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11月FOMCのMinutes-Not on a preset course

2018年12月03日

はじめに

11月FOMCの議事要旨には、景気判断と政策運営に関して、これまでより慎重な見方が含まれている。先般のパウエル議長による講演とともに、利上げ方針の見直しを示唆するものである一方、留意点も残っている。なお、今回の議事要旨の冒頭には今後の金融調節についての技術的だが興味深い議論も示されているが、これは機会を改めて詳しく検討したい。


景気判断

実は、執行部とFOMCメンバーはともに、前回(9月)時点での景気判断を概ね維持している。特に家計関連については、消費とそれを支える雇用や所得、純資産が力強く拡大していることを確認している。また、住宅投資の減速は以前からみられ、ここへきて深刻化した訳ではない。

ただし、FOMCメンバーは、設備投資がエネルギーとそれ以外の双方とも減速した点に注目し、経営者のマインドは引続き堅調であるものの、貿易摩擦(関税引上げや輸出の不透明化)、投入コストの上昇、海外経済の減速懸念、国内金利の上昇といった要素が影響した可能性を指摘している。

先行きに関しても、執行部とFOMCメンバーは、2020年までは潜在成長率を上回るペースで拡大した後、2021年から減速という前回(9月)時点の見通しを維持している。その上で、FOMCメンバーは、リスク要因として、貿易摩擦の不透明性、財政刺激の持続可能性、海外経済の不透明性とドル高、インフレ期待の上昇の鈍さなどを挙げている。

この間、物価についても、執行部とFOMCメンバーともに総合インフレ率とコアインフレ率の双方が2%前後で推移するとの見方を維持している。なお、地区連銀総裁の多くが地元における雇用の困難化を指摘し、企業が未熟練者の訓練、アウトソースや自動化の拡大、賃上げ等の対応を迫られていると説明した。これに対しFOMCメンバーの多くは、マクロ的に見た賃金上昇は生産性やインフレと整合的と評価し、second round的な状況は生じていないとの見方を示唆した。

このように、11月FOMCの時点では、景気や物価の見通しを大きく変える状況にはなかったが、企業活動には気になる変化がみられ、その要因には一時的でない内容が含まれているとして、やや慎重な議論が目立つようになったと思われる。加えて、雇用のタイト化にも拘らず、企業が賃上げ以外の対応を講じたり、労働参加率が上昇したりしていることで、インフレ圧力が加速するリスクが低いとの見方も、景気の慎重論を受け入れやすくしている面があるように思われる。


金融環境

今回の議事要旨で印象的なのは、金融環境に関する議論が比較的多くなっている点である。もちろんポイントの一つは、この間の株式市場の不安定化であり、執行部は、金融市場が貿易摩擦や海外経済の先行きの不透明化と金利上昇に懸念を示したことが背景との見方を示している。

もっとも執行部は、金融市場には資産のバリュエーションに対する見直しの動きがあったとも付言しており、自律的な調整という性格も含まれていたとの理解を示唆している。加えて、株価の不安定化にも拘らず、市場による今後の利上げ予想(本年12月だけでなく、来年を含む)には大きな変化がなかった点も付言するなど、金利上昇が主たる要因ではないとの考えを示している。

もう一つのポイントは金融システムの安定である。執行部は、事業法人の負債がleveraged loanを中心に増加している点を指摘し、銀行も大企業や中堅企業向けにC&Iローンの供与を積極化しているほか、商業不動産向け与信にも前傾化している点を説明した。一方で住宅向けは、銀行の与信姿勢の強化にも拘らず、金利上昇等による需要の減退で消費者ローンとともに貸出は鈍化している点を指摘した。また、カードローンは、銀行もノンバンクも与信姿勢を慎重化しているとした。

その上で執行部は、金融システム全体のリスクをmoderate(大きくない)に維持しつつ、資産価格の再評価と事業法人の負債には高いリスク、家計負債には低いリスクを付与し、海外経済のリスクは区々との評価を示した。FOMCメンバーも、資産価格の過大評価と事業法人の負債の大きさに注意を示したほか、株価下落や金利上昇、ドル高で金融環境がタイト化した点や、商業不動産価格、クレジットスプレッド、leverage loanに注意すべきと指摘した。

このように、FOMCとしても、金融システム安定の維持に向けて、今後の調整の可能性も含めて、いくつか注意すべき点が存在することを認識している。一方で、金利上昇を含むいくつかの要因によって金融環境は以前よりもタイト化していることも認識している。


金融政策の運営

これらの議論を踏まえ、FOMCメンバーの大勢(almost all)は緩やかな利上げがデュアルマンデートの達成と整合的との考えを維持し、次の利上げを「fairly soon」として、12月利上げの方針を確認した。ただし、数名(a few)は次回の利上げ時期を不透明とし、2名(a couple of)は、既に中立金利に近い水準からの利上げは景気と物価を下押しするとの懸念を示した。

その上で、FOMCメンバーは今後の政策運営がdata dependentであるべき点を強調し、新たなデータによって景気や物価の見通しを相応に改定する場合は、利上げは予め決められた道筋で行われる訳ではない(not on a preset course)ことを確認した。そうした要因としては、金融環境のタイト化、海外経済の減速リスク、国内の金利敏感セクターの動きが挙げられた。

加えて、FOMC声明文に関して、「さらなる緩やかな(further gradual increase)」利上げを予想するとの表現の妥当性についても議論し、多く(many)のメンバーは、今後のどこかの会合では利上げに際して新たなデータをより重視する形にシフトすることが適当との判断を示した。つまり、利上げの時期や大きさは、デュアルマンデートに照らした現在および今後の経済動向によって判断するとの考え方である。

今回の議事要旨は、FOMCとして、四半期ごとの会合で利上げを続けて行うモードは終了したことを明確に示している。その主たる理由は実体経済を取り巻く不透明性の高まりと金融環境のタイト化であるが、上にみたように金融システムの安定維持の点からは、利上げの減速がむしろ副作用を持つ可能性もある。その意味でも、来年にかけてFOMCがコミュニケーションのあり方を再検討することの意味は小さくない。

Writer’s Profile

井上哲也

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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