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キャッシュアウトが米国経済の落とし穴

2018年11月28日

米国でキャッシュアウトが活況

米国では、金利の上昇傾向を受けて、利払い負担を軽減するために、住宅ローンを長期固定金利型に借り換える動きが活発になっている。この際に、あわせてキャッシュアウト・リファイナンス(以下、キャッシュアウト)がなされる割合が極めて高く、これが堅調な個人消費を支える一因となっている。

キャッシュアウトは、借り換え(リファイナンス)の際に、ホーム・エクイティの一部を現金化して、実質的に低利の消費者ローンとして利用する手段として活用されている。ホーム・エクイティとは、住宅のネット資産価値のことであり、住宅の資産価値から住宅ローン未返済残高を差し引いた額のことだ。いわば、住宅所有者の正味の持分である。

ローンの返済を進めることで、あるいは不動産価格の上昇で住宅の価値が高まることで、ホーム・エクイティは増加する。それを担保にすれば、住宅ローンの借り換え時に、ローン残高を積み増すことができる。これが、キャッシュアウトだ。

例えば、ローン残高10万ドルを借り換える際に12万ドル借り入れ、これまで蓄積したホーム・エクイティから2万ドル取り崩すことになる。形式的にはリファイナンスだが、キャッシュアウトした部分は手許に残る。これは、住宅を担保にした実質的な消費者ローンだが、通常の消費者ローンと比べれば金利が圧倒的に安い。例えばクレジットカードによる借入れでは、平均で年18%程度の利払い負担が生じるが、30年固定型住宅ローン金利は4.8%程度と4分の1程度で済む。


リーマン・ショック時と同様のリスク

2018年7-9月期には、住宅ローンの借り換え時にキャッシュアウトが行われるケースが、全体の8割以上に及んだという。そして、キャッシュアウトの規模は、146億ドルに達したという(注)。これは、年末商戦を支えることになるだろう。

このキャッシュアウトは、リーマン・ショック前にも盛んに行われていた。しかし、ひとたび住宅価格が下落すると、ホーム・エクイティは急速に縮小し、キャッシュアウト分の債務は、家計の大きな負担となった。それが消費を抑え、リーマン・ショック後の景気の悪化を加速させた面もある。そうした大きなリスクを抱えたキャッシュアウトが、再び活況となってきたのである。2006年には、3四半期連続でキャッシュアウトの規模が800億ドルを超えた時期もあった。それと比べれば、現状はまだ控えめだ。

ただし、借り換えの行動は金利先高観によって促されている一方、金利上昇自体は、住宅の新規借り入れ意欲を着実に低下させる。それが住宅の需給を悪化させ、住宅価格の下落に繋がれば、リーマン・ショック時と同様の事態に発展するだろう。キャッシュ・アウトに支えられた個人消費の堅調は、金利上昇を受けた景気減速、住宅市況悪化が近づいてきたタイミングで生じやすい、むしろ一種のウォーニング・サインと言えるのではないか。

年末商戦は堅調が予想されているが、年明け後は関税率の一段の引き上げにより物価上昇が促され、金利上昇と共に個人消費に逆風となるだろう。そうした流れをさらに後押しし、消費や景気の減速を助長してしまう可能性があるのが、現在のキャッシュアウトの活況なのではないか。


(注)"Cash-Out Refis Reach a Record", Wall Street Journal, November 26, 2018

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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