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FRBのクオールズ副議長の議会証言-Pro-cyclicality

2018年11月19日

はじめに

11月14日と15日の両日、FRBのクオールズ副議長は、新たに刊行した「 金融監督と規制に関する (半期)報告( Supervision and Regulation Report)」に基づく初の議会証言を行った。

この議会証言は、パウエル議長が行っている「金融政策報告」に関するものと双璧をなすはずであるが、米国内での報道も含めて注目度は相対的に小さかった。そこで本コラムでは、FRBの主張とそれに対する質疑のポイントを整理しつつ検討を加えたい。


FRBの主張

この議会証言の本来の趣旨は、FRBが法律によって付託された監督当局としての役割を適切に果たしていることを、議会に対して説明することにある。つまり、金融監督に関する説明責任を果たす場である。

しかし、FRBはそうした趣旨を初回からやや拡大解釈したようだ。つまり、クオールズ副議長による議会証言の冒頭説明も、それに関連して11月9日や16日に行った講演も、いずれも金融監督の見直しの合理性を主張し、具体的な内容を説明することに重点が置かれていたからである。

金融監督の見直しを合理化する上でクオールズ副議長が再三強調したのは、透明性と効率性である。中でも透明性については、説明責任の基盤であるだけでなく、金融システムの安全性や健全性にとって鍵となるとした。同時に、透明性の強化は金融機関に対して責務を明確に示すとともに、広く一般による金融システムの役割に対する信認を強化するとした。

効率性に関しては、監督当局の資源に限りがあるだけでなく、金融監督が金融機関だけでなく広く一般に対してもコストを伴うことを確認したうえで、リスクの相対的に少ない取引や金融機関に対しては監督の負担を軽減すべきとの考えを示した。

これらの考え方自体は新しいものではない。まさに金融監督に関する議会証言は説明責任の場と位置づけられている。効率性に関しても、FRBによる金融監督の見直しのベースとして、既に「経済成長、規制緩和および消費者保護に関する法律」(通称EGRRCPA)が今年成立しており、特に中小金融機関に対する規制緩和を規定している。

それでも、容易に想像されるように、こうした考え方を具体化する上では様々な議論がありうる訳である。


議会証言での質疑

金融監督に関する議会証言も、金融政策に関するものと同じく、上下院双方の委員会(上院銀行、住宅、都市問題委員会および下院金融サービス委員会)で行われる。

今回は、先の中間選挙の結果として来年から多数派が逆転する下院の方で、次期委員長と目されるウォーターズ議員を筆頭とする民主党議員による攻勢が目立った。しかし、いずれにしても、監督の見直しを支持する共和党と、それに懸念を示す民主党との対立という構図は上下院に共通してみられた特徴である。

興味深いのは、銀行の自己資本や収益が今や良好であるという基本的な事実認識の面では、両党の理解に大きな相違がないことである。その上で、共和党は下院のヘンサーリング委員長が総括したように、銀行は過剰な監督にも拘らず復活したと主張し、その裏側で経済成長を必要以上に抑制したと批判した。

これに対して民主党は、銀行が健全性を回復したのは金融危機後に金融監督を厳格化したことのプラスの効果であり、金融システムの安定性を高めた点で、経済成長を下支えしたと主張した。

この点に関するFRBの立場は微妙である。クオールズ副議長は、質疑での回答を含めて、世界金融危機前には金融監督に不十分な面があったことを認め、その後の強化が必要であったことを確認した。一方で、銀行は既に十分な自己資本を蓄積し、今後の焦点はその維持にシフトするだけに、金融監督をそれに合わせて見直すことは適切(prudent)であると主張した。

それだけに、より具体的な観点から、上下院を問わず多くの民主党議員が、FRBの提案する金融監督の緩和によって、金融システム全体ないし大手金融機関の自己資本の水準が低下することはないのかを再三質したことは合理的である。もちろん、クオールズ副議長はそうしたことがないように運用する方針を確認した。

また、民主党議員が、銀行監督の緩和に懸念を示す際に、FRBのフィッシャー元副議長に言及することが多かった点も興味深い。同氏は金融政策担当のクラリダ副議長の前任であったが、金融危機後の監督の強化を支持する立場から積極的に発言した訳であり、FRB内には現在もそうした考え方が残るものと推察される。


議論の検討

双方の考え方には合理性があり、簡単に決着しうることではない。ただし、この問題を考える上では、他にも視野に入れておくべき点があるように思われる。

第一に、金融システムの安定という最終目標を達する上では、他にも多くの課題がある。質疑で両党の議員が指摘したように、金融機関の破綻処理などのほか、クオールズ副議長が冒頭説明で取り上げた海外当局との調整も重要なポイントになる。

また、銀行に厳格な監督を行う一方で、シャドーバンキングに対するカバーが十分でないとすれば、対応を急ぐべきである。前稿で述べたように、FSOCの枠組みが十分機能しない懸念があるならば、実態的にはFRBがその役割を担うことが考えられる。

第二に、金融監督における透明性の扱いにも議論の余地が残る。説明責任の重要さを含め、クオールズ副議長が主張したメリットには異論の余地はない。しかし、監督の具体的内容を透明化することによる金融機関への影響については、副作用も含めて相応の慎重さも必要かもしれない。

第三に、タイミングの問題である。筆者も銀行監督を強化し続けることに疑問を持ち、現地当局とのこれまでの面談では意見が合わないことも多かった。また、銀行システムが十分に頑健になったので見直しをする考え方自体は合理的である。

その上で、シャドーバンキングを含むストレスの兆候がみられ始めた現在から将来に向かって監督の緩和が具体化していくことには、若干の心配も感ずる。金融危機後の金融監督にとって大きな課題となったpro-cyclicalityをむしろ強めるリスクもあるからである。 FRBには金融システムの状況に即した柔軟さが求められる。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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