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米中貿易交渉とクリスマス商戦

2018年11月19日

米中貿易協議で大きな進展は難しいか

11月末からアルゼンチンのブエノスアイレスで開かれる主要20ヵ国首脳会談(G20)で、米中首脳会談が予定されている。それに向けて両国間では、貿易問題に関する協議が水面下で進められており、一時停戦のムードも出てきている。

トランプ大統領は16日、中国が米中の貿易不均衡を是正するために、142項目の行動計画を米国側に示したと語っている。また、一部報道では、今後の貿易協議の枠組みに関する合意が米中首脳会談でなされる、との見方も示されている。ただし、協議の枠組みに関する合意とは、協議の決着までになお遠い時に良く使われる常とう手段だ。

一方、両国が引き続き厳しい対立の構図にあることを示す報道もある。トランプ政権は10月に、中国からの輸入品2,000億ドル相当分に対して、10%の追加関税を適用した。税率は来年年初から25%に引き上げられる予定だが、これが予定通り実施される可能性が高い、という報道だ。また、米国側が最も期待している中国政府の産業育成計画「中国製造2025」の見直しは、中国側が示している提案には含まれてない、との報道もある。

トランプ政権の米中貿易交渉姿勢は、政権内での強硬派と穏健派の間で常に揺れ動いてきた。中間選挙直前から米中間での協議再開の機運が出てきたのは、穏健派であるムニューシン財務長官、クドロー国家経済会議(NEC)委員長の働きかけによるものだろう。しかし、同様な構図のもとで、「米中間で貿易を協議している間は、米国は中国に対して追加関税の導入をしない」という約束をしたにも関わらず、トランプ政権がそれを一方的に反故にして、中国政府の強い不信感と反発を招いた事例もある。


クリスマス商戦への影響は回避か

ところで、中国からの輸入品2,000億ドル相当分に対して、年内は10%の追加関税率の引上げ幅にとどめる決定をトランプ政権が行なった背景には、クリスマス商戦への打撃を回避する狙いがあったとみられる。2,000億ドル相当のうち、700億ドル前後を消費財が占めているためだ。

中国から輸入される消費財の価格上昇が、クリスマス商戦に大きな打撃となるとの見方は、現在のところは比較的少数派だろう。10月の米消費者物価指数(CPI)は前年同月比2.5%と高めの上昇率となったが、ガソリン価格上昇の影響によるところが大きい。食品とエネルギーを除いたコアCPIの上昇率は前年同月比2.1%と、9月の2.2%を小幅に下回った。今までの追加関税導入の影響は、統計には未だ明確には表れていない。衣料品も今回の追加関税の対象だが、10月の価格は前月比で0.1%の上昇にとどまっており、前年同月比では0.4%低下している。自転車も関税リストに載っているが、自転車を含むスポーツ用品の価格は前月比1.7%低下した。また、足もとでガソリン価格も下落に転じている。

さらに、追加関税導入前の9月に、米企業は、クリスマス商戦に関わる中国からの消費財の輸入を駆け込み的に拡大させ、在庫として持っているとも言われている。その場合、追加関税分がまだ含まれていない段階での価格で、クリスマス商戦期に消費者には商品が販売されるのだろう。商務省によると、7-9月期の輸入額は前期から年率10.3%も増加した。同時に在庫投資が膨らんでおり、企業がこうした行動をとった可能性を示唆している。

しかし、トランプ政権が年明けに追加関税率を予定通りに25%に引き上げるのであれば、輸入消費財の価格上昇が消費者に打撃を与えることは避けられないだろう。これに、大型減税の影響の剥落、長期金利上昇の悪影響、株価調整の悪影響などが加われば、年明けの米経済ににわかに減速感が広がる可能性も否定できないところだ。

他方で、米国の景気減速が、トランプ政権の保護貿易主義を見直すきっかけとなるのであれば、これは、世界経済にとってはむしろ良い材料となることも考えられる。しかし、米景気の減速感が広まっても、トランプ大統領は少なくとも当初は、それは米連邦準備制度理事会(FRB)の行き過ぎた金融引き締め策によるものだと主張し、直ぐには貿易政策を見直さないのではないか。

またトランプ政権内には、対中貿易戦争によって仮に一時的に米国経済に悪影響が生じるとしても、それは甘受すべきであり、一方、中国に対する米国の安全保障面での優位を維持する方が重要で、そのためには追加関税などで中国経済、先端産業などを叩くべきだとする、安全保障重視派の勢力が強い。

これらの点を踏まえると、仮に米国経済に減速感が生じても、それがトランプ政権の保護貿易主義を見直しに繋がるまでには、相当の時間がかかることを覚悟する必要があるのではないか。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

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