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ECBの10月政策理事会のAccounts-Next meeting

2018年11月26日

はじめに

前回(10月)のECB政策理事会では、ユーロ圏の経済と物価が、9月時点の見通しに沿って推移しているとの見方で概ね意見が一致した。しかし、議事要旨(Accounts)においては、貿易摩擦に関する議論の分量が増加した印象を受けるほか、次回(12月)の政策理事会での見通しの本格的なreviewを求める意見も注目される。いつものように内容を検討したい。


景気と物価の判断

プラート理事は、執行部説明として、世界経済の成長ペースがやや鈍化すると同時に、米国とそれ以外との間でのモメンタムの違いが明確になった点を指摘した。ユーロ圏についても、最近公表された経済指標が幾分か弱いことを認めた。

その上でプラート理事は、特定国の一時的要因(ドイツでの自動車の環境規制を巡る混乱とみられる)によって、足許で経済成長率が鈍化しているが、均して見れば景気拡大は続いているとの見方を維持した。つまり、雇用の拡大に支えられて個人消費は堅調であり、設備稼働率の高さや緩和的な金融環境の下で、設備投資の拡大も続くとした。また、ユーロ圏以外の国に対する輸出の鈍化にも歯止めがかかったと付言した。

加えて、保護主義や新興国の脆弱性、金融市場のボラティリティの高止まりによる脅威は大きい(prominent)が、景気の先行きに対するリスクは上下に概ねバランスしているとの判断も維持した。

政策理事会メンバーも、景気の中心的な見通しとリスクバランスの双方について、こうした見方を概ね共有した(broadly shared)。つまり、足許の経済指標がやや弱めであることを確認しつつも、第3四半期には輸出の減速に歯止めがかかったことを歓迎するとともに、センチメント指標の絶対水準はなお高いことを確認した。

この間、貿易摩擦の影響については、NAFTAの再交渉や米中間の対立を含めて幅広い議論が行われたが、ユーロ圏経済にとっては、自由貿易に依存する国々(open economies)との貿易に対する打撃を、米国の景気拡大による輸入増加がoffsetする可能性も含めて、現時点では限定的との理解が得られた。

一方、物価についてプラート理事は、足許で総合インフレ率は見通し対比でやや高めであるが、コアインフレ率はサービス価格の軟化を主因にやや低めであると説明した。もっとも、賃金の高い伸びや生産者物価と輸入物価の上昇を踏まえると、基調的なインフレ率の改善は続くとの見方を維持した。

政策理事会メンバーもこうした見方に概ね合意した(broadly agreed)。特に、基調的インフレ率は9月見通しに沿って徐々に高まるとの見方で一致し、その背景として賃金上昇率が予想通りに加速している点が指摘された。

ただし、ユーロ圏の多くの国では賃金の物価連動(indexiation)が重要さを失っているため、インフレによるsecond-round effectは従来より小さいとの指摘がみられたほか、賃金上昇が物価に与える効果についても、企業がマージンを縮小することで吸収するのではないかとの疑問が示された点は興味深い。

なお、貿易摩擦がインフレに与える影響については、政策理事会直後の記者会見でドラギ総裁が説明したのと同じく、需要と供給の双方に与える影響を総合して考える必要があるため、アプリオリには方向は不明確との考え方が示された。

なお金融環境については、プラート理事が株価の下落によって若干タイト化したが、なお十分に緩和的との評価を示した。また、一部国(イタリア)で国債利回りが上昇したが、これまでは他国に波及していないことを確認した。政策理事会メンバーはこうした理解を共有した上で、銀行貸出が事業法人向けを中心に伸びを高めたほか、家計を含めて資金需要が引続き堅調である点を指摘した。ただし、一部国では国債利回りのスプレッドが拡大しただけでなく、企業や家計の資金調達コストも上昇したことを確認した。


次回(12月)の見通し

その上で注目されるのは、政策理事会メンバーが次回(12月)に行う景気や物価の見通しの改訂について、早くも議論を行った点である。つまり、次回はスタッフ見通しとともに、より多くの経済指標やサーベイ結果が利用可能になるため、一時的な要因と継続的な要因の識別を含めて、深い評価が可能になる点で合意した。

特に景気の先行きのリスクについては、上下にバランスしている点を確認しつつも、経済成長を下押しする要因に関して多くの(a number of)指摘がなされた。加えて、2019年に経済成長が加速するとの見方を再検討すべきとの意見や、これまで十分に取り込まれていない貿易摩擦のユーロ圏経済へのインパクトについて、設備投資の面を含めてアップデートすることになるとの意見が示された。

こうした議論は、次回(12月)の政策理事会において、ECBが少なくとも景気見通しとその先行きのリスクについて、ある程度の下方修正に踏み切る可能性を示唆している。


金融政策の運営

プラート理事による政策運営スタンスの説明には、これまでと変化はなかった。景気と物価が見通し通りに推移すれば、年末で量的緩和を終了するが、その後も保有資産の再投資と政策金利のフォワードガイダンスによる金融緩和を維持するものである。

同時に、金融政策に関するコミュニケーションにおいては、①景気と物価は概ね見通し通りに推移し、先行きのリスクも上下にバランスしている、②物価が目標に収斂する動きに自信がある、③中期的なインフレ目標の達成には(上記の通り)緩和的な政策運営が必要である、の三点を強調するよう求めた。

政策理事会メンバーも、"patience, prudence and persistence"のキーワードで総括される政策運営に広く合意した(widely agreed)。また、コミュニケーションについても、足許の経済指標は軟調であるが、景気や物価の動きは総じて見通しに沿っていることを強調すべき点を含めて、概ね合意した(widely concurred)。

しかし、12月の政策理事会における景気見通しに関する上記の議論を前提にすると、市場がこうしたコミュニケーションをそのまま受け入れるかどうかには不透明な面も残る。さらに言えば、景気見通しを下方修正しても、物価見通しを維持した上で政策運営は従来の線を維持することも考えられる。年内の量的緩和の終了は余程のことが起きない限り粛々と実現するのであろうが、来年の政策運営に関する不透明性はやや高まった印象を受ける。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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