1. HOME
  2. ナレッジ&インサイト
  3. 研究員の時事解説
  4. 木内登英のGlobal Economy & Policy I…
  5. 大戦終結100周年でナショナリズムとの闘い

大戦終結100周年でナショナリズムとの闘い

2018年11月13日

仏大統領、独首相はナショナリズム台頭に警鐘

第一次世界大戦の終結100周年記念式典が11月11日にパリで開かれた。主催したフランスのマクロン大統領は、世界に広がる反国際協調、ナショナリズムの高まりに強い警戒感を示し、2度の世界大戦の教訓が活かされるようにとのメッセージを世界に発信した。

1914年から1918年まで続いた第1次世界大戦では、兵士だけでも約1,000万人が犠牲になったといわれる。今回の式典は、大戦で死亡した無名戦士の墓がある凱旋門で行われたものだ。

マクロン大統領は、「『われわれの利益を第一に』と言っていては、他者を思いやるといった大切な道徳的価値観を失ってしまう」、「ナショナリズムは愛国心とは全く逆のもの、愛国心の裏切りだ」、「時には歴史は、悲劇的な道を呼び戻し、我々の先祖が血を流すことで築き上げた平和という財産を脅かす」、等と述べた。さらに、ナショナリズムの台頭を、「古い悪魔が再度目覚めつつある」と表現したことも注目を集めた。これらは、米国のトランプ政権の米国第一主義を強く念頭に置いたメッセージだったとみられる。

式典の後には「パリ平和フォーラム」が開かれ、ドイツのメルケル首相はマクロン大統領に同調するかのように、「我々は平和を当然のものと思う。しかし、視野の狭いナショナリズムが再び力を増していることを私は心配している」、「孤立は100年前には正しい答えではなかった。これだけお互いに結び付いた世界で、孤立することは賢くない」などと発言している。

フォーラムには、国連のグテレス事務総長らも出席し、「妥協する精神が弱まり、共同体のルールが軽視されている」と警鐘を鳴らし、国際協調の重要性を改めて説いた。


トランプ政権は中間選挙後も米国第一主義を維持

式典では、各国首脳らはバスでシャンゼリゼ通りに着き、その後、会場となった凱旋門まで並んで行進した。一方、トランプ大統領は別行動をし、遅れて会場に到着した。

トランプ大統領は、前日の10日に、パリから約85キロ離れた激戦地ベローにヘリコプターで移動し、米兵の追悼式典に参加する予定だったが、悪天候を理由に取りやめた。雨天は予想できたはずで、予備プランを持っておくべきだった、との批判が出ている。

また、マクロン大統領が6日のラジオ番組で、「中国とロシアからだけでなく、米国からも自分たちを守らなければならない」と、米国抜きでの「欧州軍」創設を訴えたことに対して、トランプ大統領は9日に「非常に侮辱的だ」とし、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国に国防費を増やすよう改めて求めるなど、米仏関係にも軋轢が生じていた。

トランプ大統領は9月の国連総会で、多国間主義よりも愛国主義を優先する考えを強調するなど、米国第一主義を前面に打ち出した。11月6日の中間選挙では下院で議席の過半数を民主党に奪還されたばかりだが、第一次世界大戦の終結100周年に前後したトランプ大統領の一連の言動は、中間選挙後も米国第一主義の方針を変える考えがないことを、世界に宣言した形となった。


欧州の自国第一主義拡大も経済・金融に悪影響

仏大統領、独首相のナショナリズム台頭への警戒は、トランプ政権に向けられた面が強かったとみられるが、欧州自身もナショナリズムやポピュリズムの台頭に直面していることを忘れてはならないだろう。

2019年3月の英国の欧州連合(EU)離脱は、自国第一主義の表れだ。2016年の国民投票でEU離脱を呼び掛けた政治家は、離脱に伴う大きな経済的な痛みではなく、移民抑制などの国民が関心を持つ目先のテーマに国民の目を向けさせるよう誘導した。これは、ポピュリズム的な政治手法だ。すでに現状においても、離脱に伴う大きな不確実性が、企業の設備投資の見合わせやポンド安に伴う物価高を通じて、英国経済や世界の金融市場に打撃を与えている。

また、イタリアでは、2018年5月に成立した「五つ星運動」と右派「同盟」というポピュリズム政権からなる連立政権が、財政拡張路線を撤回せず、財政規律に関するルールに従うよう働きかけるEUとの間で対立が続いている。

欧州各国における多くのポピュリズム政党は、移民への厳しい対応で国民からの支持を獲得し、また所得格差問題をアピールしつつ、さらにEU離脱や財政拡張といった政策方針へと結びつける傾向がある。企業と労働者、あるいは個人間での所得格差問題はやや誇張されている面もあるように思うが、ポピュリズム政党は、それへの対応を名目に、企業から家計へ、高額所得者から低額所得者への所得再配分政策を推し進めようとしている。その際には、所得再配分のみならず、拡大均衡的に財政拡張策がとられやすい。

そうした税制・財政政策は、賃金、インフレリスクを高め、必要以上に引き締め的な金融政策を招きやすい。他方で財政環境の悪化は、(実質)長期金利の上昇を招く。これらは、実体経済に悪影響を与えると共に、長短金利の上昇は、債券市場の歪みを一気に解消させる形で、世界の金融市場にも深刻な打撃となりかねない。

欧州主要国、特にドイツとフランスは、経済・金融市場の安定、国民生活の安定の観点から、域内でのナショナリズム、ポピュリズムとの闘いを進めなければならないだろう。

Writer’s Profile

木内登英Takahide Kiuchi

金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
専門:内外経済・金融

この執筆者の他の記事

木内登英の他の記事一覧

このページを見た人はこんなページも見ています