったが、7日にカナダ検察が明らかにしたところでは、孟氏が、ファーウェイが香港に設立したダミー会社「スカイコム」を使って、2009年から2014年にかけてイランの通信会社に米企業の通信機器を納入したことが、米国の対イラン制裁法違反にあたるとの容疑だ。ファーウェイは孟氏個人による不正について、「いかなる認識もない」との声明を出している。

ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、今年4月の段階で、米司法省がファーウェイのイランでの取引について犯罪捜査を実施している、と報じていた。


米国の対中戦略の軌道修正か

ファーウェイは、次世代通信規格「5G(第5世代)」通信網の構築という中国の国策を担っている。中国政府がファーウェイに多額の補助金など支援を与え、5G網構築で圧倒的地位に立とうとする動きについて、トランプ政権は国家安全保障上の脅威とみなしており、それを強く警戒してきた。さらにトランプ政権は、ファーウェイがスパイ、サイバー窃盗などに関わっているとし、米国の通信大手がファーウェイ製品を使用することを事実上禁じている。さらに、同盟国に対してもファーウェイを締め出すよう説得しており、オーストラリア、ニュージーランド、英通信大手BTグループが米国の要請に応じている。日本政府もそれに同調する動きを見せている。

今回の事件は、中国の先端産業の成長が米国の安全保障を脅かすことを強く警戒するトランプ政権が、輸入品への制裁関税から個別企業への制裁へと対応の重点を移していく、いわば戦略の方針転換の表れ、という可能性も考えられる。中国からの輸入品に対して広範囲に追加関税を課す、あるいはその関税率を引き上げていく形で中国側に譲歩を迫る、というトランプ政権の戦略は、必ずしもうまくいっていない。また、この戦略のもとでは、トランプ政権が最も警戒する先端産業以外の製品についても追加関税が課せられ、米国企業や米国消費者にいたずらに打撃を与えてしまうという問題点がある。


ZTEへの制裁の経験から3つのシナリオ

トランプ政権は、ファーウェイの対イラン制裁法違反が孟氏個人によるものではなく、会社ぐるみの組織犯罪であるとして、今後、ファーウェイに制裁措置を発動する可能性がある。トランプ政権が、実際にそのような行動をとるのか、あるいはその後の着地点をどのように考えるかについては、中興通訊(ZTE)の制裁措置のケースが参考になるだろう。

米商務省は今年4月に、中国通信企業大手のZTEがイランと北朝鮮に対する禁輸措置に違反したとして、同社がクアルコムやグーグルなどの米企業からスマホや通信機器向け部品を調達することを禁じた。ZTEはこの制裁により、事業の大半が操業停止に追い込まれた。

ZTEは6月に、14億ドルの罰金支払いと経営陣の刷新を行うと発表し、これを条件にトランプ政権は制裁措置を解除した。トランプ政権がZTEへの制裁措置を解除した背景には、同社に半導体を供給するクアルコムなど米企業にも甚大な悪影響が及んだことがあった、と言われている。

ファーウェイに対するトランプ政権の今後の対応として、3つのシナリオが考えられる。第1に、ファーウェイに制裁措置を発動する場合には、ZTEへの制裁措置の経験から得られたように、米企業にも大きな打撃が及ぶ可能性がある。また、中国政府との対立が決定的となり、始まったばかりの貿易交渉を頓挫させてしまう可能性がある。これらの点に配慮して、トランプ政権はファーウェイへの制裁措置発動を控える、というのが第1のシナリオだ。

第2は、ZTEのケースと同様に、ファーウェイに制裁措置を発動するが、同社からの譲歩を引き出したうえで、数か月など短期間で解除するというシナリオだ。ZTEに対する制裁は、中国政府による同社への関与、あるいは米国でのスパイ、サイバー窃盗などに対して、強い牽制効果を発揮したとトランプ政権が考えている場合には、同様の効果を狙ってこの戦略が再度とられる可能性がある。

第3は、米企業にも相応の悪影響が及ぶことを覚悟のうえで、トランプ政権がファーウェイに制裁措置を発動するシナリオだ。この場合には、ZTEの場合のように、早期の制裁解除には至らないだろう。トランプ政権内では、米国企業や米国経済への悪影響を甘受しても、中国が先端産業で米国に対して優位に立ち、いずれ米国の安全保障を揺るがす事態に至ることを回避するために、対中強硬策を進めるべき、といった安全保障重視派が力を増している。トランプ政権が安全保障重視派の影響を強く受ける場合にとられる対応が、この第3のシナリオだ。その場合、米中貿易交渉に与える悪影響にも配慮はなされないだろう。

世界の経済、金融市場にとっては、第3のシナリオが最悪となる。実際には、第2のシナリオの可能性が高いのではないかと思われる。事態がどの方向に動いていくかは、早晩明らかになるだろう。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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